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rough  作者: ayu
ETERNAL FLAME外伝
23/52

ETERNAL FLAME:鬼丸ハナビ外伝 第1話「あの日」(修正済み)

2006.10.07 この日、世界が「交差」した。


これは、世界が交差する直前の物語。

世界の真実を知るもう一人の主人公「鬼丸ハナビ」の物語である。




2006.10.07(14年前)

16:00

舞台は神奈川。夕日が眩しい放課後の帰り道、下校中だったミキオとハナビに、少し前に別れたはずのゆきが救いを求めて目に涙を浮かべながら走ってきた。

「ハナビ……ミキオ……お願い助けて……!まつりが連れ去られた……!」

いつも冷静で大人びているゆきが泣いているのを見た2人はただ事じゃないことを察する。

「な……何言ってんだよ!!連れ去られたってどういうことだよ!!」

ハナビが反射的に声を荒げた。

「どういうも何も、そのままの意味よ!!まつりが連れ去られたのよ!!」

ゆきも感情的になってハナビに言い返す。

あまりにも唐突過ぎる出来事に混乱しながらも、ミキオは2人をなだめて冷静に状況の説明を求める。

「2人とも一旦落ち着け……! 焦る気持ちは痛いほどわかるが、まずは一度落ち着いて冷静に状況を教えてくれ……! 話はそれからだ……!」

ミキオのフォローのおかげでいつものペースに戻ったゆきは、2人に冷静に状況を伝える。

「……わかった。取り乱してごめん」

「──最初は私とまつり、二人で帰ってたの……そしたら、ガラの悪い男たちにナンパされて……勿論断ったんだけど、しつこくって……」

「それでまつりが警察を呼ぶって脅したら男たちが逆ギレして……それで……!!」

ゆきの声がまた震える。

「それで連れてかれたってか……!?」

ハナビが怒りをあらわにするとゆきがうなずく。

「それで、まつりを返してほしかったら、誰でもいいから連れてこいって……!」

ゆきは怒りで目が潤っていた。

「上等じゃねーか……!そんな薄汚ねぇ野郎、俺たちがぶっ飛ばしてやるよ……!」

怒りに身を任せて逸るハナビを、ミキオが冷静に咎める。

「待て……! これは立派な犯罪だ……! 俺たちじゃなくて警察に通報しよう!」


「ごめん……」

ゆきが悔し涙を流しながら、通話中と書かれた携帯電話を見せる。

相手はもちろんまつりを誘拐した男だ。

「そういうこった…… 警察に通報しようもんなら、この女の命はねぇ……!」

「ハナビ……!来ないで……!私のことはいいから警察に通報して……!」

通話越しにまつりの声が聞こえる。

「て、テメェ……!」

鈍い音がした後、通話が終了する。

「まつり!」

ハナビの表情が一気に険しくなり、ミキオは苦渋の決断をする。

「クソッ……! 俺たちだけで行くしかないのか……!」


ゆきに案内されて沿岸倉庫にたどり着いたハナビ。

「テメェら!まつりから離れろ!」

開口一番に声を荒げて男たちに警告するハナビ。右手には鉄パイプのようなものを持っていた。

しかし、そこには銃を突き付けられたまつりと2人の男が。

男たちは微動だにせずハナビたちに銃を向けて指示を出す。

「動くな!武器を捨てて全員手を挙げて床に伏せろ!」

「ハッ…… そんな子供だましの銃、俺たちがビビるとでも思ってんのか?」

ハナビが男たちを挑発すると、男たちがハナビたちの足元めがけて発砲した。

バァァァン

がらんとした倉庫に轟音が響き渡る。

「聞こえなかったのか?全員武器を捨てて手を上げて床に伏せろ!!」

「ハナビ……」

ゆきが心配そうにハナビに声をかける。

「クソッ……!!」

ハナビが悔しそうに鉄パイプを地面に投げ捨てた。

「最悪だ……」

ミキオは想定外の事態に絶望していた。

自分たちの置かれている状況を理解した3人は大人しく命令に従う。

「お前らには今からサツんとこ行って、身代金を用意するよう伝えてもらう!!」

主犯格の男が大声を出しながらそう言った。

「わかってると思うが、妙なことを企てたらこの女の命はねぇ!!くれぐれも慎重に行動しやがれ!!」

絶望的な状況の中、男たちがこれからの計画についてひそひそと話し合っている間に、ハナビがミキオに小声で声をかけた。

「おい……! 俺が合図したら大声を出してアイツの気を引いてくれ……!」

「は……?何言ってんだお前!いいから大人しくしてろ……!おそらくこれは計画的な犯罪だ……!!まつり達をナンパしたのも計画のうちで、初めから誘拐して人質にするつもりだったんだ……!!銃を所持してるところを見るに、たぶん相当の覚悟でしたことだろう……!!俺たちが下手に動いて犯人を刺激してまつりに被害が及んだらどうするんだ……!?少しは考えてからものを言え……!」

