三十五話
「これがいいよ!これにしてよ。」
「………。」
今、メガネショップに来ている。前の眼鏡と同じようなものが欲しかったのだが……、
「ほら、これかわいいじゃん。」
今奴が持っている眼鏡はピンクの縁に赤のハートの模様が入っている。
「そんな派手な……、黒縁で充分だ。」
「えー、じゃあこれ?」
と、言いながら見せた眼鏡は……、
「何それ?」
「ほら、黒縁じゃん。」
確かに黒中心だが……、飾りが凄い。銀色の鎖がサイドにくっついていてアクセントに十字架みたいなものが付いている。
「重そうだな。」
「ほら、オシャレじゃないか。黒だし……。」
「変だよ。」
「えー、じゃあ……。」
「いや、私はこれでいいんだ。」と、黒縁眼鏡を見せる。
「そんなのじゃダメ!」
「私が決めることだろうが!」
店の中で口論していると、店員が迷惑そうにこっちを見ている。
そんな事もお構いなしに奴は変に派手な眼鏡や縁無しの眼鏡を進めてくる。
終わりがなさそうな口論の中、誰かが声をかけて来た。
「あの……千遥ちゃん?」「今取り込み中だ!」
と、言って振り向いたら何故か不思議そうな顔する男がいた。
「誰?」
「あっ、ほら前に合コンの時に話した。」
「えっと……、あー、インテリ馬鹿!」
「えっ!」
「千遥、その呼び方だと矛盾が生まれるよ。」
「あの……、早田慶です。」と、名乗った。
「あぁ、早稲〇大学と慶〇義塾大学がぶつかった名前の!」
「いや、たまたまだと思うけど……。」
とりあえず早田は咳ばらいをし、「眼鏡選んでるの?」と、聞いてきた。
「まぁな。」
「俺も今さっき選んでいたところ。もう買ったけど……。」と、眼鏡ケースから眼鏡を出してかける。
「似合う?」
「ああ、いーじゃん。」
青色の縁の眼鏡が嫌味なくらい似合っていた。
「早田って眼鏡かけるんだな。前はかけてなかったが……。」
「あー、つい暗い場所で本とか読んでいたから。」
「馬鹿な奴ー。」
今まで会話に参加していなかった永島がそう言った。
「ねぇ、そう言われると私にも降りかかる。」
「えっ、ごめん千遥。」
少し不機嫌そうに言うと奴は謝った。
「千遥ちゃん、その人って彼氏?」
永島を見ながらそう言った。
「何をどうしたらそんな事になるんだ。ただ付きまとわれているだけだ。」
「えっ、千遥酷いよ。」
「事実だろう。」
「えー、でもさー。」
永島はぎゃんぎゃん騒いでるが放置する。
「千遥ちゃんはどれにするの?」
「黒縁眼鏡にするつもりだが……。」
「それは断じて認めない!だからこの……。」
永島はどんどん派手な眼鏡を進める。
私が永島が進める眼鏡を見てうんざりしていると、「これはどう?」と早田がある眼鏡を進めた。
ベースが淡い水色で白のラインが少し入ってる眼鏡だった。
「………まぁ永島のやつよりは遥かにマシだな。」
「えー、そんなうっすい色よりこっちの紫のがいいだろ!」
紫ベースにリボンが付いた……なんでそんなに派手なものが多いんだよ。
「もういいよ、早田の選んだ方で……。」
「本当?気に入ってくれて嬉しいよ。」
「なんで?そんなのよりこの銀の……。」
「店員さーん、この眼鏡が欲しいです。」
「わかりました。」
店員がやっとか……と、いう空気をまといながら私のところにくる。
「じゃあ眼科のカルテはありますか?」
「いいえ、視力検査させてください。」
「わかりました。」
とりあえず私は検査をしてもらうことにする。ここには何故か眼科医がいるから安心だ。
検査の結果、やや近視が酷くなっていた。
「では、1時間少々かかりますので……。」
「はーい。」
とりあえず眼鏡が出来るまで外で時間を潰すことにした。