二話
さて、舞台は数日前の図書館となる。
勉強をしていると隣の方に人の気配を感じた。
べつに変な能力は持っていない。私の視野に入って来たからだ。
そいつは小声で私に話しかけて来た。もちろん聞こえないふり。
そしたら奴は肩を軽く叩いて来た。モチ、無視。
奴はあきらめたのかどこかに行った。よし、勝った。
適当に勉強を切り上げ、図書館を出た……、はずだった。
誰かが私のブレザーの襟を掴みやがった。
「ぐぅっ」と声を上げた私は誰だ、と思いながら後ろを向いた。
…ヤバっ。さっきの奴だ。
驚いていると奴は「やぁ、やっと気付いたね。」と笑いかける。
そして驚いている私を見て「やっぱり無視していたんだ。どうしてだい?」
「べつに私にはお前に話すことはない。だからさっさと失せろ。」
その話し方に驚いたのか奴の手が私の襟を離す。
そりゃそうだ。私は今、眼鏡を掛け、制服は着崩すことなくいわゆる優等生っぽい格好だ。
まぁ頭は良い方だが。
襟を離した隙に逃げようとしたが、今度は腕を掴まれた。
「待って、逃げないで。君と同じ学校の生徒だよ。」「そんなの服みりゃわかるに決まっているだろう!」「そうだけど。ちょっと話しがあるんだけど…。」
そう言われ私は仁王立ちして「3分以内に話せ。簡潔にな。」と言う。
「偉そうな子だな。噂と全然違う。」
「噂はあくまで噂だ。と言うよりどんな噂だ。」
「君は篠崎さんだよね。」「ああ、まぁ一応。」
「一応って…。えっと対人恐怖症で気が弱い。孤立していて成績が良い。…みたいな?」
「後半は合っているが前半が違う。べつに人と話すのは全く怖くない。」
「あと俺と話すかぎり気が強い。」
「……。」
「ああ、ごめんごめん。」
私が傷ついたような顔(演技)を見て慌てて謝ってくる。
「で、用件は?」
ケロッとした顔でそう言うと、悔しそうな顔をする。「演技か……。あぁ失礼だけど君って親しい人とかいないよね。」
「まぁな。べつに気にしていないが……。」
「じゃあ友達になろ♪」
「断る!」
「え!即答!なんで!どうして!」
「テンションがウザい。あと、『なろ♪』って言ったときの♪マークがムカついた。」
「友達になろう。」
「普通に言っても駄目だ。じゃあ、バイバイ。」
「あっ、待っ…。」
腕を振りほどいて私は走り出す。
幸い図書館から駅まで近いのですぐに階段を駆け上がり、振り返る。
奴は追って来なかった。
「はぁ、はぁ……。よかった。」
私は息を切らしながら電車に乗った。