銃を所持しているにもかかわらず、いまだに抵抗しようとするハナビをミキオが焦って止める。いつもよりミキオの口調が荒いのは、彼の神経がすり減っている証拠だ。

「大丈夫だって……! まつりがいるからあいつは優位に立てるんだ……まつりを殺すような真似は絶対しない……!」

「殺されなくても!見せしめに痛めつけられるかもしれない……! とにかく……! 今はおとなしくしているのが最善策だ……!」

ハナビは興奮して論理的な思考ができなくなっていた。しかし、ハナビには多少強引な手を使ってでもことを解決しなければならない理由があった。

人質の少女「夜乃まつり」は病弱で、決まった時間に錠剤を飲まないとをいけなかったのだ。しかし、すでに薬の時間を回っていて彼女は明らかに衰弱している。この事実がハナビの興奮に拍車をかける。

「駄目だ……もう時間がないんだ……! このままだとまつりがヤバい……! 頼む……!」

「……わかった」

まつりの体調のことを考慮したミキオは、苦渋の決断をする。

「俺が銃を持っている方を始末するから、お前はもう一人の方を何とかしてくれ……!」

「おい大丈夫なのか!?相手は銃を持ってるんだぞ……!お前一人で背負わなくたって……」

「お前……さっきまで自分が何て言ってたのか覚えてないのか……?」

ハナビの自分を顧みない発言にあきれたミキオは、少し引き気味にそう言った。

「そうだったな……すまねぇミキオ、ありがとう……!!」

「俺達でまつりを救おう……!!」

ハナビはミキオの柔軟な判断に心からの感謝の気持ちを伝えた。

「気にするな……それに、勝負はこれからだ……!」

「ああ!」




刻一刻と迫るタイムリミット、人質の少女を救うため、2人は決死の作戦に出る。

「すみません……あの……その人質の子は病気を持っていて、決まった時間に薬を飲まないといけないんです……だからその……僕と、その子を交換してくれませんか…?」

(うまいぞ……!!これなら……!!)

ミキオの演技に感心しながらも、ハナビは隙をつくため体を動かす準備をする。

「……嘘じゃないだろうな」

立てこもり犯は慎重だ。

「本当です……! 彼女のカバンの中に錠剤が入っています……!」

「俺が見よう」

もう一人の男がまつりのカバンの中を確認する。

「確かにあるな……どうする?」

「チッ……まあいい……衰弱死されちゃ人質の意味ねぇからな……」

本当であることを確認した立てこもり犯は、舌打ちをしてまつりを開放する。

「ほらよ、両手を上げてこっちへ来い……」

男はミキオに銃を向けたままそう言った。

(よし……!!あとはこいつらを無力化するだけだ……!!)

ミキオは少しほっとした表情で男たちに歩み寄る。

ゆっくりと男たちに歩み寄るミキオとは裏腹に、さっきまで拘束されていたまつりは全力でゆきの元へ向かい抱き付いた。

「まつり……!」

「ゆきちゃん……」

2人は涙を流しながら抱き合った。

そんな2人を背に、ミキオとハナビは一世一代の大博打にでる。

「ハナビ!今だ!」

ミキオの大声に一瞬だが気を取られた男にハナビが全力で拳をふるう。

男は成す術なくハナビに殴られ気絶した。

もう一人の男はと言うと、すぐに引き金を引くことはできたものの、それをする勇気がなく戸惑っていたところをミキオにあっけなくやられた。



「ハァ……ハァ……」

ミキオとハナビに疲れがどっと押し寄せる。2人はため息をついて地面にどっと座り込んだ。

「やったな……」

「へへ……」

ハナビが笑みをこぼす。

「コイツらどうする?」

「警察に引き渡すまでは俺達で拘束していよう。銃もちゃんと目の届くところに置いておかないと」

「だな」

「ゆき、銃をそのドラム缶の上に置いておいてくれ。後で警察に回収してもらおう」

「そうね」

ゆきが床に落ちている拳銃を回収し、ハナビ達も気絶した男たちを拘束しようと腰を上げたその直後だった。

「ハナビ後ろ!!」

ゆきの叫び声で反射的に振り向いたハナビだったが、時すでに遅しだった。

ハナビに気絶させられていたはずの男が目覚め、ポケットに忍ばせていたナイフでハナビの横腹を刺したのだ。

ハナビの白いシャツに、みるみると赤いシミが広がっていく。

「え……?」

ハナビは理解が追い付かなかった。

「クソッ……!!!」

ミキオが男に殴りかかる。ナイフを持っていながらも、ミキオにひどく殴られた男はまたあっさり気絶した。その場に気絶した男を拘束できそうなものがなかったミキオは、男の靴ひもを括り付けてすぐにハナビの所へ向かった。

