第14話 「蘇る君との思い出」(修正済み)
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
扉を開けるとそこは鬼の世界だった。
辺り一面に広がる紅葉はまるで永遠に広がっているようで、とても殺戮者が住んでいるとは思えないその美しい光景に誰もが息を呑む。
「す……すごい……」リュウセイは絶景に心を打たれて言葉に詰まっていた。
「ああ……」ホムラも木を見上げてそういう。
「見とれている場合ではないぞ……先へと進まねば……」
ゲンスイも口ではそういうが、目線は完全に美しい景色に向いていた。
ヤマトも景色に見入っていたが、ほかの隊員とは少し様子が違った。
(あれ……?なんでだろう……?始めた来たはずなのに……どうして……)
(──どうしてこんなにも懐かしいんだ……?)
紅葉の眩しい山道で、不思議な暖かい風がヤマトの肌をそっと撫でた。
「将軍……どうしますか?」
幻想的な景色に圧倒されていた一同だったが、気持ちを切り替えたホムラがゲンスイに声をかける。
「う、うむ……とりあえず、このあたりを一望できる場所へ向かわねば……これからのことはそれから考えよう……」
ゲンスイも、ホムラに声をかけられて正気に戻る。
「であれば……とりあえずこの山道を登って山頂に向かうというのはどうでしょう?」
リュウセイが山道を指さす。
「いい考えだ、そうしよう」
ゲンスイが賛同し、一行は山道を登ることに。
「ハァ……ハァ……結構しんどいですね……これ……」
他の隊員に比べ体力があまりないリュウセイは木の枝を杖にしながら必死に山道を登る。
「おいおい大丈夫か……?荷物持つぞ俺」
「ハァ……ハァ……いえ、結構です……迷惑をかけるわけにはいきませんから……」
ホムラが気を使ってそういうが、リュウセイが断る。
「そうか……あんま無理すんなよ?しんどくなったらいつでも言えよ」
「あ、ありがとうございます……」
疲れ果てたリュウセイを見てか、ゲンスイが休憩の提案をする。
「山頂で一度休憩にしよう。朝から動き続けて疲れているだろう」
「ハァ……ハァ……いえ将軍……私のことはお気になさらず……」
仲間に迷惑をかけたくなかったリュウセイは休憩を拒否するが、ゲンスイはそれを否定する。
「ならん。部下の体調管理も私の仕事だ。それに、疲れているのは我々も同じだ……山頂で一度休憩する」
「は、はい……!失礼しました……!!」
リュウセイは自分を顧みなかった言動をゲンスイに謝罪した。
そんな二人のやり取りを一切気にする素振りを見せず、ひたすらに山道を登るヤマト。
「……」
「ヤマト、さっきからお前どうしたんだ?」
鬼の世界に来てから異様に口数の少ないヤマトを心配してホムラが声をかける。
「いや、別に何でもねーよ……ただちょっと……」
言葉に詰まるヤマト。
「ん?」
ホムラが聞き返すが、ヤマトは少し遠慮気味だった。
「いや、なんてゆうか……いやホント大したことじゃないんだけどさ……」
「なんだよじれったいな……」
やけに羽振りの悪いヤマトにホムラがツッコむ。
「──ここ、前に来たことある気がするんだよな……」
ヤマトは少し混乱したような表情でそう言った。
それを聞いたホムラはきょとんとした顔で聞き返す。
「お前マジで言ってんのか……?」
「いや、俺もよくわからないんだけどさ……」
ヤマト自身も自身の発言に少し驚いていた。
「お前……一回ちゃんと休んだ方がいいぞ……俺もお前も、みんな疲れがたまってるし……」
「だな……」
なんとか山頂に着いた一行はその場に座り込む。
「ハァ……ハァ……つ、着いた……」
疲労困憊だったリュウセイは崩れ落ちるように尻もちをついた。
「思ったより時間かかったな……」
「日が沈む前に今夜寝るところを探さねば……」
空はまだ明るいが、文明の形跡が全くないこの世界にとって夜は危険そのものだった。
ホムラとゲンスイは辺りを見渡して寝泊りできそうなところを探す。
しかし、鬼はおろか、文明の痕跡すら見つからなかった。
