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その頃サイラン国にて(ユリク視点)

明けましておめでとうございます。

駄文ながらこれからも頑張っていきますので、今年もよろしくお願い致します。

「ユリク、騎士団員からお前の様子がおかしいと報告があがっておるがどうかしたのか?」


国王でもある兄に執務室へ呼び出された俺は、開口一番に尋ねられた言葉に目を見開く。

言葉とは裏腹に楽しそうな兄の表情に、嫌な予感が膨らむのがわかった。


「王、いえ、兄上、わかっていてそれを尋ねるのですか?」


わかっているんでしょう?と暗に告げればニヤリと口角を上げる兄に、思わず溜め息がもれる。

わかっていてこんなことを聞いてくるのだ。

どうせ騎士団員から報告など上がっていないのだろう。

昔からこの人は本当に変わっていない。

王になるべくして生まれながらも、小さな頃からいたずら好きで、よく俺はそれに付き合わされた。

城から抜け出して、共に森へ狩りへ行ったときなど、二人揃って母上によく叱られたものだ。

父上は「私に似たのだな…」と呆れながらも笑っていたが…。

そんな昔の事を思い出しながら、俺は思わず笑みを深めた。


「全く…兄上には隠し事も出来ないのですね」


「当たり前だ!二人きりの兄弟だぞ?お前の気持ちなど手に取るようにわかるわ!」


父上と母上が亡くなってから、二人きりとなった家族。

だからこそ、俺たち兄弟はお互いの感情に敏感だ。

ハッハッハと笑いながらも得意気に話す兄にお手上げとばかりに俺は両手を上げる。


「兄上…俺を許してくれますか?」


「当然!ハイエルフの血は私が残す。私が無理でも従姉妹がいるのだ。お前の恋路を邪魔立てするほど無粋ではないぞ?!」


「ありがとうございます、兄上。」


自然と涙が流れる。

兄上はそう言ったが、ハイエルフである者は血を薄める事は禁忌だ。

何故なら…この国は薄氷のような秩序の上で成り立っているから…。

ハイエルフを王族として、エルフや獣人族、ドワーフなどの多種多様な種族が暮らすサイラン国。

一見、平和そうにみえるこの国も内部でのいさかいは絶えない。

エルフこそが至上だと思い込む者、獣人族を獣だと蔑む者、悲しいことだがそういった考えの者は居なくならない。

それを束ね、絶対的な上位に立つのが、魔力、知力、そして寿命、全てにおいて高い能力を誇るハイエルフなのだ。

ハイエルフが居なくなれば、この国は争いが絶えない国になるだろう。

それほどに、他種族によって心が傷つけられた者がこの国には多い。

だから俺も…ハイエルフとして子を残すために他種族に恋心を持つなど考えられなかった。

そう教えられてきたのだ。

それなのに…


「兄上…」


「おい、泣くなよ…私は昔からお前に泣かれたら弱いのだ…」


そういえば兄は昔から俺が泣くと、いつも困った顔でオロオロしていたな…。

本当にこの人は変わらない。

今も昔も自慢の兄だ。きっとこれからもずっと…。


「ありがとうございます。兄上、頑張ります!」


「お、おう!その意気だ!私も応援するからな!」


笑顔でそう言う兄に背を向け、執務室を後にする。

思い出すのは、数日前に出会った吸血鬼の少女の姿。

エルフ至上主義であろうと思われる門番に喰ってかかっていた少女。

彼女を見たときに、俺は雷属性の魔法で撃たれたような衝撃を受けたのだ。

余りにも純粋で膨大な魔力、ハイエルフである俺が畏怖さえ感じるほどの生命力。

そしてどこか寂しそうな銀色の瞳に目を奪われた。


「始祖…か…」


自然ともれた呟きに苦笑しながら廊下を歩く。

王族にのみ伝わる極秘書に書かれていた内容とは余りに異なる『吸血鬼始祖』の姿。

その瞳に俺を映して欲しいと願うのは、無理な話なのかも知れない。

それでも俺は…


拳を握りしめながら騎士団の練習場へと向かう。

極秘書の内容が嘘であって欲しいと願いながら…




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


膨大な書が眠る王城の図書室にその本はあった。

王に連なる者にしか読むことの出来ぬ様、いくつもの術式が掛けられたその本の一節にはこうあった。


『吸血鬼始祖の現れる時代、世界に災厄が訪れ、人々は絶滅の危機を迎えることになるであろう。それを避けるには…』


その先は紙の劣化によって読めないが、この内容は読んだ者に不安と恐怖を与えるには充分すぎるものだった。




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