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脱出


悩むことをやめてから一時間ほど経った今、私は一人魔法の練習に夢中になっていた。


(我ながら新しいオモチャを与えられた子供みたい)


とのんきなことを考えながら。


始まりはガタガタと揺れるこの部屋、いや、恐らく馬車だが、その振動にお尻が痛くなったことからだった。


さっきまでは危機感からか気にならなかったものも、開き直った今となっては徐々に酷くなっていく痛みに耐えられない。


ということで自分に保護膜のようなものをかけることができないのだろうか?と考えたのだ。


(魔力で体を覆うイメージでーっと。出来た!すごーい!私天才!)


それからは想像に難しくない。

調子に乗った私は色々と試してみることにした。


結果、保護膜は自分だけにではなく猫耳娘にもかけられる事がわかったし、(実際揺れていないか確かめてみた)魔力を放出する量の調整という面倒なことをしなくとも、自分が念じた事に相応した魔力が体から抜けていくのだとわかった。


後に、その考えは激しく魔法の原理とずれている事を教えられることになるのだが、それは今は置いておこう。


一先ず、脱出の目処がたったので、まだ眠ったままの猫耳娘を起こしてみることにした。


「起きて!ねぇ!起きて!」


大声が出せないことをもどかしく感じながら、猫耳娘を揺らすと、わずかに反応があった。

その反応を目ざとく察知した私は揺らす手に力を込める。


「う…うん…ここ…は?」


目覚めた猫耳娘はまだ意識がハッキリしていないようだったが、暫くすると今おかれている状況が把握出来たようで、顔が青ざめていく。


そんな猫耳娘に私は小声で話し掛けた。


「静かにして。ここはたぶん馬車の中。奴隷として売られるって男たちの会話が聞こえたの。だから私は脱出しようと思ってる。あなたも一緒に来る?」


猫耳娘は僅かに目を見開き、首を横に振った。


「む、無理ですよ。そんなこと…私は魔法で捕らえられました。魔法使いから逃げられるとは思えません…」


「あ、それなら大丈夫!私も魔法使いみたいなもんだから!」


「え?魔法使いなものって…」


「まぁ、そこは良いから。自分でも訳わかんないし。とにかく!このまま売られるか一緒に脱出するか選んで。」


「だ、脱出します!私も連れていってください!」


「あ、ちょ、そんな大声出したら…」


ガラリと扉が開く音が響き、そこには髭をはやした男が立っていた。


「て、てめえら、起きてやがったのか!しかも縄まで切ってやがる!お頭ー!」


男の呼ぶ声で何人かの足音が近付いてくる気配がする。


(あっちゃー、まぁ、仕方ない、ちょっと予定は早まったけど…頑張りますか!)


「あのー、これで全員ですか?」


「あ?ガキィ、何言ってやがる!」


「だから、これで全員ですか?って聞いてるんです。」


「そうだが、それがどうした?お前らは奴隷として売られるんだよ!大人しくしてろ!」


お頭であろう男の言葉に、私と猫耳娘を除く四人が敵だと確信を深め、私はニヤリと笑った。


「そうですか。一応聞きますけど、私達を逃がしてくれる気はないんですよね?」


「当たり前だ!お前ら売っぱらって金にすんだからな!ガハハハ!」


「そうですか。それでは…さようなら!」


念じるのは四人を焼き尽くす落雷。

私がそう念じた途端、男たちの立っていた場所に耳を塞ぎたくなるほどの雷が墜ちた。




ガサゴソガサゴソ…


男たちを魔力の縄で縛り上げ、荷物を漁る。

雷に打たれ、感電した男たちは暫くは目をさまさないだろうということで荷を漁り、役に立ちそうな物を頂戴しようというわけだ。

日本ならば、窃盗と呼ばれる犯罪のようなことでも、売られそうになっていた身としては罪悪感など全く感じない。


「あ、ナイフ!剣もある!これはお金かな?そっちはー?」


「こっちは干し肉とパンと水です…あの…いいんでしょうか?」


「ん?何が?」


猫耳娘は荷を漁るという行為に罪悪感を感じているようで元気がない。

まぁ、それが普通の反応だろう。

でも…


「あのね、私達は被害者なの。それにこれから何が起きるかも、ここが何処なのかもわからない。備えあれば憂いなしって言うでしょ?」


「備えあれば…って何ですか?」


「あー、わかんないか。まぁとにかく、何が起きるかもわからないんだから、食べ物や武器は持っておいた方がいいってこと。」


「はぁ…そうですよね!」


うん。わかってくれて何よりだ。

異世界に来てほとんどの時間を馬車で過ごした私だが、奴隷市というものがあることを考えたら、いつまた捕らえられるかわからない。

もしかして魔物とかもいる世界なのかもしれないし、いつ大きな町へ着けるかもわからないのだ。

食料と武器、お金は絶対に必要だろう。


「よし、じゃあ行こうか?」


「はい!」


私達は男たちの荷物を漁りつくし、あてもなく歩き出したのだった。




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