年齢不詳
卵を拾った日の夜、上空から発見した村に降り立ったはいいものの、私は困っていた。
村で一軒しかないという宿屋のおかみさんの「お嬢ちゃん一人かい?お父さんやお母さんは?子供を一人で泊めることは出来ないんだ。すまないね」という一言によって。
(どうしよう…ギルドカードを見せるか?でも測定不能って逆に怪しいような…うーん、困った)
村の入り口で立っていた虎耳お兄さんは「珍しいな吸血鬼か!」って言いながらにこやかに宿屋を紹介してくれたから大丈夫かと思ってたのに、宿屋のおかみさんは人族だったっていう…。
亜人種が多い国とはいえ、村の宿屋のおかみさんが冒険者ギルドで働くミーナのように吸血鬼の寿命や特性を知っているとは思えない。
「吸血鬼なんですぅ」「そうかい、なら平気だね」なんて会話にはならないだろう。
18才でした。ちょっと前まではなんて言ったら、それこそ変人扱いされるのが落ちだよね。
うん。私が逆の立場だったらそうだもん。
そんな事を考えながら途方にくれていると、さっき村の入り口で会った虎耳お兄さんが宿屋に駆け込んできた。額には汗が滲んでいる。
「あ、お兄さん」
「おや、ジークどうしたんだい?そんなに急いで」
宿屋のカウンターの前で立っている私とおかみさんを見てジークと呼ばれたお兄さんは溜め息をついた。
え?どしたの?
「マギーさん、そのお嬢ちゃんは吸血鬼だ。見た目通りの歳じゃない。もしかしたらマギーさんより年上かも…」
なんと!それを言うために来てくれたのですか!
虎耳お兄さんもといジークさん、助かりました。
ビバ虎耳!猫耳が至高だと思ってたけど、今日から虎耳も追加しますよ!
ってかさ、ありがたいんだけど…おかみさんより年上ってちょっと言い過ぎじゃない?
おかみさん、どう見ても40過ぎなんだけど!
やっぱ虎耳、ちょっと保留で!
そんなこんなで宿屋には無事泊まれることになったよ!良かった。
ちょっと年齢のことで乙女心は複雑だけど、ジークさんには感謝だ。
まぁ、実際、実年齢がいくつなのかわかんないしね。なんたって測定不能だし?
ってことはアンディもアイザックもキラキラ王子もロリコンじゃないってことか?
いやいや、それを認めたらなんか大変なことになりそうな気がする!
笑顔の三人を思い浮かべて寒気を感じた私は、気をまぎらわせようとベッドへダイブした。
「あーふかふかー。三日ぶりのベッドだぁー。野宿もアウトドアっぽくていいけどベッドには敵わないよね!…あ、やば!卵割れてないよね!?…良かったぁセーフ!」
私の体の下敷きになったウエストポーチから卵を出してベッドの上へ置いた私は思案する。
(卵ってあっためるんだっけ?前にテレビで観た気がするんだけどなー…うーん…とりあえずあっためるか…)
実は卵をあたためようとしたのは、これが初めてじゃない。
昔、ヒヨコが欲しくて冷蔵庫の中の卵をあっためたことがある。
何日経ってもヒヨコが産まれてくることはなかったけどね。
それどころか一ヶ月くらい経っても産まれてこない事を不審に思って殻を破ってみたら、すごい腐臭がしてビックリした。
そんな事を思い出しながら、脈動している卵を抱いて横になると、すぐに睡魔がやってきて…私はそのまま眠りに落ちた。
私の魔力をほんの少しずつ吸収している卵に気づくことなく…。
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皆様ありがとうございます。
感謝の気持ちを込めまして、視点変更での閑話を書きたいと思います。
詳しくは活動報告にて。