第3話 深海にて開演する演奏会
「よかろう。艦長、それに参謀長。聞いての通りだ。彼らの提案で行こうと思う」
「了解」
青年の言葉に円卓につく竜面と司令室の中央の席につく狼面の人物が応じる。
「では皆の手並みを見せてもらおうか」
「司令、ここはロシアの領海も近いです、ロシア艦に遭遇すると面倒かと」
竜面の人物の提起に青年はうなずき、
「周辺図を円卓の立体映像出力器に」
「はっ」
ユリウスの命令を受け、円卓の中央に海溝の裂け目の中を進む巨大な艦とその上で曳航される囮艦、それを追うアメリカ艦の姿が立体映像として映し出される。
「本艦は現在狭い海溝内を進んでいる。よって左右旋回による回避は難しい。万一の際は上下の操艦で対応せよ」
「はっ!」
狼顔の艦長の指示に操舵手が応える。
「前部探照灯用意、目視操艦に切り替えよ」
一方、ミシシッピ艦内。
「スクリュー音、毎時25ノットに増速。南西に向かっています」
ソナー手が緊張の面持ちで報告すると、司令塔の空気がが無言のまま変わる。
「……どういうことだ?ガトー級が海中でこれほどの速度を出せるはずがない」
自分達の常識を越えた事態に艦長は表情をより険しくさせる。
「どういうことでしょう?」
「ソナー、他に不審な音はないか?」
「確認できません」
艦長は無言でうなずくと機関室に更なる増速の指示を出す。
一方、再び、キスラ・イプニルの艦橋。
「推進器音確認、ウォータージェット推進です」
「解析します」
「解析完了、音紋はアメリカ海軍ロサンゼルス級と合致」
「かかったのはアメリカか」
しかし、程なく次の報告が入る。
「囮艦の前方1時方向に推進基音1!26ノットで航行中!」
索敵担当からのその報告に指令室に緊張が走る、ややあって、
「照合完了、ロシア艦、971型です」
解析担当からのその報告に一同の顔がより険しさを増す。
「ロサンゼルスと同じ攻撃型か」
「はい、方向からするとカムチャツカへの帰還かと思われます。ですがこのままの速度では交差します」
「ふむ」
索敵担当からの報告に青年司令官は腕を組んで考え込む。
「減速しますか?このままでは囮艦がロシアとアメリカの挟み撃ちに合います。こちらは所属を明らかにしておりませんので最悪、こちらもろとも互いを敵と見なして攻撃を仕掛けてくるやも」
参謀長の意見にユリウスはうなずく。そこに参謀の一人が立ち上がると、
「司令官閣下、ここは音響機雷の使用を具申いたします」
音響機雷とは海中に騒音を撒き散らし、海中での探知手段であるソナーを無力化する兵器である。
無論、こちらの探知波もかきけされてしまうため、諸刃の剣ではある。
だが、
「……よかろう」
ユリウスはうなずくと傍らにいる狼頭の人物に指示を下す。
「艦長、現状こちらはその手の内を地球側に見せないようにするのが基本方針だ。うまくやってくれ」
「了解。うまく煙に巻きます」
狼頭の人物は振り返り、うなずく、
「音響機雷、用意」
艦長の命令に火器管制担当からの連絡が来る。
「用意よし」
「選曲は?」
「にぎやかなのにしました」
「ほう?」
「ハチャトゥリアン作曲、剣の舞です」
火器管制士官の報告に青年は不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう、連中は普段海中で息を潜めているんだ。慰問として労ってやれ」
「はっ!放出」
管制士官の報告が行われて、暫しの後。
「放出完了。機雷は放出後30秒後に起動、五分後に自壊」
火器官制士官からの艦長は頷く。
「変音域から浮上する、パッシブソナー停止」
艦長からの指示に操舵士と索敵担当が応える。
「了解」
ソナーの停止は騒音機雷の音から装備と班員の耳を守るためである。
「変音域より浮上後、囮を回収しつつ潜航。その後待機」
艦長の指示にしたがって艦の各部署に指示が飛ぶ。




