001 記憶と少女と
鬱蒼と生い茂る木々。
滾々と湧き出る水の音が響く。
無数の葉を透かして溢れる陽の光。
透き通る金緑石の粒を散りばめたかのように、
苔むした岩肌がきらめいている。
此処に来ると、積もる思いが解けるように感じる。
目を閉じ、両手を組んで祈りを捧げる。
ナイフで苔を削り取り、皮袋に入れた。
岩の下、波紋を描いて揺れる水面が少女の顔を映している。
やや癖のある栗色の髪が、そよぐ風にたなびく。
ふっくらとした頬が赤みを帯び、琥珀色の瞳がどこか遠くを見つる。
水に手を浸すとひんやりとした。
両手ですくって口に含むと、仄かな苦みを伴いながら乾いた喉へと染みわたっていく。
左手を掲げ、小指につけた指輪を見つめる。
濃く深い青色の石。
一筋の光の帯が揺らめいている。
覚えの無い記憶が、頭の中に浮かぶ事がある。
……湖の畔
色とりどりに輝く沢山の『丸い何か』が浮かんでいる
湖面を覗き込んで自分の顔を映してみる
あまり見かけない陰影に乏しい顔立ち
癖のあるツヤツヤした黒髪
深く覗き込んで湖に落ちそうになり
子供たちが駆け寄ってくる
見たことのない服を着て
知らない言葉で話す子供たち……
二日前に迎えた十四歳の誕生日。
そのあたりから記憶が鮮明になっている気がする。
黒髪の少女が左手の小指につけた指輪。
濃く深い青色の石。
一筋の光の帯が揺らめいていた。