「……まいったな」
「なんもねーな……」
そんな時、何かを見つけたヤマトがふもとにあるとある場所を指をさした。
「なあ……あれ……」
「あっ!すごいですヤマトさん!村!村ですよ!鬼の村ですよ!」
さっきまで疲れて地面に倒れていたとは思えない勢いでリュウセイが興奮気味にそう言った。
(こ、こいつ急に元気になったな……)
ヤマトはリュウセイの豹変っぷりに少し引き気味になる。
「でかしたぞ藤原ヤマト!」
「お手柄だな!」
しかし、興奮していたのはリュウセイだけではなかった。
ホムラとゲンスイも一気に活力に満ち溢れてヤマトの背中を叩く。
「い、いや……たまたまだって……」
首元に絡みつくホムラを引きはがしながら、ヤマトが遠慮気味にそう言った。
しかし、3人の熱は収まらなかった。
「いやいや、たまたまでもすごいですよヤマトさん!!命の恩人です!!」
「んな大げさな……」
リュウセイに大げさに褒められて少し赤面したヤマトをホムラがイジる。
「お前耳赤くなってんじゃん! 意外とかわいいとこあんだな!」
「……うるせぇ!」
「ハハハ!」
村を発見した一同は、いつのまにか疲れが吹き飛んでいた。
下山して村を目指す一行だったが、道中に不気味なものを発見した。
「止まれ……」
ゲンスイが手を横に広げて指示を出す。
「ど、どうしましたか将軍……」
急なゲンスイの行動にリュウセイは不安気味になる。
「お主たちには一体、あれが何に見える……?」
そう言ってゲンスイは少し離れたところにある、石でできた鳥居のようなものを指さす。
「あっ……!あれって鳥居……ですか?」
急に文明的な物を発見したリュウセイは萎縮したままそう言った。
「わからん……だが、おそらくは何か神聖なものだろう……」
「でも何でここにこんなものが……」
ホムラが懐疑的にそう呟く。
「扉を祀っているとか……」
「だとしたらマズいことになったな……」
「ですね……」
リュウセイの考察を聞いたゲンスイとホムラの顔が引きつる。
「な、なあ……何でみんなこんな深刻そうな顔してんだ……?」
事の重大さを理解していないヤマトは小声でホムラに囁く。
「ハァ……お前、いいか……?俺たちは鬼の世界の調査に来てるんだろ?向こうからして見りゃ、俺たちはよそ者なんだよ……!」
「──まして神聖な扉から出てきたってなりゃ絶対にただ事じゃ済まねぇ……!俺たちは絶対にバレちゃいけないんだよ……!」
ホムラの必死の説明を聞いてようやく事の重大さを理解したヤマトは少し緊張した様子で歩み続ける。
「しょ、将軍……」
道中、ヤマトが不安げな表情でゲンスイに質問した。
「どうした」
「あの……もし俺たちの存在に向こうが気づいたら、向こうは襲ってくるんでしょうか……?」
「それはわからん……だが、その可能性は大いにある。くれぐれも油断するなよ……」
ゲンスイはヤマトの方を向くことなくそう言った。
それからしばらくした後、ゲンスイが再び足を止めた。
「待て……」
「どどど……どうしましたか……?」
2度目のゲンスイの警告に、リュウセイが青ざめた様子でゲンスイを見る。
「今、何か物音がしなかったか?」
そう言ってゲンスイは辺りを見渡すが、傍には何もなかった。
「さあ……俺は何も聞こえなかったですけどね……」
ヤマトが正直に答える。
「お言葉ですが将軍……気のせいでは……?」
ホムラがあたりを見渡した後、ヤマトに続くようにゲンスイにそう言った。
「だといいが……」
ゲンスイ自身、確証があったわけではなかったので話はうやむやになる。
「ずっと監視の目を気にするのは疲れるでしょう……しばらくの間、お休みになられてはどうですか……?私どもも常に警戒はしていますし……」
「結構だ」
感が外れたことに不満を感じたのか、ゲンスイはホムラの顔を見ることなくそう言った。
(──おかしい……!さっきからずっと妙な気配がするのに、一向に何も起きる気配がない……!!これではまるで、鬼共の罠に誘われているようではないか……!!)
