三つの月が示すもの
「うーさぶっ!」
学校帰り、いつものように親友と自宅の近くで別れた私は12月の冷たい風にブルリと体を震わせる。
早く帰ってホットミルクでも飲もうと足早に自宅へとたどり着き、玄関を開けた…ところで私は意識を失った。
それからどれくらいたっただろう?
目が覚めたのは暗い部屋の中。
(私…気を失って…あれ?家じゃ…ない?ここどこ?)
パニックに陥りそうになりながら、現状を把握しようと目を凝らす。
暫く経つと、目が暗さに慣れてきたようで、今居る場所が『家ではない』事が判明した。
まず、この部屋は揺れている。
しかも、縛られている。
まさか誘拐!?と思ったが、うちは裕福ではないというか、むしろ貧乏なので誘拐される理由がない。
よくよく見てみると同じ空間にはもう一人女の子が縛られていた。
(いやいや、ありえないっしょ…)
その女の子の頭の上でピクピク動く猫耳を見て、私の頭は驚きに支配された。
(コスプレ?にしては本物っぽすぎるし‥)
失礼かと思いながらもジーっと猫耳を見る私。
眠っているのかこちらの視線には気づく様子のない猫耳娘。
とりあえずコスプレかどうかは一先ず置いといて、縛られている縄を何とか出来ないかと身体に力を入れた…所で私は異変に気付いた。
(ってか、私縮んでない?!しかも制服着てないし!)
私の記憶では自宅の扉を開けたまでは高校の制服だったはず。
なのに今はみすぼらしいワンピースとも言えないような布を着ている。
しかも、手が明らかにさっきまでの大きさと違う。
というより、少なく見積もっても、私より5つは年下であろうと思われる猫耳娘と頭の高さが同じなのだ。
座った状態で縛られているから座高といった方が正しいのかもしれないが。
(ありえん…何もかも…)
知ってしまった真実に呆然としていると、部屋の扉が開いて月明かりが差し込んできた。
(やばっ!!)
寝たふりをしながら薄目を開けて様子を確認すると、そこには髭をはやした粗暴そうな男が立っていた。
「お頭ー!まだ二人とも眠ってるようですぜ!」
「そうか!眠りの魔法を掛けておいたからな!奴隷市に着く明日の朝までは起きねぇだろ!戻っていいぞ!」
「へーい!」
ガラガラと再び扉が閉められ、元の暗い部屋に戻ったが、私は頭がショート寸前だ。
(奴隷市?魔法?そんで猫耳娘…)
さっきの男がお頭と呼ぶ男としていた会話に脳の処理速度が追い付かない。
そして私が薄目を開けて見た外の様子も。
(月が三つって…ここ地球じゃないじゃん…)
こうして私の異世界トリップは始まったのだ。