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第一章~揺れた茜色の陽~

繋がってるけど一章で完結するような形にしたいです。

 ピンポーン。


 淡い水色のインクで塗り込まれた空。


 白く零され千切れ漂う雲。


 静かで清らかな朝に、似つかわしいとは思えぬ音が響き渡った。


「ちわーホウヅキでーす」


 妙に間延びした、脳天気な声が春の空に消えていく。


 その声の持ち主は、腰ほどまでの長さの赤い髪を柔らかい風に揺らしていた。


 両耳の上くらいの位置で結ばれ垂らされた、ツインテールも同じくらいの長さだ。


 まるで燃えているかのような色が、この季節特有の優しい空色によく映える。


 ちょうど柳の木が紅葉したら、こんな風に美しくそよぐのではないだろうか。


 もっとも、そんなことは現実では有り得ないことだが。


 起こり得るとしたら、夢の中くらいだろう。


 意志の強そうな緑の瞳は、真っ直ぐに扉を見据えていた。


「待って、マリカ!」


 少女の背後から、名前を呼ぶ声がする。


 マリカが振り向くと、金の髪を持つもう一人の少女が慌てて駆け寄ってきたところだった。


 肩につく程度の長さの金髪は、少しだけうねっている。


 そしてその少女の瞳の色も、緑色だった。


 ただしこちらは、意志が強そう……というよりかは、鋭い洞察力を持っているような印象を与えるものだったが。

 慌てて準備したのだろうか、乱れた制服のスカートの裾が、少し折れ曲がったままだということには少女は気付いていないらしい。


「……まだ朝の七時よ。寝坊したとはいえ、まだ早すぎるんじゃな……」


 マリカを窘めるかのように、その少女はため息混じりに言った。


「何言ってるの。寝坊したのはお姉ちゃんじゃない。それに、善は急がば回れって言うでしょ!」


「遠回りしてどうするのよ……。それに、その意味だったらもっとゆっくり来るべきだったことになるわね」


「そうだっけ? とにかく、茜さんはすっごく悩んでたじゃない? だから早く来たほうが絶対いいって。お姉ちゃんの友達なんだしさ」


「……やれやれ」


 金髪の少女は、わざとらしくため息を吐いて見せた。


 いつもマリカはこうなのだ。


 情に流されやすく、商売とはいえ人助けが唯一の趣味なのではないかと勘違いしてしまいそうなほどだ。


 だから、せめて姉の私だけでもしっかりしないと、と少女はいつも考えていたのだが、未だにマリカを完全にコントロール出来たことはない。


 それどころか、むしろマリカに操られている気さえしている。


 まだ早朝だというのに、本日二桁に到達したかしていないかわからないため息を大きく吐いた。


 今日こそは、しっかりしないとね……。


 するとすべて吐ききるのと同じタイミングで、目の前の扉が開いた。


「あっ。セイナと……マリカちゃんね。……入って」


 中から出てきたのは、セイナやマリカと同い年くらいの

少女だった。


 栗毛色の髪を短く切り、髪だけを見れば、その少女が周囲に与えるイメージは全会一致で活動的に見える、という印象だろうか。


 しかし、今の少女からはそのオーラは見受けられない。


 それどころか、悲しみに沈みこんだ青色の瞳は、暗い闇を湛えているかのように感じられる。


 まるで、映り込んだ月を飲み込む、夜の海のようにさえ感じられる。


 逆に見ているこちらが、飲み込まれてしまいそうなほどだった。


「はい! お邪魔しまーす」


 落ち込んだ表情を読みとったのか、マリカはわざと明るめの口調で言った。


 そのマリカの言葉尻に、金髪の少女ははっと息を呑む。


 おそらく……茜は気がつかなかっただろう。


 気がついたのは、普段一緒にいる金髪の少女――セイナならではのことだった。


「……お邪魔します」


 先に茜についていったマリカに続き、セイナも玄関へと足を進めた。


 玄関にはマリカの革靴と、もう一人分の革靴しか置いていない。


 ……寂しいと、茜は思っているのだろうか。


 セイナは、茜の心に思いを馳せる。


 もしそうならば、私たちと同じ……なのかもしれない。


 それが一時的なものなのか、永久的なものなのかは別として。


「……茜」


 セイナのかすかな呟きは、開け放たれたままの扉から、春風に溶けこんで消えていった。




 

 玄関のすぐ先のリビングに案内された二人は、並んでダイニングテーブルについた。


 遅れて、盆に湯呑みを三つ乗せた茜が戻ってくる。


 丁寧にそれぞれの前に置くと、茜も二人の向かい側に座った。


 湯呑みの中身は、たぶん緑茶だろう。


 心なしか濃いめに見えるのは、気のせいだろうか。


 急いで向かってきたマリカは、少し喉が渇いていた。


 熱いかな、ともマリカは思ったが、思い切って湯気の立ったそれを口にしてみる。


「あつっ!」


 やっぱり熱かったらしい。


 湯気も立っていて、いかにも熱そうなのに飲もうとするのはバカだからなのかしら、と考えながらセイナは黙ってスクールバッグを漁る。


「あ……ごめん、熱かった?」


 茜が申し訳なさそうに言った。


「うー……ちょっとあつす」


 謝った茜に便乗して、文句を言おうとするマリカに割り込んだセイナは、紙を取り出しながら言った。


「この子の言うことは無視していいわよ。それじゃ……顔見知りだけど、一応決まりだから渡しておくわね」


 隣から抗議の声が聞こえるが、セイナはそのまま無視してカードサイズの紙を茜の前に置いた。


「夢、負い屋……」


 茜は、一番上に書かれた文字を読み上げる。


 さらにそこには名前……「法月聖奈・魔理香」と、ホームページのアドレス、そしてPCで簡単に取得できるフリーメールアドレスが書かれていた。


 どうやら名刺のようなものらしい。


 一通り読み終えた茜は、そっと顔を上げた。


「これは、なんなの?」


 茜の純粋な疑問に、聖奈は真っ直ぐ青い瞳を見て答える。


「まあ、私たちの名刺……数少ないうちの宣伝手段の一つね。私たちは、あんまり表立って宣伝出来ないから」


「どうして?」


「そう……普通に見れば、胡散臭いとしか思えないもの。こんなオカルト紛いの仕事。そう思わない?」


「そう……かな?」


「じゃあ、もし茜が見ず知らずの赤の他人から、あなたの悩み解消しますよ、だから家に入れてください……なんて言われて信用できるかしら?」


 茜は納得したように大きく頷いた。


「それは、無理だね。今は聖奈だから、信じてるけど」


 我が意を得たり、と聖奈は茜に微笑んで見せる。


「ありがとう。だから、私たちの仕事が成功して、気に入ってくれたら……深刻な、一人じゃどうしようもない悩みを持っている茜の友達にも紹介して上げて欲しいんだけど……って、それは後の話ね」


「うん、ウチの悩みが解消されたら、それはもちろん」


 くすくすと笑いながら、茜は約束した。


「ふふ。……じゃあ、早速話してもらえるかしら?」


「うん。少し長くなるかもしれないけど……」


「いいわよ。夜までは、たっぷり時間があるわ」


「ありがと。それじゃ、ごちゃごちゃになるかもしれないけど、聞いて。ウチの悩み」


 そう言うと、茜は一旦下を向いた。


 聖奈と、横で黙って聞いていた魔理香はそんな茜を見つめる。


 そして、意を決したように顔を上げた茜は、ぽつりぽつりと話し始めたのだった。







ようやく彼女らの仕事が始まったッ!

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