第2話 巨大にして異形の潜水艦
それは巨大な鯨ですら小魚に見える規模の巨体を持ち、先の細い酒瓶を横倒しにしたような船体を三つ、三角状に横並びさせたような三胴艦。
しかし、左右の艦体の上甲板はまるで横に輪切りにされたように平坦で、航空母艦を思わせる艦体から斜めに突き出た「斜形飛行甲板」を持ち、さながら左右反転させた空母を脇に抱えたかのような偉容である。
そんな三つに別れた艦体を持ち、左右の艦体部には空母のような飛行甲板を持つ巨大な三胴艦の内部の司令室。
アメリカ艦と比較にならない広さのそこにはモニターが備えられた複数の席につく様々な見かけの人物がいた。
部屋の中央には一段高い位置から部屋を見渡せる席があり、そこには狼頭の人物が座り、その後ろには円卓を囲んで複数の人物が席についている。
銀髪の額と耳の後ろから角を生やした青年。長くとがった耳を待つ軍服が似合いそうもないのに不思議と似合う金髪ロングヘアの女の子。竜顔や鳥や狼の顔を持つ人物。
「ユリウス・クアモデス元帥閣下」
「ん?ああ、どうした?リフスト・ノルゴル参謀長」
有角の青年はかけられた声の主の方を見る。
それは軍服に身を包んだ竜頭の人物。
「報告です。頭上の囮艦の音響探知に感あり。場所は左舷後方、水中摩擦音のみとのことです」
皆一様に同じような軍服を着込んでいる。
その報告を聞いたユリウスと呼ばれた青年は、
「囮艦の速度を上げて、相手に推進器を使わせての追跡をさせる」
「了解」
そこまでの指示を行うとノルゴル参謀長が銀髪の有角の青年に問う。
「司令官、偽装推進機音の音量はどうされます?」
「現状のままだ。不自然な挙動をとって相手の反応を確かめる。それと囮艦の管制部との直通回線を回してくれ」
竜頭の人物はうなずき、端末で指示を下す。
その命令からややあって、囮艦の管制部から、
「微かに反応有り」
索敵担当からの報告に続いて、解析担当からの報告が上がる。
「水中雑音のみ、推進器音確認できず」
「不明音源現在15ノットでこちらを追尾、探知波確認できず」
その報告に円卓についていた銀髪の青年が笑みを浮かべて頷くと傍らにいる軍服姿のとがった耳を持つ金髪の女の子が頷く。
名をフェリウル・ルフィノといい、階級は大佐。彼の補佐をしている。
ユリウスがつぶやく。
「大西洋でもそうだったが、順調にあちらさんの性能も上がっているな。以前はこの程度の音にも気づかなかったが」
「さすがは地球一の軍事大国ってところかな」
のほほんとした口調のフェリウル、しかしその眼差しは相手の手の内をうかがうかのように鋭い。
「どうします?」
円卓につく竜頭の人物の一人が振り返り、青年に問う。
「いい機会だ、彼らに任せようと思う」
そう言って青年は円卓の一角につく一同に視線をやる。
そこには青年と同じような角を生やした若者や長い耳の若者もいる。
「はっ」
彼らは一様に表情をいっそう緊張させる。
「では、諸君。今の本艦、キスラ・イプニルの置かれている状況についての各自の見識を述べよ」
青年の問いに一人が席を立ち、一同を前に述べ始める。
「はっ。
現在我が方は目下、本隊のベーリング海峡通過までの囮となっております。また、可能な限りこちらの性能を秘匿しつつ地球側戦力の調査も行っております。優先するべきはこちらの性能を知られないことであり、現状では相手の注意を引きつつ突発事態に備えることが最善かと」
その参謀の発言にユリウスはしきりに頷く。
「うむ。では現状取り得る最善の策はなにか?答えよ」
青年の問題提起に別の参謀が答える。
「このまま追跡者の注目を囮艦に集めつつ、突発事には相手方を撹乱の後、水温躍層より浮上しての囮艦の収用の後、速やかに離脱するべくと具申いたします」
水温躍域とは海中の一定の深度にある塩分濃度の関係で音波が反射される深度帯の事で、潜水艦の索敵用音波も跳ね返るために索敵も困難となる
彼らが乗るキスラ・イプニルはその層の下に潜んで各国の潜水艦の探知をかわしていたのである。
「どうかな?」
傍らに座っていたフェリウルが朗らかに質すと青年は大きく頷く。




