第5話 かつての来訪者との接触記録
ミシシッピがキスラ・イプニルと接触した日から数日後、
太平洋上空を飛行する航空機の一群が居た。
中央の大型機の周囲には護衛の戦闘機が展開し、その大型機には星条旗が描かれている。
その機内でゆったりとした椅子に座り、手にした書類に目を通し、時折サインをしている一人の人物。
その部屋の扉が開き、スーツ姿の人物が緊張の面持ちで彼の前に立つ。
「大統領閣下、報告がございます」
その言葉に大統領と呼ばれた人物は顔を向けずに不満そうに尋ねる。
「補佐官、それは吉報かね?凶報かね?」
「吉報ではないかと」
ためらいながらそう答えた補佐官にアメリカの大統領はサインをするために手にしていた書類をテーブルに置き、顔を上げる。
「聞こうか」
「国防総省からの報告です。北太平洋、アッツ島沖にて再び正体不明の海中物体と接触したとのこと」
その言葉を聞いた大統領は視線を窓に向ける。
窓の先には夕陽で赤く染まった空と胡麻粒のように小さく見える護衛戦闘機が見える。
「ほう。すると君はこの広い太洋のどこかにそいつが潜んでいて、今にも我々を狙ってくるかもしれないのに、それが凶報ではないというのかね?」
口元をニヤリと曲げ、揶揄する大統領に補佐官は言葉を失う。
「……まあ良い。君はまだ知らないのだからな」
大統領の言葉に補佐官は安堵するが同時にあることに気づく。
「大統領はご存じなのですか?この正体不明の存在に」
その問いに大統領は應揚にうなずくと忌々しげに呻く。
「出来れば知りたくはなかったがね。我が合衆国が半世紀以上もの間、ひた隠しにして来た最高機密だからな」
大統領は慎重に言葉を選びながら話しはじめる。
「話は二つ目の世界大戦後までさかのぼる。当時の合衆国政府は当時対立していたソビエトと共に極秘裏にとある連中と接触していた。その名をゼフィル共和国という」
大統領の言葉に補佐官は眉を潜める。
「ゼフィル?聞いたことのない国です。…まさか!」
「君はなかなかに勘が鋭いな。
そう、地球外知的生命体。異星人だよ」
大統領の言葉に側近はこわばらせていた表情をさらに硬直させる。
「なんと!一体当時の政権は、彼らとどのような交渉を行ったのです!?」
狼狽をあらわにする補佐官に大統領は手をあげて制止する。
「落ち着きたまえ。
記録によれば彼らは核兵器の放棄、戦争への使用禁止、平和的手段による地球人全体の統一政体の樹立を要求し、それが達成されれば我々地球人類に太陽系全体の主権を認め、太陽系及び周辺星域開発のための宇宙開発技術を提供する。そう提案した。だが、合衆国政府はそれを拒否した」
「なぜです?」
当然の疑問を呈した補佐官を大統領は睨み付ける。
「当然だろう?
当時は世界大戦の直後。ソビエトとの対立もあり、何より我々は彼らの事を何も知らぬ、
いや、この太陽系の外に我らのものとできる、どれだけの土地、資源があるかわからぬのに奴等の都合で線引きされるわけにはいかぬ」
「しかし、彼らは我々地球人の太陽系における主権を認めたということでしょう?それは我が国の外交の成果なのでは?」
その指摘に大統領は肩をすくめる。
「補佐官。それは我々が奴等に譲歩させた結果ではない。奴らが一方的に決めたものだ。彼らは太陽系外のいくつかの無人の恒星系の領有権も認めると言っていたと記録にはあるが、それが我々にとって約束の地となる保証はない。
不毛な、人の住めぬ星々ばかりでないという保証はどこにもないのだぞ」
その指摘に補佐官は再び言葉を失う。




