第十二夜 -三日月- 最後の夜
物語の構成が確定したので、第二章のタイトルを一部変更しました。
ロベスとバードがいつもの食堂で食事を済ませた後、ロベスの前にアルーンが現れた。
「そうか… 今日は満月か…」
満月の夜にしか現れない幽霊「アルーン」を久しぶりに見たロベスがそっけなくそう呟いた。
「ロベス、残念だけど時間がないの… 再会を喜んでいる暇はないわ… いい?落ち着いて聞いてね?あなたたちのことはずっと見ていたけど、『あの男』は危険だわ… 今すぐに関係を断つべきよ…」
「──話が急すぎて理解が追い付かないんだが… 『あの男』ってだれのことだ…?」
あまり交友関係の広い方ではないロベスだったが、アルーンの指す「あの男」が誰のことかは全く見当がつかなかった。
「本当に気が付いていないの…?『ダイア』よ… 『ダイア・モンドハート』 ガンディラのボスを務めている男よ…」
あまりに意外過ぎる返答に、ロベスは失笑してしまった。
「おいおい… いきなり表れてこれか… アルーン… お前のことは誰よりも信頼しているが、今の発言はひどいぞ… 俺たちのことを見ていたのならわかるはずだ… あの人はこの牢獄の中で誰よりも思慮深く優しい人だ… その人の悪く言うのは、いくらお前でも許さないぞ…」
少しずつ空気がキリキリと張り詰めていく。真っ暗な空に輝く大きな満月は、二人を照らすスポットライトの様だ。
「お願い… 聞いてロベス… うまく言葉にできないけど、私にはわかるの… あの男は危険よ… 彼の思慮深さが、やがて大きな歪みを生むわ…!」
アルーンが決して自分をからかっているわけではないことが分かったロベスだったが、脱獄してヴィエゴ・ルイスを暗殺するためにも、ガンディラと友好関係を結ぶことは必須だった。
「だとしてもだ…!俺の野望は知っているはずだ…!ヴィエゴを殺すためには、彼の力が必要なんだ…!ほかに道はない…!」
アルーンの直感はよく当たる。ましていつも以上に深刻な声色のアルーンを、ロベスは最初こそ疑ったものの、ロベスはアルーンは本気だと受け止めたが、受け入れはしなかった。
「──どうして…!?これが最後の夜になるのかもしれないのよ…!?」
アルーンは涙ぐみながら必死に訴えるが、感情的になる方法はロベスには逆効果だった。
「何を訳のわからないことを…!最後がどうとかは俺には関係ない…!あいつを暗殺するためなら、俺はどんな犠牲だって払う…!それはお前が一番知っているだろう…!?」
月が暗闇で覆われていく。
「そんな…!どうして…!? まだ月は昇っているのに…!?」
ロベスの剣幕と覚悟に圧倒されたアルーンは、徐々に消えゆく体で、大粒の涙を流して最後にこう告げる。
「──ロベス… これだけは忘れないでね… たとえどんなに離れていたとしても、私たちはいつも一緒よ…!」
こうして、永く暗い夜が幕を開けた。




