ならば実力行使!
「はぁ、サーラですけど…」
キラキラ王子カルロスは、絵本の王子様のようだ。
って言っても、王子様に憧れる年齢はとっくに過ぎた私には何の感慨もないけどね。
まぁ、あれだ。
金髪碧眼のとーっても見目麗しい20才くらいの細マッチョを想像してもらえば大体合ってると思う。
『他国へ訪問した帰りに盗賊に襲われて…』
というテンプレ的な状況に私が助けに入った訳だけど…それにしても護衛が弱すぎやしないか?
盗賊四人に押される護衛ってアリなの?
だって王子だよ?多分同行してるのって近衛騎士とかだよね。
「先程は盗賊と言いましたが…実は暗殺…」
「ストップ!ストーップ!それ以上はいいから!聞きたくないから!」
私の不思議そうな様子に気付いたのか、王子が苦い顔をしながら真実を話そうとしているのを私は全力で阻止した。
だって何か今、すんごく物騒な単語が聞こえたし。
どう考えても厄介事の匂いしかしないしね。
巻き込まれたくない私としては、どうこの場を去るか?が一番の課題だ。
よし!ここは一発ビシッと…
「あの!じゃあ、私はこの辺で!用事あるんで!」
片手をあげてこの場から逃げようとする私の腕がガシッと掴まれる。
恐る恐る腕を掴んだ相手を見ると笑顔のキラキラ王子だった。
うわーん、やっぱり?
そう簡単には逃がさないって?
いや、確かに近衛騎士でも苦戦してた相手を魔法二発で倒した私に興味があるのはわかるんですがね。
何か嫌な予感がするんだよ。
そう。アンディを相手にしてる時みたいな…。
うわ、思い出したら鳥肌たってきた。
(うーん、なるべく穏便にこの場を去りたかったんだけどなー。仕方ないか。)
「カルロス王子」
私が小首を傾げて名前を呼べば、呼ばれた本人は、惜しげもなく蕩けるような笑顔で「なんだい?」と聞き返してきた。
「えーっと、ごめんね?」
とりあえず謝ってから魔法で風を集め、それを王子達へと向かって飛ばす。
「なにを!?うわっ!」
「王子!ご無事ですか!?」
「俺のことはいい!彼女は!?」
「わかりません!風で前へ進めません!」
軽くパニック状態の王子達を尻目に、私はこれ幸いと空へ飛び立った。
巨大扇風機と名付けたこの魔法は、名の通り風圧で足止めするだけの魔法だ。
王子様に傷でもつけたら後々面倒なことになりそうだしね。
一応謝っておいたしまぁ、大丈夫っしょ。
あ、私が飛び立った時に魔法は解除しましたよ?
足止めだけが目的だからね。
さすがに空までは追って来れまい。
「あー、なんか疲れた。ちょっと時間くっちゃったけど大丈夫かな?」
豆粒のように小さくしか視認できない王子達に背を向け、私はスピードを上げる。
8人も同胞を探し出さなきゃいけない私は忙しいのだ。
王子様の相手をしてる暇なんてない。
そんな私は地上の王子の呟きに気付くことはなかった。
「美しい…サーラさん。」
「王子!羽根が出ております!」
「あ、すまない。つい興奮してしまってね。フフッ。」
熱っぽく私が飛び立った方向へと視線を向ける王子のシャツの背中から漆黒の蝙蝠羽根がのぞいていたことにも。