扉
ーなにもないー
「何も無い」だけがそこを支配している。
僕は、そんなことを思いながら部屋の外を見る
はじめの頃は何ともない世界であった。
しかし、時が経つにつれて世界は変わった。
「んー、暇!やる事ないし、寝起きだからまた寝る気にもならないし」
だけど、そんなことを考えても仕方ない。
今ここに居る世界を堪能するしかやる事がない。部屋の扉を開け、外に出てみる。足元には何もないはずなのに、そこには床があるかのように歩くことができる。見渡す限りの青空と微かな雲が自分の周囲全てを支配している。こんな世界にいるともう何日経ったのかも分からない。太陽の位置が一日中変わらないのだ。
景色の一切変わらない場所を歩き続けると、帰り道なんて覚えていないがこの世界は上手くできているのか、歩き続けたらいつもの部屋に帰ってくるようになっている。不思議な世界だ。
部屋に着くとそこには誰も居ない。静謐な部屋がそこにあった。僕は自分の部屋の中にある机に向かい昼寝をするのだった。
目が覚めると、勿論そこは見知った部屋でただ僕一人だけがいる。何をするでもなく、部屋の扉を開け散歩をする。燦々と照りつける太陽は、何とも言えない心地よさをしていて時折吹いてくる風に髪を靡かせながら歩く。僕はこの生活を楽しいと思っている。この不思議な世界で、ただ一人僕だけがいる世界で、柵から外れたような感覚で散歩をするこの世界が、僕は好きなんだ。
翌日…なのかも分からないが寝て起きてもまだ日は昇っている。今日も今日とて、いつもの部屋から外に繰り出して散歩をしに行くことにした。
歩いていると扉を見つけた。
古そうで、軽く蹴ってしまってもすぐに壊れてしまいそうなくらいにボロボロな扉がそこにあった。
何もない空間にポツンと、そこに扉は立っていた。
勇気を出してその扉を押し開けた。
もちろん、扉がパッと置いてあるだけなので扉の向こう側の景色は他の景色と同じで、澄み渡った青色の景色が見える。
興味本位でその扉を通ってみた
「別に何もないんだ」
残念と思いつつも、もう一度扉を見回してみたが特に変化などはしていなかった。
「戻るか」
そう思って、元々いたあの部屋に帰ろうとした。
歩いていると足元に何か違和感を感じた。本当に少しだけ水が張っていたのだ。地面に張っている水を足で遊びながらまたあの部屋に向かって、歩き始めるのだった。
いつも通り、何分かそれとも何時間歩いたとも分からないが、その部屋に到着した。いつも通りに扉を開け、いつも通りにベットで眠る。そんな筈だった。少なくとも、さっきまでは
「わっ、誰か来たね。この部屋の主人さんかな?ってちょちょちょー」
誰もいるはずのない部屋から女性の声がした。咄嗟に僕は部屋の戸を閉め、今一度深呼吸をした。
再び扉を開けると誰も居なかった。
「あれ…?」
不思議に思ってると、背後から声がした
「立ち止まってくれてもいいんじゃないのかしら?というか、なんでアタシを無視するのよ」
「いや、だって知らない人が居るんですもん」
「しょぼん…」
「それで、なんで扉を閉じたはずなのにこっち側にいるの?」
「もー…そんなこと気にしないの」
「気にしないでって……ええ」
「シンキングターイム、まっ、一つヒントを言うとするならアタシと一緒にいたら気づくと思うよ」
「なる…ほどなぁ……」
「んーでもそんなこと言わずにさ、部屋の中に入ろうよ。アタシが立ちっぱで疲れたからさ」
そうして、僕はこのよく分からない女の人といつもの居場所の部屋に入った。
部屋の中はいつも通りで、特に荒らされたりなどもなく帰ってきた、という感覚になった。
「でー、アンタがこの部屋の主人さん、って事でいいのかな」
「うーんと、そうなるのかな?」
「まぁ、そうなんだろう!ところで君、名前は?」
「露です。」
へーと半分興味なさそうな返答をする彼女。一体何を考えているのかがまるで分からない。
「素敵な名前ねぇ。アタシは蓮子っていうの、よろしくね」
そして、握手を迫られる。すこし後退りながらも握手をしたらめっちゃ上下に手を振ってきた。なんなんだこの人は。
「そいじゃ、自己紹介もしたわけで…これからどうするの?」
「どうすると言われましても」
正直、こんな得体に知れない人といることが一番怖いのだが
