第9話 彼らなりの逢瀬
「やれやれ、仲の良いことだ」
二人の後ろ姿を見送ったノルゴル参謀長がポツリと漏らす。
「参謀長、お二人がなにか規律を乱すような振る舞いをされてましたか?」
白狼頭の艦長が参謀長を睨みつける。
「いや。むしろ心配なくらいだ。二人はいつ羽目を外しているのか。全く隙を見せない」
そう言うとノルゴル参謀長はわずかに笑みを見せる。
「それなら良いではないですか」
それに応じるかのように艦長も笑みを見せる
「確かにな。だが、個人的には気にならぬわけではない。あの二人とて生身の人間なのだからな、息抜きは必要だろうて」
「その点には心配ないでしょう。あの二人もそれなりの方法で息抜きをしていますよ」
「だとよいのだがな」
ほどなくして昼戦艦橋から姿を消した二人は艦内の執務室の隣にある環境室にいた。
ここは人工重力と艦の姿勢との連動によって1Gの自然環境が再現されている。
和風の庵に草木の生えた緑の庭園。
キスラにはこのような部屋がいくつかある。
長期にわたる艦内生活のストレスを軽減するための処置である。
戦闘艦としてはいささか矛盾してはいるが乗組員の精神安定を図るための空間なのである。
「やぁぁあっ!」
そこにフェリウルの勇ましい声が響く。
空調設備によって人工的に吹くそよ風になびく草を踏み締め、彼女は木刀を構えたユリウス相手に飛び込み、拳を、蹴りを繰り出す。
体重をのせた連撃をユリウスは最小限の体さばきと木刀でそれをいなす。
しばらくその応酬がつづいたが、やがて、どちらともなく間合いをとって対峙する。
と、今度はユリウスが動く。
間合いに踏み込み、突きを繰り出す!
長い金髪をなびかせて飛び退くフェリウル。
ユリウスはさらに踏み込む。
それを足さばきと手刀で打ち払ってしのぐフェリウル。
しかし、やがて木刀の切っ先がフェリウルの頬を掠める。
と、そこで互いの動きが止まり、互いに後ずさって距離を取る。そこでやおらフェリウルが声を上げる。
「お、女の子の顔を傷物にしようとするなんて、お兄ちゃんの鬼!、悪魔!人でなし!女の敵ー!」
非難の声を上げるフェリウルにユリウスはあきれ顔になると、
「あのくらい対応できないやつに背中を任せた覚えはないぞ」
「ぶーぶー」
口を尖らせていたフェリウルだが、ユリウスが視線をそらして背を向けた次の瞬間、怒りの表情を真顔に変えると一瞬で間合いに踏み込み、彼の後頭部に向かって拳を繰り出す!
乾いた音が場に響き、彼女の拳はユリウスの平手に受け止められていた。
「そんな手に乗ると思ったか?」
「思ってないからしたんだよ」
そう言い合った二人は不敵に笑うとお互い背後に飛び退く。
「さすがに腕はなまってないな」
そういうとユリウスは構えを解く。
「当然。お兄ちゃんだって自分より弱いやつに守られたくはないでしょ?」
同じく構えを解き、軍服には似合わないにこやかな笑顔でそう言いながら歩み寄ってくるフェリウル。
「お兄ちゃんはやめろ。どこで誰か聞いているかわからんのだぞ」
横目でにらむユリウスだが、フェリウルは意に介さない。
「心配ご無用。きちんと盗聴機の類いは確認してるから」
「そういう問題じゃない。全く口の減らないやつだ」
「いやあ、わたしの口はひとつしかないからこれ以上減ったら話せなくなるよ~」
これ以上は無駄と判断したか、ユリウスは彼女の軽口を無視して歩きだし、環境室にこしらえた庵の縁側に腰を下ろす。
その側には質素なこしらえの鞘に納められた日本刀が置かれている。
「あ~!無視しないで~」
「全く」
「えへへへっ」
ため息をつく義理の兄にばつが悪そうにはにかむフェリウル。彼女も庵の縁側に腰を下ろす。
二人の間には縦横に線が刻まれている囲碁盤がおかれており、二人はそれを挟んで傍らに置かれていた黒白の石を盤上に打ちはじめる。