ゲンスイの警戒心は、ホムラ達にもひしひしと伝わっていた。
言葉では一切説明しないものの、ホムラたちはいつ襲われてもいいように細心の注意を払いながら下山する。
何が起きるかわからない中、それは突如やってきた。静かな森の中で、何かを切り裂いたような聞きなれない音が聞こえた。
「え?」
ヤマトがそれに気づいたのは、誰かが倒れた音が聞こえてからだった。
「お、おい……」
ヤマトが声をかけようとした時、ゲンスイが大声と共にヤマトに覆いかぶさった。
「伏せろォォォォォォ!!!!」
一瞬の出来事だったが、一向に緊張が走る。
直後、大量の矢が地面に伏せるヤマト達の頭上を飛び交った。
ヤマトはあまりに急すぎる出来事に一瞬理解が追い付かなかったが、自分に覆いかぶさるゲンスイの姿を見て理解した。
自分たちは今、奇襲されているのだ。
「将軍!!2時の方向から敵襲!!どうしますか!?」
ホムラは既に地面に這いつくばり、飛んできた矢の方向を見て次の一手に備える。
「無論!!ここで戦うのみ!!おそらく毒矢だろう……!!当たったら最後だと思え……!!絶対に当たるな!!」
暗闇からの奇襲、絶体絶命の危機だったがゲンスイは、これでもかというほどに闘志をみなぎらせていた。
「──了解!!ヤマト、お前怪我はないか!?」
「俺は大丈夫だ……!!それよりホムラ、リュウセイが……!」
ヤマトは胸に矢が刺さったまま倒れているリュウセイを指さす。
「何寝ぼけたこと言ってんだお前……!!見りゃわかんだろもう死んでる!!」
「し、死んでるってお前の方こそ何言ってんだよ……」
震えた声でそう言うヤマト。ヤマトは現実を受け入れきれなかった。
「──来るぞ!!」
そんなヤマトを遮るようにホムラが叫んだ。足音が近い。「何か」が近づいてくる。
「あああ畜生ォォォォォ!!!」
やむを得なくヤマト立ち上がり抜刀する。残酷にも、喪に服している暇すらなかったのだ。
ほら貝のような音を鳴らした後、「それ」はやってきた。
馬のような生物に騎乗した武装集団が名乗りを上げる。
「我々は代々この地に伝わる神聖な扉を護る『守り人』!!貴様らが一体どうやってこの聖域に足を踏み入れたのかわからんが、たとえどのような素性であれ我々は部外者を排除する必要がある!!」
「無駄な抵抗をしなければ一撃であの世へ行かせてやる!!大人しく武器を捨てて投降しろ!!」
リーダー格の男が物凄い剣幕でそう言った。男の後ろには乗馬した2人の部下が。
それを聞いたゲンスイ達に衝撃が走る。
「なっ……!!」
ヤマトは一瞬怒りが和らぐほどの衝撃を覚えた。
「最悪だ……!」
ホムラは想定していた最悪の事態に冷や汗をかく。
(こ、こいつらマジで喋ってやがる……!それに見た目も俺達にそっくりだ……!やっぱりツカサさんの言う通り、鬼の正体は高度な知的生命体なのか……!?)
混乱したホムラはゲンスイの方を向く。
「将軍……!」
ゲンスイでさえ、この衝撃の事実には動揺を隠せなかった。
「あの男の仮説は正しかったか……!止むを得ん……相手の隙を見て一度引くぞ……!!」
しかし、相手の男はそう甘くはなかった。
「──我々がこのまま大人しく逃がすとでも?」
その発言がゲンスイを更に焚き付ける。さっきまでの動揺とは一転、ものすごい覇気を身に纏い、背中に装備していた大剣を前に構える。
「笑止!!覚悟の上での旅路、ただで帰れるなど到底思っておらぬわ!!」
ゲンスイに剣を向けられ、敵意を察知した守り人たちは馬から降り抜刀した。それに続いて後ろの男たちも抜刀する。
「──交渉決裂だ」
戦場に緊張が走る。
「お前ら!わかっているな!?」
ゲンスイは言葉にこそしなかったが、言いたいことは明白だった。意図を汲み取った2人は構えて応える。
ヤマトはお手製のジェットブレードを、ホムラはヌンチャクをそれぞれ構えだす。
「落ち着け!集中しろ……!」
ホムラはまるで自分に言い聞かせるように警告した。ホムラの声から焦りがにじみ出る。
未知の世界で未知の敵と戦うということは、暗闇の中で命のやり取りをすることと同義だった。
両陣営がじりじりと間合いを詰める。自身の心臓の鼓動すら相手に筒抜けているのではないかと思うほどの緊張のなか、相手の方から襲い掛かってきた。
「──来るぞ……!!」
ゲンスイがそう警告した直後、ものすごい速さで守り人たちがヤマト達に襲い掛かる。
「グッ……!!」
何とか攻撃を防いだヤマトだったが、予想以上の力と速さにヤマトはペースを乱される。
(やべぇ……!こいつ……マジで強い……!)
