サイランへ行く前に
「うー、頭痛が痛いー」
「……大丈夫?」
「頭痛が痛いって…始祖様は言葉が不自由なのか…?」
ガンガンと頭に響くような痛みに呻きながら、ヨタヨタと空を飛ぶ私に向けられた言葉に答える気力もない私は頭を押さえて羽根を動かす事に集中していた。
あ、一応、マクシミリアンは睨み付けておきましたよ!
後で覚えておくがいい!フフフ…
おっと、危ない。また脳内トリップするところだったわ。
それにしても…お酒って怖いね。
どうやら私は酔い潰れて、朝方から昼過ぎまで寝てたらしい。
で、目が覚めた途端、頭痛に襲われたわけだ。
これが所謂、二日酔いというものだと気付いたのは、吸血鬼は病気にならないって大前提があったからだけどね。
じゃなきゃ、なんかの病気かとガクブルしてた自信がある。
だってお酒飲んだことなかったし、ましてや酔い潰れたことなんてなかったもん。
大人って大変なんだなぁ…なんて考えながら痛みに呻く私に、バルさんが『もう一泊していくかの?』って言ってくれたけど、丁重にお断りした。
だってまた宴会とか始まりそうだし、何よりもクゥと離れづらくなるから…。
種族は違えど、私を母親だと思ってなついてくれるクゥと離れるのはやっぱり辛いのだ。
そう思って、魔物が活動する夜にならないうちに里を後にしたはいいものの……うるうるしながら私と離れたくないかのように鳴き続けるクゥの鳴き声が頭から離れない。
「サーラちゃん?クゥちゃんとはまた会えるわ。だから今はやるべき事をしなきゃ!そして早くクゥちゃんを迎えに行けるようにならなきゃね!」
そんな私に向けて、サリアさんが掛けてくれた言葉に、私は力強く頷いた。
うん。そうだよね!早く使命を果たしてクゥを迎えにいこう!
そう決めた私は、呻くような頭の痛みが消えていることに気づく。
我ながら現金な奴である。
里をたって一日、二日、三日と過ぎる内に、私は違う問題に直面していた。
三日目の夜、野宿する場所を決めた私とサリアさんは顔を見合わせ頷き合う。
「ねえ、マクシミリアン?あんたいつまで着いてくるわけ?」
そう、マクシミリアンが全く離れる素振りを見せないのだ。
いやね、ドラゴンさんたちの迷惑になると思って里から連れ出したのはいいんだけどさ、このまま私の旅に同行させるつもりは更々ないし、かといって、どっかに置いていくのは不安だし…。
またどっかで戦ってたりしたら面倒だしね。
そんな事をサリアさんと話しながらどうしようか悩んでたんだけど…
「ん?俺は始祖様に着いていくぜ!女の二人旅なんて心配だしな!」
とか抜かしやがりましたよー!!
お前がいる方が心配だよ!と言いたい気持ちを何とか抑えながら、私は考える。
(うーん、この辺に置いてくのも不安だしなぁ…かといって…ナディア…は今はなんか忙しそうだし…あ!いいこと思い付いた!)
ニヤリと笑う私にビクリと体を震わせたマクシミリアンに私は言った。
「ねぇ、あんたさぁ、強い相手と戦いたいんだよね?」
「あ、ああ、そうだぞ?」
「じゃあ、いいこと教えてあげるよ!あのね…」
ニコニコしながら飛び立つマクシミリアンを見送った私は肩の荷がおりたことにホッと胸を撫で下ろした。
「さ、サーラちゃん?いいの?」
「ん?いいんですよ!一応、言付けも頼んでおきましたから!」
「それにしても…帝国の魔術師団長の所に行かせるなんて…」
唖然とするサリアさんの様子を不思議に思いつつ、私は眠る為に体を横たえる。
マクシミリアンに言ったのは、『帝国の魔術師団長はめちゃくちゃ強い』ってこと。
頼んだ言付けは…あー、まぁあれだ、『マクシミリアンの相手をしてくれたら申し出について考えてもいいよ?』ってことだ。
申し出って言うのは婚約のことなんだけどね、考えてもいいっていうのはOKしたわけじゃないからね!ここ重要!!
そんな事を考えながらも、睡魔に抗えず眠りについた私はサリアさんの呟きに気付くことはなかった。
「帝国魔術師団長って…吸血鬼最上位だったコールセン家の子息でしょ…下手したら帝国が焦土になるわよ…」
ダメだー!
スランプ&風邪でござります。