始祖のプライド
あれからたっぷり五日掛けて、帰ってきました!サイラン!
本当はもっと早く着けてた筈なのに…サリアさんが毎晩、私が眠るときに耳元で「サーラちゃんの可愛い姿見たいなぁ…」なんて恨みがましく言うもんだから寝不足で飛ぶのが遅くなっちゃった。
恐るべし、サリアさんの執念!
呪われるかと思ったよ。
とまぁ、それはともかく、無事にサイラン国主都へ着いた私達は門番のお兄さんにギルドカードを見せて、すんなり町へと入ることができた。
あ、門番のお兄さんは以前の人じゃ無くなってたよ!よかった。
そんな事を思いながら、サリアさんと歩いて王城へ向かっていた私の耳に、人が言い争っているような声が聞こえてきましたよ。
(ん?なんか騒がしい?ここは迂回したほうがよさそうかな…)
言い争いが起きていると思われる場所には人が群がっていて、道を塞いでしまっている。
「サリアさん、違う道で行きましょうか?」
「そうね。…っ!!ちょっと待って!」
回れ右をしようとした私にサリアさんから制止がかかる。
え?何事!?って動かずにいたら、サリアさんが騒ぎの中心へと走っていってしまった。
ポカーンとアホ面を晒しているわけにもいかないから、勿論追いかけましたよ!
「すみません、ちょっと通してください…え!?」
人混みをかき分けて辿り着いた現場を見て私は絶句した。
だって少女を三人のエルフの男性が囲んでるんだもん。
しかも少女を庇う…というか取り押さえる?ようにサリアさんが立ってるし。
ちょっと待って…状況が全然わからないんですけど!
「落ち着きなさい!マリア!」
「だって、お姉ちゃん!こいつら私の事バカにしたんだよ?吸血鬼ごときがって!」
「ふん!吸血鬼ごときが堂々と道を歩いているから悪いのだ!」
「そうだ!吸血鬼の分際でエルフである我々に道をあけぬのが間違いなのだ!」
「エルフこそがこの国の法律。我々に逆らった罪は重いぞ!」
えーっと…つまり、このショートカットのボーイッシュな女の子はサリアさんの妹であると‥…え?妹!?
っと、まぁ、それは置いといて、このエルフ男性三人に道をあけなかったから言い争いが起きてるってわけだね。
それはいいとしてもさ、こいつら『吸血鬼ごとき』って言ったよね?
しかも三人のうちの一人は見覚えがあるんだけど…前に私にも突っかかってきた門番のお兄さんだよね…うん。ヤっちゃっていいかな…。
始祖の記憶が怒り狂ってるのがわかる。
吸血鬼をバカにされたことに対して。
貶められたことに対して。
「サーラちゃん!ダメよ!」
サリアさんの制止も聞かず、私はその感情のままに、自分の体から大量の魔力を放出させた。
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Side ユリク
騎士団の練習場で鍛練をしているときにそれは起こった。
町を…そしてこの町を覆っている結界さえも消してしまいそうな魔力の奔流。
事実、この魔力量で攻撃魔法を放たれたらこの町、いや、この国は間違いなく一瞬で消えるだろう。
結界は先代の王である父が張ったものだ。
歴代のハイエルフ最強とも言われた父が…。
一体何が起きている?
それにこの魔力は……
「だ、団長!町で騒ぎが!このままでは…」
騎士団副団長であるナスカが息を切らして練習場へと飛び込んできた。
俺の姿を見つけて駆け寄って来たはいいが、力なくその場に崩れ落ちた。
どうやら魔力に当てられたようだ。
責めることは出来ない。
ハイエルフである俺でさえ気を張っていなければ崩れ落ちてしまいそうなのだから。
「ご苦労だった。後は任せろ」
意識を失った部下へと声を掛け、俺は走り出した。
この純粋で穢れを知らない魔力の持ち主の顔を頭に思い浮かべながら。
Side Out
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