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018 見つめる瞳と珈琲と 2022年1月17日

 応接室の扉を締めて立ち尽くすフランツ。その顔は蒼白だ。


「そこに座れ」

「はい」


 観念し、言われた通りに座って姿勢を正した。


「俺は魔導騎士団特務隊隊長ダニエル・ウェイブス。話せ。聴いてやる」

「はい。お聴き頂ける事、有難き幸せに思います。あの日……」


 フランツは可能な限り平静を保つよう心掛け、事件の詳細を語り始めた。




 ※※※




 ダニエルによる聴取は数時間に及び、同じ内容を何度も聞かれ、フランツは必死に思い出しながら、ありのままを伝える事に努めた。


「最後の質問だ。黒色の猫目石の指輪に心当たりは無いか」

「黒色の猫目石? ……心当たりは有りません。耳にした事すら有りません」


「聴取は終わりだ。何か聞きたい事はあるか」

「はい。ルドルフ団長のご家族は、ご無事なのでしょうか?」


「ルドルフの妻と娘姉妹、三名の遺体が確認されたと報告を受けている」

「そう……ですか……」


「聞きたい事は以上か」

「はい……。以上です。裁定をお待ちして全てに従います」


 フランツはがくりと項垂れ生気を感じない程だ。


「騎士フランツ。顔を上げろ」


 フランツは声も発せずにいるが、顔を上げ姿勢を正した。


「良く話してくれた。裁定も何も無い。お前は罪人でも被疑者でもないのだからな」

「な、何故ですか? 私は……団長とご家族を殺害した容疑で手配されているのでは……」


「各領地内での犯罪者は、各領主の名の元に裁かれるのは知っているだろう。今回の場合は当然エンハイム公だ。事件翌日までお前は現行犯として手配がかけられていたが、その後撤回されて今に至る。エンハイム公はお前を追う気が無いんだよ。重罪の場合には皇帝陛下の勅命により手配される事もあるが、今回はそれも無い。陛下は別の者の犯行だとお考えだ」


「陛下……が?」


 フランツは落胆と安堵と疑問が入り混じり、思考が纏まらないようだ。


「しかしベールズは未だ厳戒態勢だ。領内で内乱の可能性が有る、としてな。エンハイム公のお考えは分からんが、今お前が戻れば罪人として捕らえられる可能性が高い」


 フランツは呆然としたまま口を閉ざしている。


「気持ちの整理が必要だろう。少し安め。後程こちらの知る情報も教えてやる」


 ダニエルはフランツの肩をポンと叩くと、フランツが入ってきたのとは別の扉から出ていった。




 ※※※




 暫くしてライザが部屋に入ってきた。未だ放心状態のフランツの前にマグカップを静かに置く。


 白い湯気がゆらりと昇り、珈琲の香りが部屋を満たしていく。

 焙煎直後にしか感じられない新鮮で芳醇な香りだ。


「あ、あのっ!」

 無言で退室しようとしていたライザに震えた声でフランツが話しかける。


「ライザさ……殿も、魔導騎士団の?」


「私は只のしがない民間職員さ。……些細なことでも国に報告する義務を負っているだけのね」

 無表情のライザが答えた。


「いえ、しがないなんてことは決して有りません。ライザさんのおかげで、国の安全が護られているのですから!」

「何故そう思う」


 ライザは苛ついた様にフランツを睨みつける。


「今回の加入希望者だけでも四百人以上。全員の特徴と、貴女が書いた番号の全てを記憶しているのでしょう? でなければ、私は今この部屋に居なかったはずです! ダニエル隊長に引き合わせて貰えたことを、本当に感謝しているのです!」


 フランツの瞳は真っ直ぐにライザの瞳を見据えている。

 先程、震えた声を出していたのが嘘のようだ。

 ライザも目を見開き、フランツの瞳を見つめる。


「フランツ、あなたは困難の星の元に生まれている。これからも多くの苦境に立たされるでしょう。でもね、それは貴方を強く磨き続けるわ。一つ一つ乗り越えた先に、あなたはきっと……」


 瞬き程の僅かな時間、言葉なく見つめ合い――


「きっと……?」

「ナイショ!」


 イタズラっぽくニッコリと笑うと、そのままライザはスッと部屋を出て行ってしまった。

 その笑顔は、絵画の中で微笑む天使のように可憐で素敵な……


「おい、どうした。顔真っ赤だぞ」

 ライザと入れ替わりでダニエルが部屋に入ってきた。


「い、いえ。なんでもありませんっ」

 フランツは何かを誤魔化すようにマグカップを手に取り、飲み慣れぬ珈琲をグビグビと飲み干した。




 ※※※




 一息ついたフランツは落ち着きを取り戻している。

 二人は再び話し始めた。


「一つ確認したい事が有る。ルドルフがお前に指輪を託した時、巡回の引き継ぎの騎士に出迎えられたのだったな。それは誰だったか覚えているか?」


「出迎えてくれた騎士は、確か……アル……ネスさん、騎士アルネスが……」

 フランツは目を見開いて動きを止めた。


「ウチに届けてくれないか、その言葉も聞かれていたのだな?」

「はい。その言葉を聞いていたのは騎士アルネスの一人だけです……」


「そうか。唯の状況証拠に過ぎん。しかし、お話を聞く価値は有りそうじゃないか。ソイツにな」

 ダニエルがニヤリと笑う。そしてフランツは拳を握りしめてワナワナと震えている。


「伝令を頼む。ベールズにいるビスマルクに騎士アルネスを調査せよ、とな」

「ハッ」


 部屋の外で控えていた私服の騎士が、素早く走り去っていった。



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