第8話 「皆殺しだ」(修正済み)
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
新大阪駅に突入した一行は4組に分かれてそれぞれの階を制圧する。
ミキオ班は1階、ハナビ班は2階に割り当てられた。もちろん、この2班だけではなく、各階200人、新大阪駅の周辺の鬼に対応している者達も含めれば合計千人近い隊員がこの作戦に参加している。
【10:00 floor1】
先陣を切るソウスイに続くミキオを始めとした一同。と、それとは別で行動する二人の男がいた。ギンとヤマトだ。
彼らはソウスイの指示で別行動をしている。理由は単縦で、彼らは一部隊に相当する実力を持っているからだ。
「ヤマト……作戦の概要はわかっているな……?」
ギンがヤマトに確認する。
「ああ……お前が銃で交戦し始めたら、俺がお前の背中を護るんだろ……?何で今更そんな事聞くんだよ」
ヤマトは任務ということもあってか、少し雰囲気がピリついていた。
「そうピリピリするな……ただの確認だよ」
ギンがヤマトをあやすが、ヤマトの表情に変化はなかった。
2人の目的は鬼の陽動で、二人が鬼の気を引いた後、後ろからソウスイ達が攻撃を仕掛けると言う作戦だ。
そんな彼らの実力を踏まえての大胆な采配だったが、彼らの上司である大樹ミキオは杞憂していた。
「ソウスイさん……やっぱり俺、心配です……」
「あいつらのことか……?」
ソウスイはミキオの心情を察してそう言った。
「ええ、特にヤマトの方が……ギンが傍に居るとはいえ、あいつを自由にするのは少し心配です……いつ何をしでかすか……」
ミキオは顔色を悪くしてそう言った。
「なに、心配するなミキオ、お前の部下だろう。信じてやれ……」
そんなミキオの心配をソウスイが払しょくする。
「ですね…」
杞憂していたミキオだったが、仲間を信じることにし、切り替えてそう言った。
「お前ら!気を引き締めていけよ!」
守護警察曹長であり、戦国ゲンスイの息子でもある戦国ソウスイが声を張り上げる。
「『了解!』」
【10:05 floor2 鬼丸ハナビ班視点】
2階はハナビが指揮をとっていた。
「全員!俺に続け!遅れるなよ!」指揮といっても最前線で戦い部下達を鼓舞するだけの単純な作戦だったが、この場合はこれが最も効果的だった。鬼の群れに対して正面から突っ込むことで最速での制圧を目指すハナビ。
イバラやつららもハナビの後ろに続く。
「うげぇ……何でこんなにいるわけ……?ハナビ一人でどうにかできないの……?」
イバラが鬼に向かって走りながらハナビに愚痴をこぼす。
「無茶言うな……!ここまで来たんだ……!!お前も戦うんだよ……!!」
ハナビはイバラの愚痴に付き合っている余裕がなかった。
「はいはい……わかったよ……」
イバラは渋々抜刀する。
「面倒だからこれで決めるよ、ハナビ!!」
イバラの雰囲気が変わる。
それに呼応するようにハナビも覇気を纏う。
「上等だ!!」
「『ウォォォォォォ!!!』」
二人は声を上げて鬼の群れに先陣を切るように突撃する。
後に続く隊員たち。レモンも鬼に怯えることなく勇敢に戦っていた。
「ああもう、うざいわね!!私は生きてギン様の所へ行くの!!こんなところで……死ぬわけにはいかないのよ!!」
レモンにとって、ギンは世界の中心で生きる意味だった。生きてギンに愛されるために、己の心を奮い立たせて鬼と戦う。
レモンの使用する二丁拳銃は、ギンが以前使用していたものだった。
遡る事数週間前、ギンとレモンが初めて出会った日の夜だった。
レモンはギンと同じ、銃による遠距離攻撃要員としてハナビ班に所属していたのだが、自身の射撃の精度に伸び悩んでいた。そんな時、共同任務で凄腕の銃使い兼塩顔イケメンの「冷凍ギン」と出会う。完全に一目ぼれしたレモンはその日の夜、勇気を出してギンに話しかけてみることにした。
「ギ、ギン様……今ちょっといいですか……?」
共同任務で少し距離が縮まったとはいえ、まだまだお互いのことは知らない。レモンは恐る恐るギンに話しかけてみた。
「どうしたんだ?」
ギンがレモンの方を向く。
(ヤバっ!目合っちゃった……!)
「あ、あの……えと……私、銃のことで相談があって……」
レモンはありのままのことを話す。
「そうか……それはだな……」
「な、なるほど……」
(ギン様の説明わかりやすっ……!)