「とりあえず、僕のパーソナルスペースに入り込んで来なかったら何でもいいので」
「いやぁ、ちょっとそれは厳しいかも知れないねぇ…」
「いやなんでですか…」
「アタシってそういう感じのわきまえることが出来ない性格だからさ」
「まぁ、でしょうね。」
本当にこの人は何なのだろうか
とりあえずいつも通りに椅子に座った。普段ならここから寝るのだが、いかんせん他の人がいる中なので安眠はできそうもないのであった。
寝れない。気合いで寝るしかないのか…それとも殴ってもらえば気絶くらいは出来るのだろうか。
そんなことを考えていると、疲れ切ったのかプツンと意識が切れてしまった。
何やら騒がしい。僕の周りで何人かが騒いでいるようだが、僕は金縛りにあっているのか動くことができない。今見ているのは何なんだろうか。
「あ、起きた」
目が覚めると部屋の端に置いてあった椅子に座っている蓮子さんがそう言ってきた。
「なんかすごいうなされてたけど大丈夫?」
「えっ」
そんなにうなされていたのだろうか。
「なんか、すごい大変そうだったけど」
「多分…大丈夫です。」
「そう?それならいいんだけども。」
蓮子さんは未だ椅子に座りながら小説を読んでいるようだ
何読んでるんだろ
「うん?あ、これが気になるのかい?」
「あっえっと、はい。」
「うーん、まぁ見せてもいいんだけどね。あんまり刺さらない人には刺さらないと思うよ、これ」
そうして蓮子さんが見せてきたのはオカルト小説だった。オカルト好きなのだろうか、とても熱心に読んでいる。内容も死後の世界についてらしい。
「君は死後の世界ってのはあると思うかい?」
「え、うーん、どうなんだろ。まぁ、あるんじゃない?どんな世界なんだろうってのは気になったりするよね」
「そっか」
そうして、蓮子さんはまたその小説を読み始めた。ただ、その読むスピードは非常に遅い気がした。さっきからずっとページをめくっている様子がない。かと言って、寝ていると言うわけでもないらしい、一体何なのだろうか
「蓮子さん…だっけ、今から僕は散歩に行くんだけど、来る?」
「おや、君から話しかけてくれるなんて珍しいね、」
「まぁ、なんというか、」
「まっ、何か事情があるのかも知れないけどアタシもついて行くよ」
「それじゃ、行こっか」
そうして僕は部屋の窓を開け、そこから外に出る。蓮子さんは読んでいた本を椅子に置いて僕についてきた。
「にしても、この風景はすごいわねぇ」
地面に張った水を足で遊んでいる。蓮子さんは楽しそうに散歩をしているが、僕にとってはいつもの光景だ。何分経った頃だろうか。変わり映えのしなかったこの世界に唐突にベンチが設置してあった。歩き疲れてきた僕はその椅子に座って休憩することにした。
「ちょっと休憩、つかれた…」
「はいはい、それにしても露は体力ないんだね」
「いや、普段はもっと歩けるんだけどね。今日はなんか疲れちゃった」
「ふーん、まっアタシには関係ないけどね〜」
そうして、蓮子さんは僕を差し置いて一面に張った水で遊んでいた。元気だなぁと、そんなどうでもいいことを考えていた。
一通り遊んで遊び疲れたのか、蓮子さんは僕が座ってるベンチに腰を下ろした。
「疲れちゃった。」
「体力お化けかと思ったけど違うんだね」
「君はアタシのことをなんだと思ってるのよ」
「…よく分からない人」
「まぁ、そうだよねー。ぶっちゃけ、アタシ自身なんでこの世界にいるかも分かってないし」
「え、そうなの?」
「だって、アタシってぶっちゃけいろんな世界を転々としてるような人だからね」
「なんというか、そんな感じはしてた」
「でしょー。ま、それだとしても本来いるべき世界線ってのがアタシには分からないからこうやって旅をしてるんだけどね。この世界と同じような世界で何度も何度も旅をしてる感じだねー」
なるほど、つまりこの僕のいる世界も蓮子さんにとっては偶然に来た世界線でしかないと。そういうことなのかな
「それで、蓮子さんっていつくらいまで居るんですか?」
「うーんいつなんだろうね。アタシもその辺よく分かってないけど、なんか成仏するみたいな感じで満足したら別の世界に行くみたいな感覚?」
「なる…ほど?」
ますます分からなくなる。この世界も、ここに居る蓮子さんも含めて