鬼の重たい一撃を必死に受け流すことしかできず、後手に回ってしまっているヤマトを見てか、ホムラが戦闘の片手間にヤマトに忠告する。
「ひるむなヤマト!!ここで負けたら全て終わりだ!!絶対に負けるな!!」
自分のことは棚に上げて、ほとんど意味をなさない忠告をされたヤマトはストレスを感じ、反射的にホムラに言い返す。
「──ああもうこんな時までお節介かよ!!俺はスロースターターなんだよ!!」
そう言ってヤマトは武装した男にのみぞおちに蹴りを入れ、よろめいた隙に回し蹴りを入れて距離を取る。
「俺が負けるなんてことはあり得ねぇだよ!!テメェの方こそ集中して戦いやがれ!!」
窮地に立たされているように見えたヤマトが心配で気が気じゃなかったが、それを聞いて安心したホムラも反撃に出る。
「へっ……!ならよかった!!心配したぜ全く!!」
ヌンチャクを巧みに使い、鬼の刀に絡めて引き寄せると重い頭突きをお見舞いする。
「オラァ!!」
守り人に対して圧勝とまではいかないものの、少しづつ自分のペースに持っていけているようにに見える2人に対して、ゲンスイは予想以上に厳しい戦いを強いられた。
「貴様、やるな……」
戦いの最中、守り人のリーダーがゲンスイに対してそう言った。
しかし、それはあくまで余裕から生まれた賞賛であり、心からの言葉ではなかった。まだまだ余力を残しているように見えたゲンスイは、その発言をあまり快く思わなかった。
「世事はやめろ。まだ全力を出しておらんだろう」
ゲンスイが睨むようにそう言った。
ゲンスイに自分の力量を測られた守り人の男は少し驚いたような表情をした。
「──これは驚いた……そこまでの慧眼を持ってして、なぜ貴様はこのよう愚行をする……」
ゲンスイの並外れた観察眼に感服した男は、ゲンスイに対する態度を少し改め対話を試みる。
その問いに対し、ゲンスイは本音で応える。
「我々はあくまで探求者……所詮は欲望の奴隷だよ……」
予想外の答えに期待外れだと言わんばかりの表情する男。
「これも貴様の欲のためだというのか……?」
少しばかりの休息に、ゲンスイは息を切らしながらにやりと笑ってこう言った。
「勿論」
それを聞いた男はさっきまでの態度とは一変してゲンスイに襲い掛かる。
「そうか……ならやはり死ね!!」
「来い!!」
本気でゲンスイを殺しにかかる守り人の男に対し、ゲンスイは粘り強く喰らいついた。
「ハァ……ハァ……」
「互角、といったところか……」
お互いかなり消耗しているのか、少しよろめいている。
そんな状況にしびれを切らしてか、守り人のリーダーは首にぶら下げてあった笛を思いっきり鳴らして増援を読んだ。
ピィィィィィィ!!!
耳をつんざく高音が山中に響き渡る。それが何を意味するかを察するのに、さほど時間はかからなかった。
「!?」
ヤマトが音の出所を確認しようと一瞬だがよそ見をしたその時、劣勢だったはずの守り人の刀がヤマトの胸を切り裂いた。
「グハァ……!!」
ヤマトが地面に倒れ込む。
(やべぇ油断した……!!まずい……やられる……!!)さっきまで優勢だったはずの状況から一変したこの状況に、一瞬でパニックになるヤマト。守り人がヤマトにとどめを刺そうとすると、ホムラが守り人にタックルをして強引に引きはがした。
出血して地面に座り込んでいるヤマトが起き上がれるようにホムラが手を貸す。
「よそ見してんじゃねぇヤマト!!」
「わ、悪ぃ……!助かった……!!」
何とか起き上がれたヤマトだったが、予想以上に状況は悪い。それを薄々感じていたホムラは最後の手段に出る。
「ヤマト……!俺が全力でこいつらを食い止めるからお前だけでも逃げろ……!扉のあったところまで逃げてツカサさんに報告するんだ……!」
なんとかヤマトだけでも逃がそうとするホムラを見て、ヤマトは頭痛がする。
(クソッ……!まただ……!こんなときに……!)
