第24話「Silent Survivor」
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
──鬼の世界・街の麓の山──
「──2年か……」
何かを懐かしむようにヤマトがそう言った。
「……何が?」
「ああいや、俺がここへ来てからもうすぐ2年だなって……」
「そういえばそうだね……なんかもう馴染み過ぎて全然そんな気しないよ。ずっと前からここにいたと思ってたくらい」
「そんなにか……?まあ、馴染めてよかったけど」
「そうだね。もうフードしなくてもいいもんね」
ギリアが冗談交じりにそう言った。
「一体いつの話してんだよ……」
「えへへ、そうえばそれももうだいぶ昔だね」
「だな。時の流れってのは早いもんだな」
「そうだね」
二人はしみじみと感じていた。
──京都・守護警察本部──
「ねぇハナビ……最近様子おかしいけど、何かあった?」
浮かない顔をしているハナビに、珍しく真剣そうなイバラが声をかける。
「別に。大したことはないさ……ただ……」
「ただ……?」
言葉に詰まるハナビを気にするイバラ。
「──ただ、昔を思い出してるだけさ……」
意外な言葉にあっけにとられたイバラはいつものつまらなそうな顔をした。
「ふーん……まあ、ここもだいぶ変わったからね……」
「そうだな……」
しかし、2人とも、どこか言葉の奥底で悲しい音がした。
場面は移り変わり守護警察のガレージへ。
「大樹曹長!!準備できました!!」
「すまない。手間をかけさせたな。後は俺がやるから下がっていいぞ」
「はっ!!失礼します!!」
新兵が、ガレージにおいてあるバケツを逆さにして座っているミキオに声をかけていた。
ゆっくりと立ち上がったミキオは新兵が用意した工具器具を手にすると、整備のため、軍用車の方へと向かっていった。
「ハァ……」
整備に取り掛かろうとすると、重いため息が出る。その車は、以前ミキオ班が乗車していたものだった。
(何やってんだ俺……ようやく日本を取り戻す準備ができたってのに、未だにあの時の事を引きずって……)
『どうかしてんのはアンタのほうだろ……!!こんなに大勢の人が死んでんだぞ!!ここでやらなきゃいつやるんだよ!!』
ミキオの脳内には2年前に喧嘩別れしたヤマトとの激しい口論が。
(──案外、お前の言うことは間違ってなかったのかもしれんな……)
(──2年……組織が変わるには十分すぎる時間だ……俺たちはもう、あの頃の恐怖も憎しみも失っているのかもしれんな……ただひたすらに鬼を狩り、ただひたすらに領土を求める……)
(豊かになるってのはこういうことなのか……?昔は復讐心だとか慈愛だとかが志望動機のほとんどだったってのに、豊かになって鬼を楽に殺せるようになった途端これだ……)
ミキオは空を見上げて何かを思い出す。
ミキオの脳内には変わってしまった守護警察の有様が。
(──これじゃまるで……獣じゃないか……)
場面はイバラとの会話の後、ツカサとの作戦会議のため会議室に向かったハナビ視点に切り替わる。
「来たか──鬼丸ハナビ……」
辺りは薄暗くてよく見えない。
「──会議って聞いてたんだが──これは一体どういうことでしょうか……天内閣下」
ハナビの声が低くなり、会議室の緊張が一気に高まる。
「そう怖い顔をするな……許せ……ちょっとした戯れだ……」
ツカサの横には、ツカサの従者に拘束された鬼がいた。
「グォァァァ……」
鬼が恐ろしい声で唸り声をあげる。
「最近お前の剣を見ていないと思ってな……腕がなまっていないか、試させてもらうぞ」
ツカサはそういうと、指を鳴らして従者に鬼を開放させる。
「なっ……!!」
「グアァァァァァァ!!」
鬼が勢いよくハナビに襲い掛かるが、何とか鬼の攻撃を剣で防いだハナビ。
「クッソっ……!!」
狭い会議室の入り口で鬼を殺すのは至難の業だった。
なんとか鬼を殺せたハナビだったが、怒りのあまり思わず本音が出てしまう。
「──いい加減にしろツカサ!!お前……!!本当にどうかしちまったようだな……!!」
ハナビがツカサを睨むと、その覇気を感じ取った従者たちがツカサの前に立ちふさがる。
「──ツカサ様、許可を」
「まあまて……そう猛るな」
ツカサが椅子から立ち上がり、ハナビの方へと歩き出す。
「口の利き方はなっていないが、こいつはここで葬るには惜しい男だ……必ず次の戦いで役に立つ……」
「──なあハナビ……まるで昔を思い出すだろう……?」
ツカサがハナビの近くでそう言い放つが、ハナビはそれを睨むように言い返した。
「そうだな……お前はまるで変っちゃいない」
「フハハハ……ようやく気が付いたか……そうだ、これが俺だ。何も変わっていない……わかったら口の利き方には気をつけろ……いくらお前でも──次はないぞ……」
ツカサは最後に、ドスの利いた声でハナビを威嚇するようにそう言い放った。
分が悪いと判断したハナビは、不本意ながら自身の非礼を詫びる。
「──クッ!……失礼……しました……」
「フハハハハハ……おい、誰かコイツを見送ってやれ……」
ツカサが声高々に笑うが、それをよく思わなかったハナビはすぐに退室した。
「──結構です……!!」
「フッ……相変わらずつれない奴だ……」
会議室からの帰り道、ハナビはこれからの日本についてひどく悩んでいた。
(──最悪だ……ツカサのやつ、完全に玉座に座ってやがる……!!ダメだ……アイツがここのトップにいる限り、戦争は終わらない……!!鬼の世界の次は外国……いや、東日本か……?いずれにせよ、あいつの果てしない野心は危険だ……!!)
ハナビの脳内に、最悪の考えが過る。
(──どうする俺……アイツを殺すか……!?いやでも……下剋上を果たしたところで、次また同じことが起きたら永遠に同じことの繰り返しだ……)
しかし、すぐにそれは悪手だと気づいた。
(もう俺たちに平和は訪れないのか……?)
ハナビは藁にもすがる思いで、2年前に消息不明になったヤマトを思い出す。
(──なあ、ヤマト……教えてくれ……お前は今、どこで何をしているんだ……?──お前がいた未来は、こんなにも息苦しいものなのか……?)
つづく