ギンのわかりやすい説明にレモンは感動した。
ギンがレモンに射撃のコツを教えた後、何かを思い出す。
「そうだ……レモン、そこで少し待っててくれないか?渡したいものがあるんだ」
「え?は、はい……!」
そう言ってギンはどこかへと消えていった。
(渡したいものってなんだろ……?はっ……!もしかして結婚指輪?どどどどうしよう……!これってプロポーズなのかな……!?ずるいよギン様……!こんな辺鄙なところでプロポーズするとかロマンチックすぎるよ……!!かっこいいのに気取らないところも素敵……)
レモンが妄想にふけっていると、ギンが二丁拳銃を手に帰ってきた。
「すまない、遅くなった」
「……え?あっ、はい!!」
ギンに声を掛けられ現実に戻るレモン
(ヤバッ……!!妄想してるとこ見られた……キモい顔してなかったかな……)
自身の蕩け切った表情をギンに見られていなかったか心配するレモンだったが、ギンは淡々と話を続ける。
「これ、俺が昔使ってた銃なんだ。型は一つ前の物だが、癖がなくて使いやすい。よかったら使ってみないか?使いずらかったら処分してくれて構わないから」
そう言ってギンはレモンに二丁拳銃を渡す。
「え、ここここれ……ギン様が昔使ってたやつですか……?」
レモンは激しく動揺する。
「ああ、一年くらい前にな……嫌だったか?」
少し心配そうな顔でギンはレモンの顔を覗き込む。
ギンと目が合ったレモンは顔を赤くして必死に弁明する。
「そ、そんなわけないです……!!めちゃくちゃ嬉しいです……!!家宝にします!!」
(やば……!声裏返っちゃった……!緊張してるのバレたかな……!あああヤバいどうしよう……!!ダメだ……頭回んない……)
「そこまでしなくても……まあ、喜んでくれてよかったよ。今度感想を聞かせてくれ」
大げさなレモンにギンは少し引きぎみになるが、レモンはそれに気が付いていなかった。
「は、はい!!喜んで……!!」
レモンは完全に舞い上がっていた。
(──ああ、何でこんな時にあんなこと想い出しちゃったんだろ……あの時の私酷かったな……緊張して全然喋れなかったし、態度もおかしかったよね……)
レモンは鬼との戦闘中、過去の苦い思い出を思い出していた。
(ギン様は優しいけど……ギン様の優しさに甘えるのは違うでしょ……!!私は、もっとギン様と一緒に居たい……!!傍で支えてあげたい……!!決めた……!!私、この戦いが終わったらギン様に告白しよう……!!私にできることなんてたかが知れてるかもしれないけど……!!この気持ちは抑えられない!!!!一度きりの人生、私は後悔したくない!!)
覚悟を決めたレモンは戦場で舞い踊る。
二丁の銃を放ちながら戦場を舞う姿はまるで、機械仕掛けの舞姫のようだった。
【10:05 floor1 ヤマト・ギン視点】
鬼の気配に気をつけながら急足で進んでいる二人に、最悪の知らせが走る。
「──こちら医療班……!!現在鬼の攻撃を受けていてもちそうにない……!! すでに何人か殺されていて、ここは重症の患者も多い……!!バリケードが突破されれば全員殺される……!!大至急、救援を要請する!!」
助けを求める声の裏から、激しい銃声と兵士たちの声が飛び交う。現場の緊張が無線越しにひしひしと伝わってきた。
二人の脳裏になのはの顔がよぎる。
「ヤマト……」
ギンがヤマトの顔色を伺う。
なのはも衛生兵としてこの作戦に参加していたが、戦闘は得意ではなく、彼女が護身用に装備している拳銃も鬼との戦闘ではほとんど役に立たない。第一、鬼が意図的に弱者を狙うといった事は今まで前例がなかったためこのような状態が想定されておらず、歩兵がすぐに対応できるような采配がされていなかったのだ。初めて鬼を観測した東京の陥落事件の時も、鬼はあくまで「無差別」に人々を殺していたため、こういった狙い撃ちのような形は初めてだった。
想定外の事態に、無線を聞いた全員が困惑する。
【同時刻 Floor2鬼丸ハナビ視点】
「ハナビ聞いた!?」
「ああ!だが、今は目の前のことに集中しろ……!!ここで失敗すると、もっとたくさんの人が死ぬことになる!!考えるのは、コイツ等を全員始末してからだ!!」
ハナビは仲間の安否を心配するイバラに対し集中を促しながら、鬼との戦闘を継続する。
しかし、ハナビ自身も心の内では仲間のことを心配していた。
(まずいな……衛生兵がやられたら一気に死亡するリスクが上昇する……!!それに、何で鬼共は衛生兵を狙い撃ちしたんだ……?これじゃまるで、『戦略』じゃないか……!!淀川の時とは比べ物にならないくらい、『知性』を持った鬼がいるってことか……?だとしたらマズいな……知性持ちが一匹だけとは限らない……もしかしたらここにも既に……!!)
