第10話 義兄妹
「さて、一通り見回ってきたわけだが」
「思っていた以上にもっているね」
白黒の石を打ち合う乾いた音が響くなか、二人は茶化すでもなく語り合う。
「やはり核の戦場外での実戦使用という非人道的行為が人々の心理に影響を与えているのだろう。本来なら核兵器の応酬による歯止めの効かない相互壊滅が大国側の一方的な使用に留まったことも大きいかもしれない。中々に稀有な例かもしれないな」
「このままこの星の文明は核戦争に至らない可能性もあるかな?」
石を打ちながらのほほんと義兄に尋ねるフェリウル。
「どうかな。この星の二大大国は我々の存在を知りながらも地球人全体の統一政体樹立の動きも進んでいない。やつらは相変わらず自国第一主義だ」
「やっぱり核戦争で一度取り返しがつかないくらい壊滅して痛い目に合わないと統一への機運は進まないのかな?」
「あるいは強大な敵に出くわすか」
ユリウスのその言葉にフェリウルは石を打つ手を止め、腕組みをする。
「むー」
「だが、我々には奴等の統一政治体制樹立のための生け贄になる義理はない」
「だね」
そう応じてフェリウルは石を打つ。
「たとえ一つの星の文明を壊滅させてあまりあるほどの核兵器を持とうと運搬手段を持ち得ない以上、現状地球人類の核は我々以外の星間国家にとってさほどの危険性はない、が」
「いずれは運搬手段を得ることになる。核戦争で荒廃した歴史を持つ銀河系の他の星間国家は地球人の核兵器を驚異と見なすだろうしね」
自身の言葉を先取りしたフェリウルの言葉にユリウスはうなずき、石を打つ。
「ああ、そうなる前に対処する必要がある。
だが、問題は我々がそのきっかけとならないようにする事だ。恒星間航行に関する技術の流出は阻止しなければならない、あるいは遅らせる必要がある」
「向こうさんは喉からで手が出るほどに欲しがるだろうけどね」
のほほんと、しかし確実に核心を突くフェリウル。
やがて二人の議論は地球各国への対応についてに及ぶ。
「核兵器抑止の観点から言えば、地球上の核を持たない国を無視する訳にはいかない」
「核兵器を持たないと交渉さえしてくれないとなれば、みんな持つしかなくなるからね〜」
フェリウルの言葉にユリウスは頷く。
「地球人が核の脅威に対しての危機感に疎ければ、太陽系を封鎖して外部からの干渉を断って放置し、核戦争による自滅を待つというのも手だったが、幸か不幸かその道は回避され続けている。このままだと自力で恒星間航行に到達する可能性もある。
そうなる前にとこちらから先手をとって地球側の機先を制する必要がある」
ユリウスの言葉にフェリウルは深く頷く。
「向こうとしてはこちらを逃がすまいと表舞台に引きずり出そうとするだろうが、そうは行かない」
「こっちも条件は同じだしね」
フェリウルの指摘にユリウスは笑みを見せる。
「もし軍事衝突が避けられないのなら、今の技術的優位を可能な限り保ったままやつらを宇宙に誘い出す。月、火星、木星以遠からの惑星間攻撃を行い、地球側にその拠点を破壊するため長距離の遠征を行うように仕向けていく。
惑星間航行すらおぼつかない今の地球側にとって太陽系ですら無限の闇だからな」
「そのためにあえて月や火星に拠点を設けないわけだからね」
「ああ。月や火星といった地球近傍の天体に戦略拠点をもうける必要はない。設けるとしたら一時的に拠点を築いて相手の攻撃を誘う誘いの一手としてだ」
そう言うとユリウスは手にしていた石を黒白乱れる碁盤に打ち込む。
その一手にフェリウルは頭を掻いて腕組みをする。
そこからしばらくしてからようやく彼女は盤上に石を打つ。




