第三夜「略奪者シンドバード」
その日の夜、ロベスとアルーンは食堂でチンピラたちがバードを連れてくるのを待っていた。
「しかし遅っせえなぁ… あいつら逃げたりしてねぇよな…」
「さあ… こんな塀の中で逃亡しようだなんて思わないと思うけど…」
ロベスとアルーンがそんなやり取りをしている最中、昼のチンピラたちが帰ってきた。
「アニキ!バードってやつを連れてきました!」
「おう!で?バードはどこに居るんだ?」
「え?」
チンピラたちがうろたえる。さっきまで一緒にいたはずのバードがいないのだ。
「あ、あれ!? さっきまで傍にいたはずなのに!? 野郎! どこ行きやがった!?」
チンピラたちがあたりを見渡すが、バードの姿はない。
「お前ら… 俺に嘘ついてんじゃねーよな…」
ロベスがあきれた眼差しでチンピラたちを見る。
「い、いえ…! 嘘じゃないです…! さっきまで本当にいたんです!」
チンピラたちが必死に弁明するが、ロベスはまだ怪しんでいた。
「ホントかよ… そんな急に人が消える訳ねぇだろ… 第一…」
ロベスが言いかけた時、首元に冷たい感触が。
「ロベス!」
アルーンの叫び声が聞こえる。
「動くな」
ロベスが自分の置かれた状況を理解するより先に、男がロベスに命令する。
「お、お前!いつの間に…!!」
チンピラたちも驚いている。男の正体は、チンピラが連れてきた元ロベスの右腕、「バード」こと「シンドバード」だった。
ロベスがようやく状況を理解し、鼓動が高まり始めた頃、首元の感触が消えた。
「冗談だよ!久しぶりだな!ロベス!」
バードがロベスの肩を叩いて再会を喜ぶ。
一気に緊張が解けたロベスは、ため息をつく。
「ハァ… お前がバードか…」
「どうした?お前もしかして、俺のこと忘れたのか!?」
「いや、何ていうか記憶がおかしいんだ… 頭ん中がぼんやりするっていうか…」
「大丈夫か…? 俺の顔をよく見てみろ 何か思い出すはずだ… ずっと一緒に戦ってきた仲だろ?」
そういってバードはロベスの顔を見つめる。ロベスも必死に思い出そうと記憶を辿る。その時、脳内に電流が走る。頭の中には、白く荘厳な王都と仲間の死体の映像が。
ロベスは自分がこの刑務所に収監された経緯を思い出した。ロベスは貧富の差が激しい絶対王政の国、「ゾーニャ帝国」で革命を起こそうと、大勢の仲間を率いて、全てを賭けて武装蜂起したが絶対的な力を持つゾーニャ帝国最強の王「ルイス・ヴィエゴ」に大敗を喫し、この刑務所に収監されたのだ。家も仲間も、財産も、すべて失ったロベスだったが、今、全てを思い出した。
そしてロベスはバードにこう伝える。
「──バード… ごめん… 俺全部思い出したよ…」
「ロベス!!」バードは顔が明るくなり食い気味に反応する。
「俺達でヴィエゴを殺そう…!!今度は失敗しない…!!ここから脱獄するんだ…!!!」
全てを思い出したロベスはもう一度復讐することを決意する。
続く




