始祖
「『血を分け与えなさい。一滴ずつでもいい。9人の同胞たちに。そうすれば種族の絆は強固となり繁栄が見込めるから。』って夢の中で誰かに言われたんだけど、アンディ、何か知ってる?」
危うく婚約されそうになったのを全力で拒否してから二日後。
冒険者としての仕事が早く終わった私は、城にあるアンディの執務室でお茶を飲んでいる。
何故わざわざこんなところまでアンディを訪ねたかというと、昨日見た夢の内容が気になって気になって仕方なかったからだ。
アンディならなんか知ってるんじゃ?って思ったからともいう。
こんなとき頼れるのが変態ロリコンのアンディだけってのがなんか悔しい。
それはともかく、アンディは私の問い掛けに暫く考えるそぶりを見せた後、こう言った。
「それは恐らく始祖の記憶というものではないでしょうか?」
「始祖の記憶?」
「はい。そういえばサーラ様にはお話していませんでしたね。始祖というのは何万年かに一度、何処からかやって来ると言われています。その際に世界から役目を与えられるとも…私も書物や両親から聞いた話の知識なので詳しくはわかりませんが。」
「ふーん、何処からかやって来る…ねぇ」
それって異世界なんじゃ?と思ったけど、黙っておこう。
アンディの態度からして気付いてるような気もするけど。
それにしても記憶かぁ。
アンディにはじめて会ったときも、この間血を飲んだときも何故か懐かしいような感じがしたっけ。
しかもギルドカードの補足には、世界の祝福を受けし者って記されてたし。
あながち間違ってもいないような気がする。
なんかいきなり重い役目を背負わされた感じがするけど。
だって9人の同胞ってことは、あと8人居るんだよ?
いくら吸血鬼が長寿っていっても、もうすぐ寿命って人もいるかもしんないし。
吸血鬼の目撃情報がアンディしか広がってないってことは、絶対皆、隠居生活だよねぇ?
見つけられんのかな…。
「ま、いいや。ところでさ、アンディに聞きたいことあるんだけど。」
「はい。なんでしょう?」
「ねぇ、私って飛べるの?」
「は、え、いや、それはなんとも…」
笑顔だったアンディがいきなり慌てだした。
持ってたカップから紅茶こぼれてるし、明らかになんか怪しい。
「アンディ?もう一度聞くね?私って飛べるの?」
超絶笑顔で聞いてやりましたよ。
目は笑ってないけどね。
「は、はい!飛べます!」
「そう。ありがとう。ところでさ、何でごまかしたの?」
縮み上がったアンディに笑顔で追い討ちをかける。
すると、予想もしない言葉が返ってきた。
「いえ、飛べるとわかったらすぐにでも帝国から居なくなってしまうのではないかと…」
はぁ、アンディ、君は変態ロリコン、に追加で束縛男という称号も与えよう。
私の好感度メーターはダダ下がりだ。
「あっそ、じゃあ行くわ!あ!他の吸血鬼がどこにいるか知らない?」
「え?あ、1000年ほど前にはナディア国と帝国の国境付近の山の中に吸血鬼の夫婦が。もう一人はその夫婦に聞けばわかるかと。従兄弟のようでしたので。」
「ありがと。じゃあ明日出てくから。じゃあねー!」
手をヒラヒラとさせてアンディの執務室の扉を閉める。
「待ってください!私も一緒に!」とか聞こえた気もするけど無視だ、無視。
そんなことより魔術師団長としての仕事をちゃんとしろと言いたい。
「さてと、とりあえず帰って荷造りだな。」
とりあえずはナディア国と帝国の国境から。
ナディア国に行ったらミーナにも会いに行こう!
そう決めた私は足取り軽く、明日からは家ではなくなる家へと帰りを急いだ。