もう一人の男も拘束しようかと思ったミキオだったが、ハナビの止まらない出血を見て救急車を呼ぶことを優先した。

「まずいぞ……出血が酷い……俺は救急車を呼んでくるから、ゆきはハナビの応急処置を頼む!!」

そう言ってミキオは大急ぎで倉庫の外へと向かった。

「なあ……俺、死ぬのか……?」

ハナビが小さな声でそう呟いた。

「死なせないわよ!!消耗するだけだからあなたは黙ってて!!」

ゆきが必死に止血しながら叫んだ。

「ハナビ……」

まつりが目に涙を浮かべながら、ただ傍で見守っていたその時だった。

負傷したハナビに完全に気を取られていた3人は、銃を持っていた主犯格の男の存在を完全に忘れていた。最悪なことに、主犯格の男もまた、意識を取り戻していたのだ。

自分から取り上げた銃は、少し離れたところにあるサビたドラム缶の上に保管してあることを知った男は、混乱に乗じてこっそりと銃を手に入れようとしていたのだ。

(はっ……!!ダメ……!!こっちの方も目が覚めてる……!!)

その瞬間を目撃したまつりだったが、男に気付かれてしまう。

男が捨て身の全力ダッシュで銃の所まで走る。

(まずい……銃が……!!)

それを見たまつりも銃の所まで急いで向かうが、身体的な能力の差もあって男に銃の所持を許してしまった。

「ゆきちゃん!!後ろ!!!」

男は何のためらいもなく止血しているゆきに向かって銃を構える。銃を構える手は震えているが、先ほどとは違い「覚悟」が決まっているような雰囲気を感じたまつりは身を呈してゆきを護る。

パァァァン!!

再び倉庫に轟音が鳴り響く。

「え?」

ゆきは理解が追い付かず恐る恐る後ろを振り返ると、とくとくと血を流しながら膝をついているまつりの姿が。

「まつり!!!!」

銃にも勝る悲痛な声で、ゆきの叫び声が倉庫に鳴り響く。

「あ……あ……」

覚悟をもって引き金を引いたはずの男の手は、ぶるぶると震えていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

自分のした行いを受け入れきれなかった男は、もう一人の仲間を置いてどこかへと逃げていった。

そんな無責任な男を追いかける気力も余裕もなかったゆきは、もうどうしていいかわからなくなっていた。

「まつり……何で……?」

「お前……何やってんだよ……!」

ハナビが自分のことは気にせず、必死に声を張り上げる。

「ガハァ……!!!」

ハナビが苦しそうに吐血した。

「ハナビ……! 喋っちゃダメ……! 傷口が広がる……」

ゆきが泣きながらハナビの傷口をふさぐ。

「ごめんねハナビ、ゆきちゃん……私、これくらいのことしかみんなにしてあげられないから……」

まつりは涙を流しながら、今にも消えてなくなりそうな笑顔で2人に話しかける。

「本当はもっとみんなと居たかった……もっとみんなと話したかった……みんなと……」

そう言いかけたまつりは吐血する。

「まつりも……これ以上話すと傷口が……」

ゆきの訴えにまつりはこう答える。

「私はもうだめ……自分でわかるの……だから、最後に……貴方に伝えたいの……」

そう言ってまつりは、ゆっくりと最後の力を振り絞り、隣で仰向けになっていたハナビの手を握った。

死を受け入れたまつりの最後の言葉を聞くために、2人は言いたいことと涙をぐっとこらえながら傾聴した。

「ハナビ……約束して……」

「私がいなくなったら……私の分まで生きて……たくさんの人の命を救ってちょうだい……あなたには、それを実現できる力があるから……!」

「私は知っている……貴方が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!貴方はいつも私やみんなのことを気にかけてくれた……!!貴方は自分のことをただの()()()()()()()()()()と言っていたけれど、それは違うわ……!!だって、貴方の言葉と笑顔はとても暖かくて、誰よりも優しかったもの……!!貴方が私に向けてくれた言葉も笑顔も、全部本物だったから……!私は今日まで生きてゆくことができたの……!貴方はまだ気が付いていないかもしれないけど、貴方は、()()()()()()()()()()よ……!だから……!」

「だからお願い……! 生きて……」

そう言ってまつりは息を引き取った。ハナビは別れの言葉を言うことさえできないくらい消耗していた。ゆきの泣き声がこだまする。

(ずりぃ……!ずりぃよ畜生……!!俺に生きろって言うならお前も生きろよ……!何でいつも自分のことは後回し何だよ……!)

