第6話 アメリカとソビエトの密約
「仮に移住できるとしても開発に莫大な投資が必要な土地を押し付けられる可能性もある。
そんな奴等の一方的な譲歩を拒み、戦って我らの望む成果を勝ち取ってこそそこが我らの新天地であると胸を張って宣言することができるのだ。そうだろう?」
「確かに。しかし、戦って勝てる見込みはあるのですか?」
補佐官の言葉に大統領は不敵な笑みを浮かべる。
「奴等は我々に対して核兵器の放棄を要求してきた。それも我が合衆国が核兵器を実戦使用した直後にな。それは彼らが我々が持つ核兵器を恐れており、また、有効であることの証拠だ」
それは果たしてどうだろうか?
ふと、補佐官は胸中に疑問を抱いた。
そこまでそのゼフィルなる宇宙人の国家が地球の核兵器を恐れているのなら、なぜ地球側と交渉を打ちきり、地球上の核兵器が半世紀にわたって開発、生産され、拡散され続けるのを放置してきたのか?
「なるほど」
疑問を残したまま、補佐官は大統領の言葉に相づちを打つが、大統領は不満をあらわに肩をすくめる。
「問題は運搬手段だ。今の我々にはやつらの本拠地に核兵器を撃ち込む、いや、撃ち込むぞと言うために必要な手段がないからな、これでは取引には使えない」
「では、どうされるのです?」
「奴等の技術を手に入れるしかないだろう。
当時の大統領も宇宙技術を得るためソビエトと結託し、核戦争も辞さぬ覚悟で奴等と一戦交えるつもりでいたという。
だが、奴等は交渉の結果、太陽系の支配圏については我々にあることについては合意し、彼らは太陽系から姿を消した。その件で当時の政府は確信した。奴等は我々の核兵器を恐れていると。
その後、我が合衆国とソビエトは先を競って宇宙開発を進め、月や火星など太陽系の天体にあるであろう奴等の痕跡を探った。そこから恒星間移動の技術を手にすることが目的だった。
だがそれは徒労に終わった。
莫大な費用を投じて行った月や火星への探査では、やつらが我々に先んじて太陽系の天体を占拠し、攻撃のための軍備を進めているような施設は確認できなかった。
だが我々は、半世紀を経てなお太陽系の外に出ることすら叶わぬ。
しかもだ。どうやら奴等は宇宙ではなく、海中から我らを監視していたようだ。 我らが巨費を投じて月や火星に探査機を送り込んでいる間もな」
その言葉の意味することを察した補佐官は表情を再び強張らせる。
「我々はこの半世紀、莫大な国家予算を宇宙開発に費やした。にもかかわらず何の成果も得られなかった!まんまとしてやられたよ。これならはじめから奴らの技術を得るべきだった。
しかもだ、奴らが海中に潜んでいるというなら、東西を海に挟まれた我らにとってはかつて無いほどの驚異だ。
ニューヨーク、サンフランシスコ、フロリダ、ハワイ、グアム。いつ、どこを攻撃されるか分からないのだからな。
だが奴等は再び姿を見せ始めた。これはまたとないチャンスだ。
今度こそやつらを表舞台に引きずり出してその技術を手に入れ、我らの銀河進出、そして経済圏拡大のための踏み台になってもらわねばならぬ」
そう言うと大統領は最高級品の革靴で大統領専用機の執務室の床を踏みつける。
「踏み台…ですか?」
「そうだ!やつらの持つ技術と銀河についての情報を得、我らの勢力拡大を図る。そしてゆくゆくは我々アメリカ合衆国がこの銀河系全体の経済を支配するのだ」
「しかし、どうやって?」
その問いに大統領は笑みを浮かべ、語り始める。
「記録によれば奴等は地球文明の保全のためと言う名目で、南米への移民にカモフラージュした数万の日本人を連れていったという。
今、そやつらがどうなっているかはわからぬが、ゼフィルによって過酷な環境で強制労働されていれば、同胞の救出と言う名目で軍事行動ができるではないか?」
「確かに」
「反対に移民が成功していれば彼らを同胞として迎え入れ、彼らの住む土地を我らの生活圏の一部とする。彼らも地球人なのだからな、同然だろう?」
「なるほど、確かに。しかし」
補佐官の言葉に言葉に大統領の表情は不満が混じる。




