第13話 「交差」(修正済み)
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
6時10分 ゲンスイら特殊調査部隊は無事鶴橋に到着した。
鶴橋も梅田や新大阪同様荒廃して緑が生い茂っていたが、どこか懐かしい、不思議な気配がした。
鶴橋のどこかにある鬼の世界への「扉」を探すため、4人はそれぞれ別行動をする。
(ホントにこんなとこに地獄への扉なんてあんのかよ……)
ヤマトがそう思いながら鶴橋を探索する。
鶴橋駅の狭い路地を抜けると大通りに出た。神秘的で幻想的な風景に言葉を失うヤマト。
ただの交差点が、まるで何百年も前からそこにあったかのような雰囲気をまとっていたからだ。
その絶景に息をのむヤマトは感心しながら探索を続ける。
しばらくすると、たくさんの植物に覆われている赤い扉を発見する。
(ん……?なんだあれ?)
どこからともなく呼び声が聞こえる。
(──だれか……居るのか……?)
扉を開けて確認しようとしたその時、どこか懐かしいような、この世のものとは思えない不思議な声が聞こえてきた。
「──扉を開けてはいけない」
「だ、誰だ……!!」
驚いたヤマトが咄嗟に構えあたりを見渡すと、まるでこの世のものとは思えない青白さの女が一人、ヤマトの方を指さしながらぽつんと立っていた。
女はまるで幽霊のように透き通っていて、今にも消えてなくなりそうだった。
「お、お前だれだよ……てゆうかこんなとこで何してんだよ……!ここは人の住めるところじゃねーぞ……!」
見慣れない服を身に纏っていた女は、どこからどうみても怪しかった。
しかし、幽霊のような女はヤマトの問いには答えなかった。
「──その扉を開けてはいけない」
幽霊のような女は、繰り返しそう言った。
女の声はまるで脳内に直接語り掛けているように反響していた。
(クソッ……!!何だこの胸騒ぎは……嫌な予感がする……!!こいつ、何者だ……!?)
あまりにも現実離れした出来事にヤマトも心拍数は跳ね上がっていたが、冷静に恐怖を飼いならし、女に質問する。
「何で開けちゃいけねぇんだよ……?」
ヤマトは女に質問するが、女はあいまいな答えしか返さなかった。
「──誰も運命からは逃れられない……ここから先は、長く苦しい荒野の道。その扉を開けると、もう元に戻ることはできない」
(運命……!?荒野の道……!?何だよ……!!どいつもこいつも、適当なことばっか言いやがって……!!)
『運命』 ハナビにも言われたことのあるその言葉は、ヤマトにとっては心底胡散臭いものだった。
「──んなもん知るかよ!俺は前に進むって決めたんだ!!」
曖昧な返事しかしない女にからかわれていると思ったヤマトは、不穏な気持ちを無視して勢いよく扉に触れる。
その瞬間、超新星の爆発の如く、ヤマトに身に覚えのないさまざまな記憶がものすごい勢いで脳内に流れ込んだ。
なぜか教会で涙を流して懺悔している男。白く荘厳な王都が、民衆の反乱によって血と炎にまみれる記憶。
燃え盛る炎の中、傷を負った角の生えたヤマトによく似た男が、鬼のような少女と抱き合いながら何かを言っている記憶。
さまざまな記憶が、断片的な映像と共に呼び起こされる。
一瞬とも、永遠ともとれる不思議な体験だった。
「──その扉を開けてはいけない」
気が付くと、地面に膝をつきうずくまっていたヤマトに女の幽霊が再び同じ忠告を繰り返す。
「ハァ……ハァ……!!うるせぇよ……!!んなもんテメェが決めんじゃねぇ……!!」
「──俺が行きたいから行くんだ……!!俺が望んだんだ……!!──テメェにどうこう言われる筋合いはねぇよ!!!!」
摩訶不思議な体験をして疲労していたヤマトだったが、なぜか無性に女の忠告に腹が立ったヤマトはものすごい勢いで怒鳴りつける。
不思議なことに、感じていた未知への不穏は失われていた。
すると、幽霊のような女がどんどん薄くなる。まるで永遠の夜が明けるかのように。
「そう……なら、気を付けてね……」
──ヤマト……
面識のないはずの女に名前を呼ばれたヤマトは取り乱す。
(え……い、今……俺の名前を……!?)
「お、おい……!!お前、どこ行ったんだよ……!!おい!!」
しかし、既に女はいなかった。
(クッソ……!!どこ行きやがったあの女……!!何かよくわかんねーこといろいろ言ってたし……!!将軍に報告するか……?)
(──いや、やめておこう……誰も信じねぇだろうし……士気が下がるだけだな……)
ヤマトがそんなことを考えていると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「ヤマトさーん!何か見つかりましたかー?!」
リュウセイの声でヤマトがふと我に返る。
「──ああ!見つけた!扉だ!」
ヤマトの報告を受け、ゲンスイらは扉の前に集合する。
「皆の者、準備はできているな?」
「はい!」
リュウセイとホムラが大声でそう答えるが、ヤマトは違った。
「……はい」
「どうした藤原ヤマト、怖気づいたか……?」
葛藤しているヤマトにゲンスイが声をかける。
「いえ、問題ないです……ただ……」
「ただ……?」
ゲンスイが問う
「この扉を開けたら、もう2度と元には戻れない気がして……」
ヤマトは先ほどの不思議な体験のせいか、扉を開けることに対して少し不安になっていた。
そんなヤマトの心情を察するかのようにゲンスイは、再びヤマトの心に火を灯す。
「そうだな……正直、これからのことは一切わかりかねん……」
それを聞いたヤマトは下を向くが、ゲンスイの構わず続けた。
「──しかし、だからこそ進むべきなのだ。我々は守護警察、護るべきもののために戦い、進歩のために前へと進むのだ! 後ろを振り返ることがあっても、決して歩みを止めてはならん!」
「はっ……はい!」
未知への不安はぬぐえなかったが、進むしかないということを再確認したヤマトは覚悟を決める。
「行くぞ!我々は勝って帰るのだ!世界の真実を目撃し、それを次の世代へと託すのだ!」
「はい!」
3人の声が響き渡る。
「──全員!敬礼!」
ゲンスイの轟くような大声が鳴り響き、空気がビリビリと揺れ、地面にできた水たまりに波紋が広がった。
ゲンスイが扉に背を向けて敬礼をする。
ヤマト達もそれに倣い敬礼をした。
軍人としての本能なのだろうか。不思議なことに、誰も居ない世界に敬礼をしている時、ヤマトは迷いは一切感じなかった。
「行くぞ……!!油断するなよ!!」
ゲンスイが古びた扉を開け、鬼の世界への第一歩を踏み出す。
この日、再び、世界が交差した。




