表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/24

006 疑問と決意と 2025年3月29日

 二人の男が街道を走っている。

 先を進んでいた馬車に追い付くと飛び乗り、荷台がギシっと軋む音を立てた。


「ダニー隊長、なんだよさっきのガキ共は! ありえねぇ‼」

「そりゃ俺が聞きたいっての。すげぇ突きだったな。当たりどころが悪けりゃビリー、お前死んでたわ! ハハハっ‼」

「笑い事じゃねぇよ。そっちだってヤバかったろ! 痛ってぇよぉ。あばらイってるわコレ‼」


 背の高い男、ビリーは顔をゆがめながら脇腹をさすった。突きを受けた鎖帷子は歪んで穴が空きそうだ。斬撃を受けたダニーの短剣も大きく刃こぼれしている。


(どっちも術で強化してたんだがな)


「どう思う? ビリー」

「嘘は言ってねぇな。猫目石の話はカマかけのネタに使っただけだろ。調査漏れの『黒』の被害者だ。チッ……胸クソわりぃ」


 ビリーは眉間にシワを寄せて顔を顰める。


「……そうだな。俺もそう思う」

「だけどよ、クセっ毛の石は気になるな。色は違うがアレは『本物』だった。『青』もあるなんて聞いてなかったぜ?」


(その通りだ。母親だけが何故殺された? やはり『青』も無関係とは到底思えない)


「気にはなるが一旦忘れろ。現時点で『黒』の情報は全て確認が完了した。予定通りこのまま目的地に向かう」

「了解」


 男達は馬車に揺られながら、街道の先へと消えていった。



 ※※※




 辛くも難を逃れた姉妹は暫くの間、その場で呆然としていた。


「お姉ちゃん! 何さっきの奴らッ! ありえないっ‼」

 ようやく思考を取り戻したリーネが喚いた。


「ふふふ。私の方が聞きたいよ。リーネったら、自分から敵に挟まれに行っちゃダメだよ?」

「ぐぬっ。だってもう一人いるなんて全然気が付かなかったんだもん。お姉ちゃんがいなかったら死んでたね。えへへ」


 笑い合い、緊張が緩まる。

(アイツら……。私の斬撃はともかく、お姉ちゃんの突きを受けて直ぐに立ち上がるなんて……)


「おいどうした! 何があった‼」


 ダルドが駆け下りてきた。

 激しい戦闘音に気づき、家から飛び出してきたようだ。

 レーゼが見知らぬ男二人に襲われたと伝える。


「まだ近くに潜んでいるかもしれん。後は自警団に任せて今日は宿で休ませてもらえ」

 姉妹はもう危険はないと感じていたが、素直にダルドの言葉に従った。


「うん……痛ッ!」


 立ち上がろうとして地面についたリーネの左手首がズキンと痛む。ダルドに肩を貸してもらい、ふらつきながら立ち上がった。



 ※※※



 周囲を警戒しながら山道を下り、町に戻った三人は宿屋の扉を開けた。ずぶ濡れで泥だらけのリーネとレーゼは入る事を躊躇する。しかし、ひと目見て顔色を変えたタチアナに引っ張り込まれてしまった。


 まだ食堂にいた自警団三人組は青い顔をして唖然としている。何者かに襲われたと言うリーネ達を見て、完全に酔いが覚めてしまったようだ。


 ダルドは三人を引っ掴んで自警団詰所へと走って行った。

 

「タチアナさん、ニナもありがとう。お店汚しちゃってゴメンね」

「いいのよ! そんな事は‼ 無事で良かった……」


 涙を浮かべたタチアナが二人まとめて強く抱きしめた。ニナもわんわん泣いて抱きついてくる。

 姉妹は人のぬくもりに身を委ねる。そして『生きている』という喜びを存分に噛み締めた。

 

 アレクが乾いた毛布を持ってきて、バサっと被せた。抱きついて濡れてしまったニナもまとめて、柔らかい毛布に包まれる。


((あぁ……ほんとに、助かって良かった……))


 ぬくもりを感じながらホッと一息つくと急激に眠気が襲ってきた。空きの客室に送ってもらい、借りた寝間着に着替えてベッドに倒れ込んだ。


 ((私は生きたい。絶対に、絶対に生きて必ず……))


 そのまま、深い眠りへと落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