004 姉妹と襲撃者と 2025年3月29日
馬車に荷物を乗せながら男が宿の様子を伺っている。
ダニーと呼ばれていた商人だ。
少女が猫を抱いて宿から出てきた。空を見上げて足早に路地に入る。その先には山道が見えている。
(猫を抱いて深く山に入るという事は無いだろう。登った先の小屋か)
「あの娘の左手だ。行け」
傍らに控えていた男に小声で命じ、馬車に乗り込み御者の隣に座る。
「そのまま南の街道をゆっくり進め。後で追いつく」
ダニーは御者に指示し、宿が見えなくなった所で馬車から飛び降りた。周囲に人影は無い。
「青……か」
ボソリと呟き、人目を避けるようにして路地裏に消えていった。
※※※
降り始めた雨の粒が木の葉に当たって弾けた。 リーネは路地を出て山道に入っている。
(……尾行、されてるよねぇ。どうしようかなぁ)
不審な気配に気付いていたが、振り返らずに歩く。
スピネルを下ろして先に行かせた。
もうじき家に続く横道にさしかかる。
(登ってダルドさんに助けを……いや、もう襲ってきそうだ)
背後に感じていた息づかいが迫ってくる。
(不意を突いて全力で町に逃げるか)
雨脚が強まってきている。
意を決したリーネは自然に歩く速度を緩めた。
──背後からバッと手が伸びてくる
リーネは瞬時に屈み反転して躱す
強く地面を蹴り、男の背後に回った瞬間
眼の前に別の男が──
両腕を広げて道を塞がれた──
(ッ! しまった‼ 二人いたなんて‼)
転びかけたがなんとか停止する。
(一人目は囮! 森に飛び込むべきだったッ‼)
「痛ッ‼」
急停止したリーネの左手首を、背後の男が捻り上げた。
※※※
レーゼは目を閉じ、両手を組み、祈りを捧げている。
雨粒が屋根に落ちてパチパチと音を立て始めた。
レーゼは素直に信じる。
良い予感も悪い予感も。
信じても何もない事が多い。
しかし際どく危険を回避した事があった。
レーゼは目を見開き、立ち上がる。
そして剣を、手に取った。




