第12話 「明日世界が終わるなら」(修正済み)
漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。
演習場での一件の翌朝、ヤマトは鬼の世界の調査に出かけるために早起きをしてゲンスイの部屋へと向かった。
時刻は5時。辺りはまだ薄暗い。他の隊員を起こさないように静かに準備をして、ヤマトは同じ釜の飯を食い共に戦ってきた仲間に別れを告げた。
(みんなまだ寝てんだな……ほんとはちょっと寂しいけど、俺は行かなくちゃいけないんだ……)
(──だから、もし俺が帰って来られたら、その時は『おかえり』って言ってくれたら嬉しいな……)
(ギン、なのはちゃん……それに織姫……俺、行ってくるよ……まだ、みんなの所へはいけないけど、いつか、必ずみんなの所へ行くから……!だからそれまで、もう少しだけ俺のことを見守ってくれ……!)
(──行ってきます!)
覚悟を決めたヤマトは全てを変える勢いでゲンスイの部屋へと向かった。
「来たか」
部屋の中には既に2人の志願兵が集まっていた。
一番乗りだと思っていたヤマトは少し意外な顔をしたが、すぐに表情を切り替えた。
「お前たち、準備はできているな?」
ゲンスイがヤマト達に問いかける。
「はい!」
鬼の世界の調査を志願した3人は元気よく答えた。
ヤマトを含めた3人とも、それぞれ複雑な思いでこの調査に志願していた。
金髪の青年、藤原ヤマトは鬼に復讐するためという半ば自暴自棄な状態で、赤い短髪の青年「灯火ホムラ」は自身を犠牲にしてでも人類の未来を取り戻すという正義感で、黒髪の眼鏡をかけた青年「星読リュウセイ」は鬼に対する異常なまでの好奇心が原動力でこの作戦に参加していた。
そんな彼らをまとめるゲンスイもまた、自身の力がどこまで通用するのかという闘争心が原動力と言っても過言ではない曲者だった。
曲者ぞろいの特殊部隊は、軍用車で扉のある鶴橋へと向かう。
乗車中、しばらくの沈黙が続いたが、ホムラが場を和ませる提案をした。
「なぁ、こんなときにいうことじゃねぇかもしれねぇけどさ、鶴橋まで少し時間があるし、自己紹介でもしねぇか?」
ホムラのアイスブレイクの提案にリュウセイは乗り気だった。
「いいですね!」
「では私から……」
そう言って運転席からリュウセイが自己紹介を始めた。
「私の名前は星読リュウセイ。伏見区の出身です。趣味は空を見ることと読書、兵科は衛生科です。戦闘は苦手ですが……医療のことは何でもお任せください!」
危険な任務の志願兵とは思えないほどの明るい挨拶に、ホムラも同調するように明るく答えた。
「ああ、よろしくな!」
「じゃあ次は俺でいいか……?」
ヤマトが遠慮気味にそう言った。緊張とは違った、別の何かを感じているような、そんな態度だった。
「ああ、よろしく頼む!」
しかし、ホムラは一切気にする素振りを見せなかった。
「俺は藤原ヤマト。京都の山科区で育った。両親は俺が4歳の時に鬼に殺されてる。よろしく……」
ヤマトの最悪の自己紹介のせいで空気が重くなるが、ホムラが苦笑いをしながら自己紹介をして空気を和ませる。
「……よ、よろしくな!ヤマト! 俺は灯火ホムラ!俺は、伏見区の出身だ!俺の両親も鬼に殺された……」
「──俺の目標は、鬼に奪われた領土を取り戻して、また戦争前みたいにみんなで笑える暮らしを取り戻すことだ!よろしく!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ああ……よろしく……」
リュウセイの元気な挨拶とは反対に、ヤマトは気だるげそうにが生返事をした。
(うぜぇ……!なにがみんなで笑える暮らしだよ……!無理に決まってんだろ……!鬼だけ殺しときゃいいんだよ俺たちは……!)
ヤマトはホムラの自己紹介を聞いて無性に腹が立った。しかし、しばらくするとその怒りが自分に向けられたものでもあることに気が付く。
(あれ……俺、あいつに嫉妬してたのか……?昔の自分を見てるみたいで、イライラしてたのか……?)
昔の自分はああだったと思うと恥ずかしくてたまらない、しかし、そんなことをいちいち気にしてしまう自分の器の小ささはもっと恥ずかしい。そんなやるせない負の感情でいっぱいになったヤマトは険しい表情で自分を罵る。
(クソッ……!ダセぇ……!)
「どうした藤原ヤマト。浮かない顔だな」
そんなヤマトをバックミラー越しに見たまま、振り向かずに話しかけるゲンスイ。
「……!い、いえ!なんでもありません!」
反射的にヤマトがそう答えた。
「まあそうかたくなるな……時に藤原ヤマト、お前は明日世界が終わるなら、いったい何をする?」
ゲンスイがヤマトの緊張を解くためか、不意に哲学的な質問をする。
何の脈絡もないその質問に一瞬戸惑ったヤマトだったが、真剣にその問いに対する答えを考え始める。
「明日世界が終わるなら……」
思考を張り巡らせるヤマト。脳内には二度と手に入れることはできない、過ぎ去っていった夢のような時間が。そしてヤマトは答える。
「──覚めない夢を……見ていたいです」
遠慮気味に言ったものの、ゲンスイは目を丸くして感心した。
「フハハハハ!面白いな!」
意外な答えに声を上げて笑うゲンスイ。
「いえ……別にそんな……」
少し申し訳なさそうにするヤマトに、ホムラがフォローを入れる。
「いい夢見れるといいな」
恐らく純粋にそう思っているのだろうが、皮肉ともとれるその返しにヤマトは素直に感謝していいのかわからなかった。
「……ありがとう」
「ヤマトさんはロマンチストなんですね」
リュウセイが運転しながら会話に参加する。
「いや、ただの臆病者だよ」
ヤマトが卑屈にそう答える。
「──だが、ここにいる」
ゲンスイが真剣にそう言った。
それを聞いたヤマトの目頭が熱くなる。
ゲンスイの言葉がヤマトの心を覆っていた雲を吹き飛ばした。さりげない一言だったが、その一言がヤマトにとって何よりも染み渡った。
ゲンスイのその言葉は、自暴自棄になったヤマトにとって何よりの薬だった。
再び牙を取り戻したヤマトは涙が止まらなかった。
「……」
それを傍で見ていたホムラは少し戸惑ったが、消極的だったヤマトが感情をさらけ出したことを嬉しく思ってか、なぜか誇らしげにしていた。
「──よろしくな、ヤマト」
そう言って、泣きじゃくるホムラがヤマトに手を差し出した。
「……ああ!」
ヤマトがホムラの手を握り返す。
「ふふ、いい顔になったじゃないか」
ゲンスイが満足げにそう言った。
「あっ!」
リュウセイが何かに気付いて空を指さす。
「ほお、これは縁起がいい」
「綺麗だな」
「ああ……」
ホムラとヤマトもそれに釘付けになる。
時刻は5時20分。静かな世界に日が昇る。




