自分の姿
適当に歩けば町に着くんじゃね?
そう思っていた時期が私にもありました。はい。
現在、プチ遭難中でございます。
まぁ、パンは硬いし、水は不味いけど、一応食料や水は残ってるから遭難って訳じゃないんだけどね。
ならばなぜ遭難?
答えは私の状態にあった。
盗賊みたいな男たちから逃げ出して、「さあ行こう!」と意気揚々と歩き出したのはいいんだけど、日が高くなるにつれて、なんの因果か私の体から力が抜けていくんだよ。
体が小さくなっただけでも歩幅が小さくて道を進むのが大変なのに、この異常な具合の悪さで休憩することになった。
「大丈夫ですか?はい、これ。」
木陰で休む私に猫耳娘が水を用意してくれた。
それを有り難く受け取って、暫し考えをめぐらせる。
(何でこんな具合悪いんだろ。風邪?まさか水が合わないとか?)
うーんうーんと唸っていると、猫耳娘が心配そうに私を覗き込み…信じられない言葉を吐いた。
「大丈夫ですか?吸血鬼の方にこの天気はさすがにキツいですよね…」
(ん?ちょっと待て!今、猫耳娘は何と言った?!落ち着け私!よし!まずは質問から。)
「…吸血鬼って?」
私の声は震えていたと思う。
でも猫耳娘はそんなことには気付かずケロリとした顔でこう答えた。
「魔法使いのお姉さん?えっと…」
「桜」
「え?サーラさん?」
「さ・く・ら」
「サーラ?」
「まぁ、いいやそれで。で?」
どうやら日本名である桜という名前は発音しづらいらしく、サーラとなってしまったが、そんなことはどうでもいい。私は猫耳娘に続きを促した。
「あ、はい。サーラさんは吸血鬼ですよね?羽根は背中なので洋服で見えませんけど、その銀色の瞳といい、日の光が弱いところといい、吸血鬼かと思ったんですが…違うんですか?」
!!!なんてこった!
異世界トリップして、体が小さくなっただけでも、脳の許容範囲を軽くオーバーしてるというのに吸血鬼?!まさかの展開過ぎる!
銀色の瞳かどうかは定かではないにしろ、日の光が強くなっていくのと並行して具合が悪くなっていったのは紛れもなく事実だ。
それに猫耳娘が嘘をついている様には見えないし、嘘をつく理由もない。
今だって、何も言えない私を伺って困惑しているようだし…。
「あのー?」
何も言わない私を不審に思ったのか猫耳娘が私に声をかけると同時に、私はガバッと起き上がり、猫耳娘の肩を正面から両手で掴む。
「猫耳娘!私の瞳は銀色なのね?」
「え!?あ、はい。猫耳娘って‥私はミーナって名前が…」
「じゃあミーナ!ちょっと確認してほしいことがあるんだけど。」
そう猫耳娘もといミーナに断りをいれた私は服を脱ぎ背中を見せた。
露出狂というわけではない。
羽根があるかを確認してもらうためである。
「え!いきなり何ですか!?」
「羽根!羽根あるか見てほしいんだけど。」
「あ、はい。ありますよ。漆黒の蝙蝠羽根が!うわぁー私初めて見ました!」
何だか興奮している様子のミーナはひとまず放っておいて、私は考える。
(吸血鬼って人間の敵?味方?どっちの位置付けなんだろう)と。
重要なことなのだ。
迫害もしくは、人類からみて敵なのだとしたらバッドエンド真っ逆さまなのだから。
「ねぇ、ミーナ、吸血鬼って珍しいの?んでもって人間とはどういう関係?」
「あ、すみません。私としたことが興奮してしまって…えっと…私も詳しくは知らないんですけど、吸血鬼の方はとても珍しいと聞いています。実際見たのは初めてで、物語で読んだだけなので…。でも帝国には吸血鬼の方が束ねる魔術師団があるって聞いたことがありますから、人間とは敵対してないと思いますよ」
よし、バッドエンドはギリギリ回避した。
それにしてもミーナは色々と詳しすぎやしないだろうか?
「そっか。教えてくれてありがとね。ところでミーナ、あなた色々詳しくない?」
「どういたしまして。あ、言い忘れてたんですけど、私は冒険者ギルドの職員なんです。だから色々と情報が入ってくるんですよ。」
成る程。
といぅか、冒険者ギルド!!
ファンタジーに付き物のあれか?!
となると…町まで行けばお金の心配はいらないってこと?
「ね、ねぇ、ミーナ、冒険者ギルドって私でも登録出来るのかな?」
年齢制限があればアウトだ。
どう考えても今の私は大人とは程遠い。
むしろ子供である。
恐る恐るそう尋ねる私にミーナはニッコリ笑ってこう言った。
「サーラさん程の魔法使いなら大丈夫ですよ!年齢も…恐らく大丈夫ですし。」
よっしゃ!
とりあえず第一関門突破!
空を見れば日はだいぶ傾いてきている。
そうと決まれば後はギルドがある町へ行くだけだ!
「ミーナ!もう体も楽になったし出発しよう!今すぐ!」
「あ、はい。」
ミーナを急かしながら歩く私は完全に浮かれ、ミーナがポツリと呟いた言葉が聞こえていなかった。
「吸血鬼の人って何千年も生きるっていうけど…サーラさんって幾つなんだろう…」