痛みを感じたのも束の間、ヤマトは反射的に反対した。
「な、何言ってんだお前……!俺たちは仲間だろ……!生きるときも、死ぬときも一緒だろ!?」
ヤマトの状況を理解できていない発言にホムラは思わず感情的になる。
「……馬鹿野郎! こんな時まで何言ってんだ!!お前ホントに死にてぇのか!?」
しかし、ここで引くヤマトではなかった。
「こんな時だからだろ!一緒に、勝って帰るんだよ……!!」
「……!!」
少しの葛藤の後、根負けしたホムラは賭けに出ることにする。
「あああ!!クソッ!わかったよ!もう知らねーぞ!!」
守り人の男との戦闘の片手間、ヤマトとホムラのやり取りを見ていたゲンスイは2人に口をはさむ。
「ここが天王山か……!」
「増援が来るまでに全員片付けろ……!!増援が来たら、今度こそ本当に終わりだと思え……!!」
そう言ってゲンスイは再び守り人のリーダーと戦い始めた。
不思議なことに、ゲンスイは消耗すればするほど力がみなぎっているように見えた。
ゲンスイの異常なまでの粘り強さには、守り人のリーダーも少し焦りを見せ始める。
「サクラ、ワカバ!気をつけろ……こいつら、想像以上に強い……増援が来るまで耐えれば俺たちの勝ちだ……!!油断するな!」
「「了解!!」」
ヤマトとホムラに襲い掛かった守り人、サクラとワカバが初めて口を開いた。
「聞いたかヤマト……!もう時間がない!ここで一気に叩くぞ!!」
「ああ!」
ホムラに合わせるようにヤマトも構えなおす。
「来るぞ!」
サクラとワカバが警戒する。
「ウォォォォォ!!!!」
ホムラとヤマトが決死の特攻をする。
サクラとワカバがそれをなんとか刀で防ぐが、2人の勢いは止まらなかった。
場面は切り替わりゲンスイと守り人の男へ
「そういえばまだ名前を聞いていなかったな……名乗れ……」
予想以上の実力者であるゲンスイに興味を持った守り人の男は、ゲンスイに名前を聞く。
「ハァ……ハァ……!人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗るものだと思うが……?」
しかし、ただでは名乗らぬゲンスイだった。これは一本取られたと思った守り人の男は、ゲンスイの気概に免じて名前を名乗ることに。
「これは失礼した……私の名はチョウ……守り人として、この地を護っているものだ」
「そうか……奇遇だな……私も同じような生い立ちでね……」
偶然にも同じような立場にあった2人は、お互いに対する興味をさらに深める。
「ほう……」
ゲンスイが深呼吸し、ここ一番の大声で名乗りを上げる。
「──私の名は戦国ゲンスイ!!守護警察将軍にして、残された人類を次のステージに推し進めるためにこの地にやってきた『進歩の男』だ!!」
それを聞いたチョウは、初めてゲンスイの名を口にした。
「そうか……ゲンスイ……貴様は進歩とやらのために、この地に足を踏み入れたのか……?」
「そうだ……我々は生きるため、輝かしい未来のためにここにいる!!だから我々は、一歩も引けんのだ!!」
2人は初めてお互いの状況を知る。
「──そうか、本当に残念だよゲンスイ……立場さえ違わなければ……我々は武人として、戦士として良き友人になれただろう……」
チョウの言葉に偽りはなかった。
「そうやもしれんな……」
それを聞いたゲンスイもまた、少し悲しげな表情をした。
直後何かを思いついたゲンスイは、重い体を動かして必死に何かを伝えようとする。
「──なあチョウよ……時々思うのだ……先の見えぬこの戦いで、我々が報われる日は来るのだろうかと……」
「何の話だ……?」
チョウはゲンスイの脈絡のない語りに少し動揺して武器を握る手を緩めた。
血を流してよろめきながら、ゲンスイは続ける。
「未来についてだよ……我々の積み上げてきた膨大な数の犠牲と引き換えに、我々は目まぐるしい速さで進歩してきた……その進歩と犠牲の繰り返しを、我々は『歴史』と呼ぶ……!!」
