第16話 「揺れ動く感情の狭間で part1」(修正済み)
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
翌朝、ヤマトは洞窟で目を覚ました。ヤマトは体にまだ残る痛みを引き起こさないよう慎重に体を起こすと、のろのろと歩いて洞窟の外の空気を吸いに出た。
(──フゥ……昨日はいろいろあったな……てゆうかまだ1日しか経ってねぇのかよ……?何かマジで気ぃ狂うわ……)
微かに霧が残る朝の景色を見ながら、ついさっきまでの壮大な出来事を思い出して余韻に浸るヤマト。
(ギリアっていったけ……そういやあいつはまだ来てないみたいだな……まあ、朝早いしな……今が何時かは知らねぇけど……)
時刻は早朝、ギリアが来るまでもう少し時間がある。
(まあいいや……そのうち来るだろ……腹減ったけど、動けるほど回復してねぇんだよな……またギリアに何か持ってきてもらうか……)
腹をすかせたヤマトがそんなことを考えていると、ふとある疑問が湧いてきた。
(──あれ……俺、なんか普通にギリアのこと受け入れてねぇか……?命の恩人だし、ぱっと見普通の人間なんだけど、あいつら一応鬼なんだよな……どんな原理か知らねぇけど、化け物みたいに変身して、俺たちの世界で暴れまわってたんだよな……?)
ヤマトは自身の鬼に対する抵抗のなさに違和感を覚えた。
(てゆうか、あいつも化け物みたいになったりするのか……?俺を助けたのは、回復してから殺すため……!?)
ヤマトは最悪の事態を想定して肝を冷やす。
(いやいやまさか……!あいつに限ってそんな事……)
ヤマトは咄嗟に否定するが、直後、咄嗟に否定した自分の浅ましさに戦慄する。
(──いや俺何言ってんだ俺……!!ほぼ初対面だろ……!?何信用してんだよあの女の事……!俺はあいつの事何一つ知らねぇんだ……!!気軽に信用してんじゃねぇ……!!)
しかし、昨晩「何か」を感じたヤマトは、ギリアのことを完全に怪しむことができなかった。
(──でもあの時感じた感覚は一体何だったんだ……?)
心のどこかでギリアに期待しているような素振りを見せるヤマトは、改めて自身の置かれている状況を認識し渇を入れる。
(──ああクソわかんねぇ……!!とにかく!!今俺は鬼に襲われたら確実に死ぬ!!今は事を荒立てず、回復に専念しろ……!!しくじるなよ俺……!!)
ギリアのことを信用していいのかわからないヤマトだったが、ヤマトにとって最も優先順位の高いことは明白だった。
朝日が昇り、洞窟周りの木々を日光が照らし始めた頃、大量の食べ物を抱えたギリアがやってきた。
「おはよう」
「おはよう……」
ヤマトは反射的に挨拶を返したが、昨日よりも少しギリアに対する距離感が遠くなっているようだった。
「昨日は眠れた?」
ギリアの問いに、ヤマトは正直に答える。
「ああ、ぐっすりだよ……なんかこのまま2度と起きれねぇんじゃねぇかってぐらいにさ……」
「そうなんだ……」
「それはよかった……のかな……?」
それを聞いたギリアは少し反応に困っていた。
「わかんねぇ……まあ今は元気だよ。まだ体は痛ぇけど、今の所問題はなしって感じだな」
ヤマトの傷が悪化していないことを聞いて安心したギリアは胸を撫でおろす。
「そっか……それはよかった……このまま順調に治るといいね」
「そうだな」
「私、ご飯まだ食べてないんだ。一緒に食べない?」
そう言ってギリアが料理の入った篭を地面に下ろした。
「ああ、いいなそれ。そうしよう」
腹の減っていたヤマトは早速食事の準備をする。
「うまそうだなこれ」
篭から取り出された色とりどりのおいしそうな料理に、ヤマトは食欲を掻き立てられた。
「えへへ……自分で作ったんだよ?いっぱい作ったから好きなだけ食べてね」
料理を褒められたギリアが嬉しそうに笑う。
「んじゃ早速……」
「──いただきます」
久しぶりにちゃんとした料理を前にしたヤマトの目は完全にギリアの料理に釘付けだった。
「どう……?おいしい……?」
料理を勢いよく貪り食うヤマトに、ギリアが心配そうに味を尋ねた。
「……ああ、超うめぇ!」
ヤマトは明るい声色でそう言った。
「……ほんと!?よかった……!!また明日も持ってくるね!!」
よほど嬉しかったのだろうか。それを聞いたギリアの顔がぱっと明るくなる。
「はあ食った食った……マジでうまかったよごちそうさま」
腹が膨れるほど食べたヤマトが満足そうにそう言った。
いつの間にか、ヤマトのギリアに対する不信感は消え去っていた。
「満足してくれてよかったよ。この後は何するの?」
「何もしねぇよ。てゆうかできねぇ」
ヤマトは正直に応えただけだったが、ギリアは自分が不躾な質問をしたと思ってヤマトの顔色を伺う。
「ごめん……無神経だったね……」
「いやいいよ別に。実際そうだし」
しかし、ヤマトはあまり気にする素振りを見せなかった。
「そっか……」
それを見たギリアはほっと息をつく。
「あのね……!私、もっとあなたのことが知りたいの……!だからお願い……今日はずっと一緒に居てもいい……?」
唐突なギリアの提案にヤマトは驚いたが、負傷して体を自由に動かせないヤマトにとってはむしろそっちの方が好都合なので承諾することにした。
「まあいいけど……」
(こいつやけに積極的だな……何かあんのかな……まあ、俺的には介抱してくれた方が嬉しいけど)
「──ありがとう」
ギリアは満足げにそう言った。
その表情にヤマトは少し心を揺さぶられる。
(……!)
「い、いや別に大したことしてねーよ」
少したじろぐヤマトだったが、ギリアはそんなことお構いなしに話しかける。
「うんうん。そうだね」
ギリアは嬉しそうにヤマトをあしらった。
(こ……こいつ……!!誰かに似てると思ったら織姫だ……!!笑った顔とかそっくりだし……!!
クソッ……!!勘弁してくれ……)
それから約3週間、負傷しているヤマトとギリアの共同生活は長いようで短かった。
2人の距離は日に日に近くなり、いつの間にかヤマトはギリアとの会話が心地よいと思うようになっていた。
「ねぇヤマト。今度一緒に私の街に行ってみない?」
「いいけど急にどうしたんだよ」
「いや、そういえばヤマトの傷が治ってからしばらく経つけど、特に何もしてあげれてないなって思ってね」
「いやいいよ別にそんなこと。俺はお前に看病してもらってるだけでも十分ありがたいって」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、ずっとヤマトに質問してたからさ、今度は私の事を知ってもらいたいなって」
「ダメ……かな?」
「まあ別にいいけど」
「よかった!じゃあ明日一緒に街に行こうね!」
「いいけど大丈夫なのかよ?俺一応人間だぞ……?」
「ニンゲン?どういう意味?」
「扉の向こうから来たよそ者って意味だよ……ギリアはよくても、ほかの人は俺の事迷惑なんじゃねーの?」
「それはわからないけど……フード被れば大丈夫だよ!たぶん……」
「おいおい大丈夫なのか……?」
不安がぬぐえない中、ヤマトはギリアと共に鬼の街へと向かうことにした。




