第30話「二度と君の手を離さない」
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
扉を開け、再び鬼の世界へ突入したヤマトは、大急ぎでジャンヌのいる洞窟へ向かおうとするが、変わり果てた景色に衝撃を受ける。扉の周辺にある植物は全て灰と化しており、空に浮かぶ雷雲が日光をさえぎっていて、朝なのにあたりは薄暗く、そこら中から炭の匂いがした。そして、今だに燃えている植物や建造物が薄暗さのせいでより目立つという、地獄のような状況に息をのむヤマトだったが、約束を果たすため急いでジャンヌの所へ戻る。
(ひでぇ…!これ全部あいつらがやったことなのかよ…!──ダメだ…!今は余計なことは考えるな…!今はとにかく、ジャンヌに会わないと…!)
洞窟へたどり着いたヤマトだったが、あたりを見渡してもジャンヌがいない。念のため、名前を呼んでみるとわずかだが物音がした。ヤマトが警戒しながら音が鳴った方へ近づいていくと、人のいた痕跡が。
ヤマトは刀を抜き、奇襲を警戒しながら洞窟の奥へと進んでいく。中は壁にかかった松明の光があるものの薄暗く、視界が悪かった。
すると、突然背後に気配を感じる。ヤマトが刀を振ろうと振り向くと、包丁を持って怯えていたジャンヌの姿が。
「ジャンヌ…?」「ヤマト…?」
二人は武器を捨てて泣きながら抱き合った。
「ジャンヌ…!ジャンヌ…!」
「ヤマト…!ごめんなさい…!私…!もうあなたに会えないかと思ったの…!」
「何言ってんだよ…!約束しただろ…?またここで逢おうって…!」
「うん…!」
二人はしばらくの間、松明がうっすらと光る洞窟の中で、抱き合って再会を喜んだ
洞窟の中でどれほどの時が経過したのだろうか。気が付くといつの間にか、守護警察が総力を挙げて、鬼の世界に侵略してきた。人類と鬼の存続を賭けた、最後の戦いが今、幕を開けたのだ。轟音が洞窟の仲間で聞こえてきた。
そんな状況の中、二人はこれからのことについて真剣に話し合った。
「何だ今の音…!まさか…!!」
「そうみたいね…」
「あのねヤマト… もしかしたらもうすでに気が付いてるかもしれないけど、あなたが元居た世界に帰ってから、また空が荒れ始めたの…」
ヤマトは空に浮かぶ大量の雷雲を思い出す。
「みたいだな… このままだと、またこの世界が大変なことになるのか…?」
ヤマトは鬼が人間の世界に侵略することになった原因である、世界規模の異常気象の再来を憂いた。
「わからない… だけど、その可能性は十分あり得るわ…」
ジャンヌはひどく落ち込んでいた。
「それに、人間と鬼が全力で争ったら、この土地はもう元には戻らないかもしれない…!」
「ヤマト… 私、怖い… 私たち、これからどうすればいいの…?」
始めてみるジャンヌの弱気な姿勢に、ヤマトはすこし戸惑ったが、迷いを捨てて、突拍子もなくある意外な提案をする。
「逃げよう… 二人で逃げよう… どこか遠い所へ… 俺達ならうまくやれるはずさ…! 行こう!ジャンヌ!」
ヤマトは覚悟を決めて、ジャンヌの手を取る。
「…え?行くってどこへ…?」
ヤマトの発言を理解できなかったジャンヌは、思わず聞き返す。
「どこだっていいさ!ここでただ世界が終わるのを待つよりは、よっぽどマシだろ!」
「でも、いつ逃げるの…?このあたりは既にたくさんの鬼と人間が戦争をしているのよ…?」
「いつって、そりゃ今からさ…!勿論リスクは知ってるよ… でも安心してくれ。ジャンヌは俺が命に代えてでも護るから… だから、逃げよう…! 俺達だけで幸せになろう…! 逃げて、幸せに…!」
「──わかった。」
意外にもジャンヌは、ヤマトの衝動的な提案を受け入れる。
「だけど、一つだけ約束して。たとえどんな状況になったとしても、二人で逃げるの。自分を犠牲にするなんてことは絶対にしちゃダメ。いい?」
ヤマトが自己犠牲を厭わないことを知っているジャンヌは、釘をさすようにそう言った。
「ああ!約束する!二人で逃げよう!」
ヤマトはジャンヌの目を見てそう言った。
崩れ落ちてゆく世界の中で、二人は何もかもを捨てて逃げ出した。