ゲンスイの目はチョウを睨んで離さない。
「我々の行いなど、この巨大で壮大な人類の歴史を前にしてみればささいな出来事に過ぎないのかもしれない……!!我々の存在など、神の前では無に等しいのかもしれない……!!だがしかし、我々は確かにそこに居た!!一瞬にも満たないこの刹那に、我々は確かに存在したのだ……!!今だってそうだ……!!これで終わりではない……!!我々の意志は、次の世代へと確実に引き継がれるだろう……!!」
瀕死のゲンスイは、まるで最後の力を振り絞るかのようにそう力説した。
「──チョウ……貴様にそれがどうしてだかわかるか……!?」
しかし、チョウはそれを冷ややかな目で見る。無慈悲にも、ゲンスイの言葉はチョウには響かなかった。
「──時間稼ぎのつもりなのか……?増援が来て困るのはゲンスイ、貴様の方だろう」
それでも、ゲンスイは続けた。まるで、すぐ傍で戦っている2人の戦士を鼓舞するためのように。
「覚悟ならとうにできている……!!最後にチョウ……お前に教えてやろう……なぜ我々がここまで執念深く世界に抗うのかを……!!」
そんなゲンスイからただならぬ覚悟を感じ取ったチョウはゲンスイの言葉を遮るのをやめ、黙って聞くことにした。
「……」
ゲンスイが大剣を握りなおす。それを見たチョウはこれが最後だと感じ取り、彼もまた構えなおす。
「それは──それは、我々がこの世に生まれた時から……!!誰もが己の心に、この理不尽で残酷な世界に抗うために運命を穿つ、永遠の炎を宿しているからだ!!」
ゲンスイの熱い言葉を聞いたチョウは、改めてゲンスイという男の偉大さを知る。
「──そうか、今までの非礼を詫びよう戦国ゲンスイ……!貴様は正真正銘最高の戦士だ……!!私も戦士の端くれ……!!我が全力を以てして、貴様を神の元へと葬ってやろう!!」
2人の覇気が最高潮に達する。
「たとえこの身朽ち果てようとも、我々の意志は止まらない!!」
そう言ってゲンスイは、正真正銘最後の力を振り絞ってチョウに立ち向かった。その姿はまるで、世界の理不尽に哭き叫ぶ、黄金色の夜叉の様だった。
「来い!!!!戦国ゲンスイ!!!!」
「ウォォォォォォォォォォ!!!!!!」
勝負は一瞬だった。わずかだがゲンスイが、チョウより早く一撃をくらわすことができた。
「グハァ……!」
地面に倒れ込むチョウ。
「隊長!!」
それを見たサクラとワカバが一瞬だが隙を見せた。
勿論、ヤマトとホムラはそれを見逃さない。
数十秒前の自分と全く同じ状況に陥っているサクラとワカバを見て、ヤマトは少し活力を取り戻していた。
「何よそ見してんだァ!?随分と余裕みたいだなぁ!!」
「し、しまっ……!」
「──決めるぞヤマト!!今だ!!」
ヤマトとホムラが、2人に手痛い一撃をくらわせた。
「ガハァ……!!」
チョウと同じように、2人もまた地面に倒れ込む。
守護警察側の勝利と思われたが、その直後、すでに限界を迎えていたゲンスイが地面に倒れ込む。
(許せ若き戦士たちよ……あとは任せた……)
ほんの一瞬、ほんの一瞬の差が勝敗を決したのだ。チョウと同じように、ゲンスイもまた武人としての人生に幕を閉じた。
「将軍!!」
ヤマトがかけよろうとすると、一気にあたりが歪んでで見える。戦闘が終わり、アドレナリンの分泌が止まったのだろうか。
ぼやける視界の中、地面に滴る血液を見てヤマトは察する。
(あ……だめだこれ……血ィ出し過ぎた……)
意識がもうろうとする中、誰かの呼び声のようなものが聞こえる。
(まただ……一体誰なんだ……?ホムラか……?それともギンとなのはちゃん……?だとしたら申し訳ないけど俺、合わせる顔がねぇよ……)
(俺、何にもできなかった……!嫌だ……!まだ死にたくない……!)
藁にもすがる思いで生を渇望するヤマト。
混濁する意識の中、ヤマトは見知らぬ場所で目を覚ます。傍には、どこか懐かしい姿をした鬼の少女が。
続く




