第23話「Reckoning Dawn」
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
──2022年 京都 守護警察本部──
「──もう2年か……」
「──ええ……」
薄暗い部屋で2人の男が何かを話している。
「──沈まれェェい!!これより、定例集会を行う!!貴様ら全員、心して聞くように!!」
雑踏とした集会場に、威厳のある声が拡声器越しに響き渡る。
集会場は、床が見えないほどの兵士で埋め尽くされていた。
「──あいつら……どこかで生き残ってたりしないですかね……」
「──無駄だ 何度も言わせるな」
「──奴らは死んだ。今度は、俺達が繋ぐ番だ」
集会場の緊張が一気に高まる。先ほどまで騒いでいた軍人たちもごくりと唾をのみ、皆誰かを待っているようだった。
「──そこで見ていろ鬼丸ハナビ……これからの世界を変える──『英雄』の演説をな……」
そう言って男は光の方へと歩き出す。男の足音が遠くなるにつれて、歓声が大きくなりだした。
「──戦国ゲンスイ率いる異世界調査隊が死亡してから2年……!!我々はついにここまで来た……!!」
男の声が基地内に響き渡る。先ほどまでのどよめきとは打って変わり、そこにいる全員が男の演説を傾聴している。
しかし、男は未だに壇上に現れない。静寂に包まれた集会場は再びどよめきだすが、アナウンスは続いた。
「──西日本の奪還に成功し、居住地域は拡大した……!!食料自給率も向上し、生活の質も以前とは比べ物にならないくらい豊かになった!!これも全て諸君らのおかげだ!!」
「──しかし、ここで終わる我々ではない!!我々は紡がなければならない!!先へと旅立った英霊たちの分まで!!これからの未来を担う、新世代の分まで!!」
熱気のこもった演説とは裏腹に、会場は混乱状態に陥っていた。
「なにやってんだアイツ……」
舞台袖から集会場を見ていたハナビが少しあきれた表情でそう漏らした。
「──聞け!!私はここに居る!!」
突如舞台横の小さな壇上に現れた男、天内ツカサに大量のスポットライトが降り注ぐ。
それを見た兵士たちは歓喜の声を上げる。
しかし、ツカサはそれを気にする素振りを見せずに演説をつづけた。
「──時は満ちた……!!今から半月後の2022年10月7日!!──これより、鬼の世界に対する全面戦争を仕掛ける!!」
「──ウオォォオオオオ!!」
会場のボルテージが最高潮に達した。
ハナビの居る舞台袖にまで振動が伝わってきた。
「──あのバカ……!!もっと言い方ってもんが……!!」
ハナビは苦い顔をして頭を抱えた。
「嬉しいか……?もっといいことを教えてやろう……」
「諸君らが知っているように、異形の化け物、通称『鬼』たちは扉の向こうからやってくる……!!」
「──しかし、誰も扉の向こう側、『鬼の世界』を知るものはいない……!!巷でささやかれている鬼の世界に関するうわさは、全て憶測の域を出ない……!!しかし、ここに確かな情報がある!それは──」
「ハァ……」
ハナビが頭を抱える。
「──鬼の世界への入り口は、一つではないということだ!!これは超極秘機密のため、守護警察の中でも数えるくらいの者しかしらないことだが、この作戦を実行するにあたって公開しよう!!」
「──我々が把握しているだけでも、現在24の扉がある!!」
「──これはつまり、鬼が広範囲にわたって生活を営んでいたということだ!!」
「──まれにみる武器を扱える鬼や、対話が可能な鬼の存在を考えると、ある一つの仮説が浮かび上がってくる……!!」
「──それは、鬼の世界は、我々と同じか、それ以上の領土を有しており、ある程度文明的な生活を営んでいる可能性があるということだ!!」
「──つまり、我々がそこを侵略すれば、さらに大勢の人が生活できるだけではなく、諸悪の根源である鬼共を根絶やしにできるかもしれないのだ!!」
「勇敢なる兵士たちよ!!2年前の雪辱を果たし、今こそ再び、完全なる勝利を成し遂げようではないか!!」
「ウォォォオオオオオオ!!!!」
「いくら何でも焚き付けすぎじゃないですか……?先走る奴が出てきて統率が取れなくなりますよ」
演説を終えて颯爽とした表情で帰ってきたツカサにハナビが声をかけた。
しかし、そんなハナビの忠告などどうでもいいといった様子で、ツカサは軽くあしらってどこかえと消えていった。
「フン……労いの言葉もなしか……まあいい。お前は何も考えずに鬼を狩っていればいいんだ……指揮は俺がする」
「──20分後に会議だ……遅れるなよ」
「ハァ……」
(──あいかわらず嫌な奴だぜ……お前昔はもうちょっと人間味がある奴だったよな……)
(将軍たちがいなくなってからみんなどうかしちまった……)
(──なぁ、お前は俺を置いて一体どこに行くんだ……?ツカサ……)
過去を思い出して感傷に浸るハナビ。その表情は、どことなく儚かった。
場面はとある山に移り変わる。
季節は秋。紅葉が眩しいほど咲いている。少し冷たい風が心地よい、そんな季節だった。
「ねぇヤマト……?」
「ハァ……ハァ……どうした……?」
静かな山奥から、聞きなれた声が聞こえてきた。
「そろそろじゃない……?」
「──そっか……ハァ……ハァ……ならよかった……」
「よっ」
そう言って自作のトレーニングマシーンから手を放すヤマト。
ドスンと鈍い音がした。
「──ふぅ……」
ヤマトは紐の片方の先端に重りを括り付け、木の枝にぶら下げたものを引っ張り続けていた。
剣を振り下ろす動作を維持するアイソメトリックトレーニングは意外と難しい。絵面こそ地味なものの、かなり背中と上腕が鍛えられる。ヤマトは守り人に入隊してから毎日、このような自作のトレーニングマシンを作って体を鍛えていた。
2年前と比べて、ヤマトの体はかなりたくましくなっていた。日々の鍛錬で太くなった腕には入れ墨が。
気持ちよさそうに汗を流したヤマトが空を見上げて何かを思い出す。
「──2年か……」
つづく




