ナディア国の異変(カルロス視点)
番外編です。
お気に入り2000件記念閑話です。
読まなくても本編に支障はありません。
嫌な人は飛ばしてください。
ナディア国の第二王子として生を受け18年が過ぎた。
国王である父ダンヒルと側妃である母サリアの愛情を受け、幸せな毎日。
いつからだろうか…この王城内でおかしな事がおきはじめたのは…。
いや、もしかしたら俺が産まれる前から…もうそれは始まっていたのかも知れない…。
諜報員から受け取った書類を机へ放り投げ、椅子に深く腰掛けた俺は溜め息と共に目を閉じる。
「はぁ、まさかここまでとはな…」
呟くように吐いた言葉は思った以上に部屋の中に響いた。
書類の内容は、ここ最近目障りになってきた暗殺事件の全容だ。
『一連の暗殺事件の犯人は妃であるリーザ様。サリア様の変わらぬ美貌を妬みご乱心。更には自らの子である第一王子グレイス様を国王に据える為、国王様の暗殺も企てている様子…』
何枚にもわたる書類には他にもいろいろな事が書かれていたが、目を通す気にもなれない。
第一王子であるグレイスは俺と弟にとって良き兄だ。
国民にも人気があり、ゆくゆくは国王として即位することに反対するものは居ない。
一部では穏やかすぎる気性を懸念する声も上がっているようだが、戦のない今の世で、それは反対する理由にはなり得ない。
問題は、グレイスの母であるリーザだ。
「目立ちたくないのよ」との母の言葉から国民には伏せてはいるが、俺の母が吸血鬼なのは城で働く者なら誰しも知っている事実。
勿論リーザも例にはもれない。
長寿を誇る吸血鬼ならば姿と年齢が比例しないのは当然のことだ。なのになぜ妬む…。
それにリーザは国王を愛していた筈なのに暗殺しようなど馬鹿なことを…。
「女心はわからんな…」
「僕もその意見に賛成だね」
独り言に返事が返って来たことに驚き、目を開ければ見知った顔の少年が立っていた。
「アイザック、居たのか…」
「うん、今来たんだ。少し報告したいことがあってね…」
「なんだ?」
「サーラ様から魔導鏡で連絡があったよ。どうやらサリアと会えたみたいだ」
「っ本当か!?」
身を乗り出したことで椅子から落ちそうになった俺を見てアイザックは呆れた顔をした。
「はぁ、本当に君はサリアが大好きなんだね。あ、サーラ様もだっけ?」
「当たり前だ!母上ほど完璧な女性など……いや、サーラさんが居るな…」
サーラさんと初めて会ったときの衝撃を思いだし、俺は頬を緩ませる。
暗殺者の襲撃にあった街道に突如空から現れたサーラさん。
年端もいかない少女の姿をしていながら膨大で…そして無垢な魔力を纏った始祖様。
半分しか吸血鬼の血が入っていない俺にですら感じられたあたたかな母性。
『欲しい』と思った。この少女が。
俺の側にいて欲しいと想い焦がれる女性にようやく出会えたのだ。
「ねぇ、ニヤニヤしてるとこ悪いけど…サーラ様は渡さないからね?18年しか生きていない子供なんかには。」
「なんだと?!俺だって渡さないぞ!爺にはな!」
「爺だって!?僕はまだ2000年しか生きていないんだ!俺が爺なら同い年のサリアだって婆じゃないか!」
「母上はいいのだ!」
アイザックと言い合いをしながらサーラさんに想いを馳せる。
そうか、母上と無事会えたのか…良かった。
それにしても純血の吸血鬼であるアイザックが恋敵とは…厄介な…。
まぁいい。俺は俺のやり方でやらせてもらうさ。
その前に…まずはリーザをどうにかしないとな。
「アイザック、グレイスを呼んでくれ!続きはまた今度だ!」
「ふん、わかったよ。じゃあ行ってくる。」
幻影の魔法で姿をかえたアイザックが扉から出ていくのを見送った俺は、グレイスにどう伝えるべきかと考えを巡らせる。
穏やかな性根のグレイスのことだ。
俺や弟が暗殺されそうになったことを話せば、きっと協力は惜しまないだろう。
「はぁ、頭が痛いな…」
俺は眉間を指で押さえ、一人ごちた。