母親
アイスブルーの瞳をうるうるさせて私を見上げるちっちゃなドラゴン。
うん。よく見たら羽もあるし、大トカゲじゃないことはわかるんだけど…なぜに私はガン見されてるのでしょうか?
「えっと…バルさん?」
私が助けを求めると、バルさんは大きな溜め息をついた。
おぉぅ!溜め息で体がよろけたけど今はそれどころじゃないよね。
『どうやらサーラ嬢ちゃんを親だと思っておるようじゃな』
ホワッツ?
これが巷で言う刷り込みというやつですか?!
それから暫く、私の疑問に答えるべくバルさんのドラゴン講義が続き、それを聞き終えた私は頭を抱えていた。
なんでも、ドラゴンは産まれるのに魔力を必要とするらしくって、私は知らず知らずのうちに魔力を与えていたようだ。
『ドラゴンともなれば相当な量の魔力を必要とするはずじゃが…サーラ嬢ちゃんなら問題ないじゃろうな…』ってバルさんは呆れたように言ってたけど、ええ、全くその通りです。
それどころか、魔力を与えてたことすら気付かなかったよ…。
なんてったって測定不能の魔力量だからね。
ちょっと減ったくらいじゃ気付かないもん。
そんなことより問題は…【魔力を与えてくれていた者を母親だと思う】っていうことでさ。
つまり、私が母親認定されてるって事実なんだよね…。
卵を拾ったんだから育てるのは当たり前だとは思うけど、私にはやらなきゃいけないことがある。
それに…ドラゴンの生態とか全く知らない私じゃ上手く育てられる自信もないし…。
そんな事を考えているとバルさんから驚きの提案が上がった。
『サーラ嬢ちゃん、この子を儂に預けてくれんか?』
「え?」
『恥ずかしい話じゃが、我々ドラゴンの中には【はぐれ】と呼ばれる人に害をなす者もおる。いくら幼いドラゴンでも恐怖の対象となり得ることもあるのじゃ…』
「そうね。サイラン国は200年前にはぐれドラゴンに襲撃されているわ。」
『サリア嬢のいう通りじゃ。情けない話じゃがの。今後、旅を続けるのならこの子の存在は間違いなくサーラ嬢ちゃんの足枷になる。町に入れないやもしれん。じゃから…』
「…わかった。バルさん、この子をお願いします。必ず…必ず迎えに来ますから!」
『キュイ?』と首を傾げるちっちゃなドラゴンの頭を撫でながら私はそう答えた…筈なんだけど…どうしてこうなった!?
いや、それからチビちゃんに「クゥ」って名前をつけたり撫でたりして親子?の楽しい時間を過ごしたあと、そろそろ行かなきゃって後ろ髪引かれる思いで洞窟から出ようとした私とサリアさんにバルさんが言ったんだよね。
『空を飛びたい』って。
前に来たときも言ってたし、体が良くなったから飛びたいんだなーなんてぐらいに思ってたんだけど、なぜか背中に乗ってくれって言うんだよ?!
一瞬、何で?って思ったけど、ドラゴンに乗れる機会なんてもう二度とないかもしれないから、私とサリアさんは喜んで乗ったんだよね、勿論クゥも一緒に。
ちょろっとその辺散歩でもするのかなーなんて最初は思ってた私達も、30分くらい経って、なんかおかしいって気付いたわけ!
だって国境越えても飛び続けてるからさ、降りる気配もないし。
だから恐る恐る聞いてみたんだよ。
「バルさん?えっと‥…どこに向かってるの?」
『ふむ。ドラゴンの里じゃが…ん?言ってなかったかの?すまんすまん』
うん。聞いてないし。
てか、なんだかバルさんの声が楽しそうなんだけど…。すまんすまんって…全然悪いと思ってないよね?
あー、なんか私達、ドラゴンの里へ連れていかれるようです。