第七夜「裏切り」
ロベスとバードは刑務所内最大派閥であるヒトラルタの採用試験を受けるため、西側にある大聖堂にやってきた。
「しっかしまぁ… よくこんなとこに建てようと思ったな… ──大聖堂を…」
バードはあまりにも刑務所の雰囲気と似つかない大聖堂を見上げて感心する。
ロベスも感動して言葉を失っていた。
中に入ると足音がこだまする。かすかに日光が差し込む薄暗い大聖堂の最前列の席には年老いた老人が
あたりを見渡しても誰も居ない。バードたちは老人の近くに座り、マフィアの男たちを待つことに。
「しっかしあいつら遅ぇな… もうとっくに約束の時間は過ぎてるぞ…?」
バードが壁にかかった時計を見てそう言った。
「──いや待て…」
バードが焦って愚痴をこぼした直後、ロベスが何かに気付いた。
「もしかして、私たちの面接をしてくださるのは貴方ですか…?」
ロベスが、最前列の席で大樹のようにじっと座っている老人に声をかける。
「いかにも…」
「!」
ロベスとバードに緊張が走る。
「フォッフォッフォッ… 驚いたといった顔じゃな… しかし、儂はあくまでお主らの顔を見に来ただけじゃ… お主たち、がこの世を去る前にな…」
そう言って老人が邪悪な笑みを浮かべる。何かを察したロベスはバードを覆うように体の一部を岩にする。
「伏せろ!!」
その直後、激しい銃声が聞こえ、弾丸が雨のようにロベス達に降りかかる。
「──クソッ!テメェら、俺たちをハメやがったな!?」
弾丸から身を守るため、聖堂の椅子に身を隠しながらバードがそう叫ぶ。
「ハメた?ハメるもなにも… テメェらが最初っから俺たちの邪魔をしたんだろ…?探したぜ?泥棒さん?」
聖堂の入り口から、トミーガンのようなものを持った男がそう言った。すでに老人は姿を消していた。
逆光で姿はよく見えないが、ロベス達に因縁があるようだ。
「一体俺たちに何の用があるってんだ!?不意打ちだなんて汚ぇぞ!!」
いきなり命を狙われたバードは激しい怒りを燃やす。
「『汚ぇ』だって?笑わせるな!!テメェらの方がよっぽど汚ぇだろうが!!アニキの命と能力を奪ったこと… 後悔させてやるよ…!!」
そう言って男はまた激しく銃を乱射する。
「クソ…!ロベス…!!このままだとマズい!!早くここから脱出して立て直すんだ!!これを使え!!」
そう言ってバードは光る羽を、ロベスの心臓に突き刺す。まるでダーツのように勢いよく飛び出す羽は、銃弾の雨を潜り抜けてロベスの元へ。
「グウッ…!!」
ロベスの口から血が溢れ出す。
「何をごちゃごちゃしてんだ? テメェらはよぉ!? そんなに死ぬのが怖いのか!?死ぬ前にいいことを教えてやるぜ!!『神』なんてものはいねぇんだよ!!誰もお前たちなんか助けてくれやしねぇ!そこで俺の銃弾に当たるまで、無意味な祈りでも捧げておくんだな!!」
そう言って男はさらに銃を乱射する。木製の椅子はどんどんと壊れていき、聖堂の中は煙の臭いでいっぱいだった。
(まずい…!このままだと… 頼むロベス…! 間に合ってくれ…!)
何かを祈るバード。その時、聖堂の椅子から一筋の闇が男の背後まで流れ込む。まるで突風が吹いたかのように一瞬の出来事だった。
「よう、アニキとやらに『よろしく』って伝えといてくれ」
そう言って闇を纏ったロベスは男の背後に立ち、男の目を左手で隠し右手で喉元を掻っ切った。鮮やかな血しぶきが教会の床を濡らす。
直後ロベスは、走りながらバードの元に戻り、こう伝える。
「逃げるぞ!すぐに追手が来る!!話は後だ!!」
続く




