第8話 彼方に浮かぶ虚ろなる鋼鉄の飛行島
それよりさらに数日後の日本近海。カムチャツカ、千島海溝を進んできたキスラ・イプニルは和歌山県沖の日本の領海外の海域にいた。
ここは四方を日本の排他的経済水域に囲まれた海域。また、主な海路と空路から離れている。
キスラは海中から有線の探査ポッドを海面に向かって放出し、周囲の海上、海中を探査する。
だが、それだけではない。
浮上したポッドのいくつかは黒潮の流れの中を漂いながら一定の範囲に展開する。
「蜃気楼、位置につきました」
「展開開始します」
一見するとなにも変化がないように見える。
だが、海面を割ってキスラ・イプニルの巨体が浮上してもその姿は遠方からはぼやけて見える。
まるで蜃気楼のように。
「浮上完了」
「艦底部より左右各護衛艦離脱、哨戒行動を取ります」
「上部構造物収容開始、キスラ・イプニル、空母形態へと移行」
キスラ・イプニルの艦底部には本体から離れて単独行動が可能な護衛艦が二隻連結されている。
そして、その二隻が分離して空いた艦中央の空間に艦中央の上部構造物を収容することが可能で、それによって上部飛行甲板での駐機、作業面積を広くすることができる。
だが、今回はそれが目的ではない。
オペレーターからの報告が上がるとユリウスはうなずく。
「参謀長、偏光場越しではあるが皆に交代で太陽の光を浴びさせてやってくれ」
竜頭のノルゴル参謀長はうなずく。
「皆、久々の陽光に喜ぶと思います」
「指令室の要員も交代で上の昼戦艦橋へ。しかし、周囲の警戒は怠るな」
そう言うとユリウスは席を立ち、参謀らを引き連れるとエレベーターを使って、真上の艦橋部へと向かう。
「閣下、質問があります」
昇降中のエレベーター内部で参謀の一人が彼に質問を行う。
「なんだ?」
「今回の蜃気楼を展開しての浮上についてです。乗組員の休養は重要ではありますが、それならば本隊との合流後でも可能なはず。いかなる思惑があるのかお聞かせいただきたい」
参謀の質問にユリウスはうなずく。
「そうだな。貴官はどうかんがえる?」
「……今回の地球一周の航海は地球側の情勢調査が目的です。ですからこれもそれが目的と考えています」
「なるほど。皆も同じか?」
ユリウスは皆を見渡す。
「はい」
顔を見合わせた後に頷く参謀達。
ユリウスは頷く。
「皆の認識は間違いではない。しかし、正確とも言えない」
「と、言われると?」
「地球側、特にその最大勢力であるアメリカ合衆国が蜃気楼による光学的隠蔽を感知できるほどの技術水準に達しているか否か、その反応を探るのが目的だ。しかし、本艦は赤道以北から北極海の通過まで浮上せずに来た。そろそろ浮上して乗員には休息をとらせたい。危険ではあるがその二つを同時に行う。各部署には手配が済んでいる。索敵と報告と連絡は怠らないように」
「了解しました」
そこに別の参謀が声をあげる。
「閣下。この機に蜃気楼展開時での光学迷彩使用の航空機発進の試験を行いたく思います」
その参謀はキスラが有する航空部隊担当である。
「それについては地球側の反応をみての様子見だ、奴等がこちらに気づかぬようなら実施する」
「はっ、用意を進めておきます」
「他に質問は?」
「閣下、例の機体はどうされます?」
その質問は 艦載機の整備を行う整備班の班長からのもの。それにユリウスは顔をわずかに険しくする。
「あれの投入は現状では過剰だ。
とはいえ、不測の事態は起こりうる。稼働状態の維持に勤めてくれ」
「はっ」
「他は?」
「ありません」
「では解散」
エレベーターが昼戦艦橋に到着すると、参謀たちは解散し、昼戦艦橋には見張りと首脳陣が残る。
「艦長、あとは任せる」
「はっ」
ユリウスが傍らにいたフェリウルを伴い艦橋を後にする。