体はもう動かないのに、涙は止まらない。

(何で……!何でこんなにも世界は残酷なんだ……!あいつが何をしたって言うんだよ……!あいつはただ純粋に誰かの役に立ちたかっただけなのに……!!何でこうも俺から大切なものを奪っていくんだよ畜生……!)

(俺に……俺に力があれば……! 大切な人を護れるだけの力さえあれば……! 俺は……弱い……!!)




ゆきの泣き声がぼんやりとしてきたハナビは死を悟る。

(ああ……俺、死ぬのか……なんか眠くなってきたな……ごめんな、まつり。約束守れなくて。 生まれ変わったらまたお前に逢えるかな……?  いや、合わせる顔なんてねぇか……)



しばらくすると、ハナビは不思議な空間で目が覚める。そこは、上下も左右もないまるで宇宙のような空間だった。

(あれ……なんだこれ……いや、どこだ……?ここは……?これが俺……?傷がない……)

腹部にあったはずの傷がなぜか消えていたハナビは、恐る恐る傷があったはずの腹部を触ろうとするが、ハナビの右手が腹をすり抜けた。

(な……なんだこれ……どうなってんだよ一体……!!)

自分の常識を遥かに超越したその現象に、ハナビは驚きを隠せなかった。

しかし、意外にも焦りや緊張といった感情はほとんど湧いてこなかった。まるで自分がその空間の一部になっていると言わんばかりの脱力感と、安心感がそれを上塗りしていったのだ。

(──そういえば俺……あいつらとまつりを助けるために、倉庫に行ったんだっけ……)

微かに朦朧とする意識の中で、ハナビは直前の出来事を思い出した。


すると、景色があっという間にあの時の湾岸倉庫に切り替わった。

それに伴い、ハナビはまるで霧が晴れたかのように意識が鮮明になった。

(マ、マジかよ……!!)

倉庫には救急救命士が数人駆けつけていた。

(こ、これってもしかして……! あの時の続きか……!?)

体より先に意識が動いてしまうその空間でハナビは、信じられない光景を目撃する。

(な……!なんだよこれ……)

誘拐犯に刺されたハナビが、呼吸器をつけて担架で運ばれていたのだ。

現場の緊張は火を見るよりも明らかだ。

(もしかして俺、まだ死んでないのか……!? じゃあ今の俺は、一体何なんだ……!?)

混乱するハナビだったが、さらに追い打ちをかける出来事が。


(あれ……? 何でだろう……この違和感は一体何なんだ……? 何か思い違いをしている気がするのは何でだ……?)

越えられない世界の壁越しにただその光景を眺めるだけのハナビだったが、ハナビはその有様に何故か違和感を感じていた。

徐々に世界の壁に亀裂が入り、眩い光が零れ始める。

「真実」をすぐそこに感じたハナビは目を瞑り、ざわついた心を落ち着かせる。

心を平静にし、研ぎ澄まされた感覚で真理を理解しようとする。

世界を上から観測し、宇宙の端から端まで思考を巡らせたハナビは、ある1つの「宇宙の秘密」にたどり着いた。




(──ああ、そういうことか……)

黄金色の不思議な風が吹き、亀裂の入っていた世界の壁が完全に砕け散る。

そして、粉々に砕け散った壁の向こう側には、ハナビとミキオ、ゆきとまつりの4人で仲良く遊んでいる世界が。

その景色を見たハナビは安堵の声を漏らす。

(そこににいたんだな……まつり……)


ここは5次元空間。

ハナビは自身が死の淵を彷徨うことで、一時的にだが自身が肉体を捨て、意識だけの存在になったことで無数に存在する並行世界を観測できるようになったことに気が付いたのだ。

誰一人いないはずなのに、そこら中に人肌の温もりを感じたハナビはぬるま湯にでもつかるように黄昏ていた。「宇宙の秘密」を理解したハナビには、もう何も思い残すことはなかった。

はずだった……



宇宙の秘密を理解し、全てが平和に収まったように思われたその時だった。ハナビの前に、黒い蛇が現れた。その名も「強欲」

愚かにも、この無数にある並行世界を観測することのできる5次元空間で、全ての並行世界を、「世界の真実」をハナビは知りたいと思ってしまったのだ。

(──もし、全ての世界を知れたのなら……俺は一体どうなるんだろう……?)