【同時刻 Floor3天内ツカサ視点】
「ツカサ様……!」
無線を聞いた従者がツカサに指示を仰ぐ。
「──どうやら、敵はただの化け物ではないようだ……」
「気をつけろ、何かおかしい」
ツカサは冷静に分析して従者に警告した。
「罠……でしょうか……?」
「わからん……だが、俺たちにとって相当な痛手なことに変わりはない……」
先の見えない深刻な状況に、従者の顔が曇る。
「とにかく……今は先へと進もう」
緊張と混乱が混在する中、ツカサは作戦を成功させるために進み続ける。
「──油断するなよ」
【同時刻 Floor1戦国ソウスイ、大樹ミキオ視点】
「まずいですよソウスイさん……」
ミキオが青ざめた様子でソウスイに話しかける。
「オイオイオイオイ……さすがに冗談だよな……?」
何かを察したソウスイもまた、青ざめた様子でミキオの方を向いた。
「いや、今ならまだ間に合うかもしれません……!!曹長……!!あいつらに無線を……!!」
【10:07 Floor1藤原ヤマト・冷凍ギン視点】
「──悪ぃギン。俺、我慢できそうにねーわ」
無線を聞いたヤマトの声が震える。
「安心しろヤマト、俺が全力で支援する」
ギンの口調はいつも通りだが、行動は違った。
ヤマトはギンの意外な返答に少し驚いたが、少しだけ微笑んでこう言った。
「──そっか、お前とは初めて意見が合ったな……」
「ああ」
二人の感情が共鳴する。
『「皆殺しだ!!」』
窓のガラスを破り、医療班のいる前線基地を目指す二人に、ソウスイから無線が入る。
「──お前ら…… まさかとは思うが助けに行こうだなんて思ってねーよな……?」
言い返そうとするヤマトに、ギンが「待て」のハンドサインをする。
「すまない曹長…… 俺たちの処罰は好きにしてくれて構わない。 駅はアンタと他の隊員に任せた」
いつものギンなら言いそうにない言葉を言っているのが少し新鮮に感じたヤマトはポカンと口を開けていた。
しかしそんなことはお構いなしにソウスイは任務を放棄した二人に対して怒鳴り込む。
「ふざけんなテメェら!この作戦の重要さがわかってて言ってんのか?大体……!」
しかしギンは引かなかった。仲間のために、珍しく感情的になるギン。
「わかってるさ!頼む……!仲間なんだ……!」
少しの葛藤の後、ソウスイは二人を前線基地へ送り込んだ方が被害が少なくなると判断して二人の行動を許可した。
「──クソッ!これで基地の鬼狩残したら許さねーからな……!」
「……すまない、恩に着る……!」
【10:10 floor 1 戦国ソウスイ視点】
「曹長!!いいんですか!?あいつら放っておいて……!!」
ミキオが作戦の失敗に対する不安と怒りをソウスイにぶつける。
「止むを得ん……!!結果論だが、あいつらの位置的に野戦病院までそう時間はかからないし、2人の人員を割くだけで病院の鬼を狩り切れるんなら十分だ……!!」
ソウスイは口ではそう言っていたが、少し不快感が残っていた。
「テメェら!諸事情で別で動いていた藤原ヤマトと冷凍ギンが医療班のところにいる鬼の対処に当たることになっちまったから、俺たちだけでここのフロアの鬼狩り尽くすぞ!!」
ソウスイが指示を聞かない部下へのうっ憤をぶつけるように、ものすごい覇気でそう言った。
それが、結果的に隊員達の士気を上げることになる。
「行くぞテメェら!!!!」
「「「ウォォォォォォォ!!」」」
【10:15 野戦病院 ギン・ヤマト視点】
無線で助けを求めていた男を含めた全員が鬼に殺されていた。
バリケードが突破された部屋に血まみれの死体が無残に横たわる。
「クソッ……!」
自分の無力さを目の当たりにして壁を刀の塚で殴るヤマト。鈍い音が虚しく響いた。
「まだ誰かいるかもしれない……急ごう……!!」
ギンは後悔で目が曇らないうちに、他の衛生兵がいないか探す姿勢に切り替える。
しかし、ギンの声はどこかいつもの冷静さを欠いていた。それがヤマトの緊張と不安を加速させる。
(クソッ……! なんかわかんねーけど、スゲェ嫌な予感がする……!!なのはちゃん…… 頼むから無事でいてくれよ……!)
しばらく人気のない野戦病院を探索していると、壁にもたれかかっているなのはを発見する。
出血の酷いなのはだったが、辛うじて息をしていた。
「ハッ……!なのはちゃん!」
「待てヤマト!!」
ギンがヤマトに警告するが、少し遅かった。
ヤマトが急いで駆け寄ったその時、ものすごい速さで鬼がヤマトに襲いかかった。
「グッ……!!」
(こいつ……!!今まで気配を隠してやがったのか……!!)