これらは僕に一体何を示しているのだろうか。
蓮子さんはまた手で水を掬ったりしながら遊んでいる。それにしても、とても眠い。今にもここで寝てしまいそうなくらいには瞼が重くなってしまっている。そうして僕の意識は..闇に落ちていくのであった。
頭に不思議な感覚がしたので僕はばっと目を覚ました。すると、蓮子さんが僕に膝枕をしていた。
「何してるんですか」
「え、膝枕だけど」
「足、疲れないんですか」
「まぁ、やり慣れてるってのもあるし」
それにと蓮子さんは付け加えて言った
「君も歩き疲れてただろうしね」
確かに、歩き疲れていたのは事実だ…だけど、なんか負けたような気がするのは何でだろうか
「おやおや〜?今になって恥ずかしくなったのかなー?」
「そんなことないですよーだ」
そうして僕は起き上がる。少し歩くと扉があった。扉の方へ寄ってみると、今度は綺麗そうな扉がそこには立っていた。ドアノブを引いてみるといとも簡単に扉は開いた。だが、そこからが問題だ。
「真っ暗なんだ」
そう、扉の先が真っ暗であったのだ。
「入るかどうかは君次第だけど、私はあんまりお勧めしないかな」
蓮子さんがそう言ってきた。僕は迷いながらもその扉をスッと閉めた。
「ありゃ、行かないんだね」
「行かないように仕向けたのはあなたでしょうに」
「いやー、それもそうなんだけどね。アタシから見る君なら入ろうとするんじゃないかなって」
「多分、僕一人だったら入ってましたよ」
「あ、やっぱそんな感じかー」
そして、扉とは反対の方向に進んでいく。
「あれ、どこに行くんだい?」
「帰るんですよ。いつもの部屋に」
そうして歩き出す僕たち。その帰り道は、とても静かなものであった。
もときた道を戻るとちゃんと同じ部屋にたどり着いた。
僕はベットに、蓮子さんは椅子に座って本を読み始めていた。
やることもないのだが、先程寝てしまったため寝ることができない。蓮子さんの方に目をやると、うとうととしながら本を読んでいた。というか、もう読んでいるとも言えないくらいには眠そうだ。僕は蓮子さんをベットで寝かせてあげようかと思ったが、いかんせん筋肉もほぼないので持ち上げようとしても落としてしまうと思ったので、そのまま椅子で寝てもらうことにしてもらおう。代わりと言っては何だが、机のところにあった僕の椅子を蓮子さんの座っている椅子の隣に置いて、僕に寄りかかるように寝て貰えば良いのではないかと思った。
「それじゃ、これを運ぶかぁ」
そうして、僕はその椅子を運んで蓮子さんの寝ている椅子の横に置き、その椅子に座った。それとほぼ同時に蓮子さんの体がぐらっとぐらついて、蓮子さんの頭が僕の太ももの上に乗っかった。蓮子さんが持っていた本が床に落ちそうになっていたので、何とかしてその本を取って椅子の上に置いておいた。
「そういえば、この本って中身はどうなってるんだろ。」
その好奇心が浮かんできたが、読みかけの本を開いてしまうとどこを読んでいたか分からなくなってしまいそうになるので、流石に読むのはやめることにした。それにしても、いつになったら起きるのかなぁと、蓮子さんの嬉しそうな寝顔を見ながら思うのであった。
「ふにゅ?」
「あ、起きた」
そうして、蓮子さんはばっと顔を起こした。寝顔を上から見ていた僕の顔面に直撃して顔が痛いったらありゃしない
「いててて…あ、アタシ寝ちゃってた…!?」
「結構ぐっすりでしたね、いてて…」
おでこを摩りながら蓮子さんの質問に答える。急に起きて顔を上げないでほしいものだ。
「それで、今日も散歩をするの?」
「うーん、」
正直、今日は散歩をする気になれない。というか、蓮子さんに膝枕をしていたので足が動きそうもない!
「今日は行かなくていいかな」
「そっか、」
そうして、僕たちの会話は終わる。多少の気分転換になるかなと、窓を開け空気を入れ替える。外から入ってくる空気は、熱いとも寒いとも思えない丁度良い温度感だ。
そうして、僕は椅子に座りながら考え事をする。この世界は何なのか。そして、蓮子さんは一体何をしようとしているのか。
考え事をしていると、時間はあっという間に過ぎてしまうもので気づけば疲れて寝てしまっていた。
おやすみ世界、そして、