ハナビの心拍数が上昇する。さっきの雰囲気とは一転し、世界に暗雲がかかる。

しかし、一度死の淵を彷徨ったハナビにはもう、恐れるものも、失うものも何もなかった。純粋な好奇心だけで世界の真実を知ろうとするハナビは、両手を広げて世界を観測する。


(よくわからねぇけど……凄く……気になるんだ……)


蛇はいつの間にか消えていた。


ハナビが手を広げた直後、膨大な量の情報がハナビの意識を侵食する。

(──ああああ、な、なんだこれ……!!)

膨大な量の情報の波に押しつぶされそうになりながらも、何とか意識を保てたハナビだったが、ある一つの疑問がハナビを混乱させた。


(お、お前は一体誰だ……!?どうしていつもそこに居るんだ……!?)

(どうしていつもそんなにボロボロなんだ……!?お前はッ……!)


ハナビが言いかけたその瞬間、無音の宇宙が激しくざわめきだす。

(なっ……!!何だよ急に……!!)

膨大な情報が宇宙を駆け巡り、無数に存在する並行世界が激しく『交差』する。

ものすごい勢いで宇宙が崩壊し、再構築されていくその様は、まさに神の御業だった。

あまりにも壮大すぎるその光景を、ただ眺めることしかできなかったハナビの意識が急激に薄れだす。

(クソッ……!何でこんな時にッ……!!)

(だめだ…… 意識が……)



時刻は深夜2時。ハナビは病院で目が覚める。傍には椅子に座ったまま眠っているゆきが。

つい先ほどの光景とは相反する、質素で見慣れた景色の下で目を覚ましたハナビだったが、いまだにこれが現実と言う実感が湧かなかった。


(あれ……ここって……)

(俺、生き返ったのか……?)

(ハッ……!まつりは……!!)

急にベッドから起き上がろうとしたハナビの脇腹に激痛が走る。

先ほどの摩訶不思議な体験がどうでもよくなるくらいの激痛を感じたハナビは思わず声を漏らす。

「クソッ……! 痛てぇ……」


ハナビの目から大粒の涙が零れ落ちる。

ハナビは自分の弱さが許せなかった。惨めな自分を許せなかった。

そして何より、痛みを感じることが許せなかった。

ハナビとゆきを身を呈して守ってくれたまつりは、もう痛みを感じることさえできなのだから。

自分もまつりのところへ行って、たくさんの感謝の気持ちを伝えたかったのに、自分はみじめにも現実に置いて行かれたことが、言葉にならないほど辛かったのだ。

声にならない声で咽び泣くハナビ。無機質な心電図の音が、静かな病院に響き渡る。


翌朝、再び目が覚めるとゆきが衝撃の事実を告げる。

「おはようハナビ…… 無事でよかった……」

一命を取り留めたハナビを見たにもかかわらず、浮かない表情をしているゆきを見たハナビは迷わず声をかける。

「……何があった?」

ハナビの真剣な眼差しを見たゆきは、包み隠さずにありのままのことを話した。

「落ち着いて聞いてね……」 




「東京が…… 陥落した……」

ハナビはゆきが冗談を言っているようにしか聞こえなかった。

「は?陥落ってどういうことだよ……映画じゃあるまいし……てゆうか誰がそんなことするんだよ……冗談きついって……!」

「『鬼』よ……! 突然現れて……私たちの日常を奪っていったのよ……!」

聞きなれない言葉だったが、ハナビはゆきの涙でこれが冗談じゃないことを察する。

「鬼って……何者なんだ……?」

「わからない……だけど……凄く、恐ろしい見た目をしていたわ……」




数日後、政府は陥落した東京の代わりに首都を京都に遷都して戒厳令を布き、鬼の調査、討伐を目的とする組織「守護警察」を設立することを発表した。

ハナビは退院後、守護警察に入隊して残された人々を護ることを決意する。


(俺は弱い……! 強くなって、もう誰も悲しまないように……! もうだれも死ななくていいように……! 俺が……! みんなを護るんだ……!)


──14年前、突如として現れた侵略者「鬼」によって東京が陥落するという未曽有の事態が発生した。そこで政府は首都を京都へ遷都して戒厳令を布き、鬼の調査・討伐を目的とした組織「守護警察」を設立した。しかしその後も鬼の侵略は続き、日本は壊滅的な被害を被った。そして日本は2009年、残された人口を首都京都に集中させて本格的な鬼との戦争の時代に突入した。


彼らは、残された領土を護り、奪われた土地を取り返す人類最後の希望である──

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