とっさにヤマトが刀で攻撃を防ぐが、体勢を崩していたため鬼の次の一手を防ぐ余裕がなかった。
(まずい……!!やられる……!!)
ダダダダダッ!
ギンがアサルトライフルで鬼に対して発砲し、なんとか鬼をなのはとヤマトの元から引き離す。
「ハァ……ハァ……ごめんギン……!助かった……!」
「ああ、だが気をつけろヤマト……こいつら……!どこか様子がおかしい……!」
なぜか一人で襲いかかってきた人型の鬼にギンは警戒していた。
(この違和感は何だ……!?まるで淀川の時のような……こいつにも『知性』があるってのか……!?だが、あの時と違って武装はしていない……こいつは一体何者なんだ……!?まさか、こいつはただの囮で、本当の狙いは……!!)
ギンがそれに気付きかけた時、今までで一番強い鬼の気配がした。それを感じ取ったギンは咄嗟に大声でヤマトに伝える。
「ヤマト!!そいつは罠だ!!俺たちは既に囲まれている!!警戒しろ!!」
「イ” マ” ダ!」
不気味な重低音だったが、二人の耳にははっきりと聞こえた。
鬼が人間の言葉を話したのだ。
(今コイツ……何て……!)
(ありえない…!)
その奇妙な現象に戸惑っていると、気配を決して潜んでいた鬼が一斉にヤマト達に襲いかかる。
「ギン!!」
ヤマトが必死にギンの名前を呼ぶ。
「わかってる!!」
ヤマトとギンが必死に襲い掛かる鬼を対処する。
ヤマトの刀が次々と襲い掛かる鬼を切り倒す一方、アサルトライフルで戦うギンは少し苦戦していた。
「クソッ……!!これじゃ埒が明かない!!」
迫りくる鬼に発砲し、リロードの最中に襲い掛かる鬼に対して蹴りを入れるギンだったが、鬼はまだまだやってくる。
「ギン!!」
何かを思いついたヤマトがギンに向かって叫んだ。
「俺がこいつらの気を引いておくから、お前はあの屋根に居る喋る鬼の相手をしてくれ!!あいつはただの鬼じゃない!!生け捕りにしてソウスイさんの所へ連れて帰るんだ!!」
「無茶言うな!!そんな余裕……」
ギンがヤマトと会話をしている最中にも鬼は容赦なく襲い掛かる。
「クソッ……!!」
「頼む……!!ここは俺一人で何とかする……!!絶対に逃がすな!!」
ヤマトの必死の訴えに渋々だが納得したギンは、強引に戦闘を離脱して喋る鬼の方へと向かった。
「ヤマト……!!絶対に死ぬなよ……!!」
ギンが名残惜しそうにそう言うが、ヤマトは強気に言い返す。
「ヘッ……!!こっちのセリフだっての……!!」
ギンが戦闘を離脱してから、ヤマトはもう一度気合を入れなおす。
「へへへ……もう後には引けねぇな……」
「かかってきやがれ!!」
【10:18 野戦病院 冷凍ギン視点】
(あいつはさっきから一体何をしているんだ……!?指示を出しているようには思えないが……いや、考えるだけ無駄だ……!!今は目の前のことに集中しろ……!!)
ギンは走りながら屋根の上に居座っている喋る鬼めがけて発砲する。
ダダダダダッッ!!
しかし、鬼の固い装甲はギンの通常弾では破れなかった。
(駄目だ……!!固すぎる……!!)
銃はあまり効果的ではないと判断したギンは咄嗟にポケットからグレネードを取り出し、鬼の方へ放り投げる。
(これなら……!!)
(なっ……!?)
鬼が物凄い動きで宙を舞うグレネードから離れた。
ボォォォォォォォン!!
グレネードの轟音が野戦病院に鳴り響く。
土煙が野戦病院に舞った。
(あいつはどこだ……!!)
ギンは辺りを見渡すが、鬼が居ない。
背中に気配を感じたが、少し遅かった。
「ガハァ……!!」
ギンは何とか銃を使って鬼のパンチを防いだが、受け身が取れず地面に背中を強打する。
「ガルルル……」
鬼がよだれを垂らしながら唸りだす。
(仕方ない……!銃は厳しそうだし、コイツを試すか……!)
起き上がったギンは銃を傍に捨て、ヤマトやハナビと同じ、エアブレードの切先がついたメリケンサックを装着して喋る鬼の前に立ちはだかる。
「グゥオォォォォ]
鬼が低い声で唸りだす。ギンもそれに呼応するように拳を構えてステップを刻む。
「こいよ、ラウンド2だ……!」
続く