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rough  作者: ayu
ETERNAL FLAME 【第一章】新大阪決戦編(修正済み)
11/52

第11話「崩れ落ちていく世界」(修正済み)

漫画として週刊誌で連載したいので、作画担当をしてくださる方を募集中です。

作戦は成功した。しかし、それを「勝利」と呼ぶにはあまりにも代償が大きすぎた。

たくさんの兵士が傷つき、命を失った。戦いの後遺症で苦しむ兵士も少なくない。ヤマトもそのうちの一人だった。今回の作戦で仲間を2人も失った心の傷は簡単に癒えるものではない。

新大阪での戦いが終わった日の夜のことだった。


「お前が藤原ヤマトか」

聞いたことのない声をした男が寮のベンチに俯いて1人で座っていたヤマトの隣に座り込んできた。

「──あんた誰だよ」

喪に服しているヤマトが俯いたまま反抗的に答える。傷心しているヤマトにとって、周りの全てが鬱陶しかった。

「俺は第一空挺団隊長の天内ツカサだ。お前に話がある」

ツカサはいつもの威圧的な態度とは違い、どこか覇気のない声をしていた。

「……空挺の隊長が俺に何の用ですか」

自分に話しかけてきた男の階級を知ったヤマトは敬語に切り替えるが、声から荒んだ心がにじみ出ていた。

ヤマトの心情を察したツカサは、意外にもヤマトの反抗的な態度を見なかったことにした。

「そう噛みつくな……俺が話があると言ったのは『鬼の知性』についてだ」

俯いたまま、目すら合わせていなかったヤマトが顔を上げて興味を示す。

「……何か知ってるんですか?」

「ああ、俺もお前たちと同じく新大阪で喋る鬼と遭遇した」

「……」

「俺はその鬼と戦闘し、紙一重の差だったが勝つことができた」

ヤマトはツカサと自分の成果を比較してしまいさらに複雑な表情になる。

しかし、ツカサは迷わず話を続けた。

「──その際貴重な情報を入手したんだ。奴らの居所についてのな」

それを聞いたヤマトは食い気味に質問する。

「──奴らはどこに居るんですか」

「わからん……だが、鬼の世界につながる扉が鶴橋にあると言っていた」

「扉……?」

意外な言葉を聞いたヤマトはきょとんとする。

「ああそうだ……『扉』だ……」

「まだ確認したわけじゃないから断言はできないが、喋る鬼が言うには奴らはそこから俺たちを殲滅するためにやってくるらしい」

「……」

衝撃的な事実に、ヤマトは返す言葉もなかった。

さらに、ツカサは衝撃的な仮説を立てた。

「それと……これは俺の持論なんだが、おそらく本来の鬼は高度な知的生命体だ……」

「……どういうことですか」

「理由はよくわからんが、鬼は何らかの制約で言葉や視覚を封じられているのだろう……だが、それを無力化できるほどの力を持った強力な個体が極稀にだが存在する……それが新大阪での喋る鬼や、お前が淀川で戦った銃を使える鬼がもつ知性の正体だろう……」

「……鬼の縫合が破れていたのってそういうことなんですか」

ヤマトは今まで戦ってきた鬼との記憶を照らし合わせる。

「恐らくな……」

「……」

ヤマトは言葉を失った。

「怖いか……?」

ツカサがヤマトの表情を見た後問いかけた。

「──わかりません。だけど……俺はそれでも鬼を許せません」

ヤマトはツカサの仮説に衝撃を受けたものの、芯の部分は全くと言っていいほど変わっていなかった。

「俺もだ」

ツカサもヤマトに共感する。

「さて、そろそろ戻らないとな……もうすっかり夜だ。お前も体は大事にしろよ」

ツカサはベンチから腰を上げて去ろうとする。

「はい、ツカサさんもお気をつけて」

感情が共鳴したからだろうか、ほんの少しだけヤマトはツカサに心を許していた。

「──それと、残念だったな……」

ツカサが去り際にそう言った。

「え?」

ツカサの唐突な発言にヤマトは一瞬何のことかわからなかった。

「冷凍ギンのことだよ……あいつは優秀は兵士だった。お前の傍に居られて幸せだったと思うぞ……」

ツカサの意外な言葉を聞いたヤマトは、蓋をしていた気持ちが再び溢れ出す。

「──はい……!」

ヤマトの頬に涙が伝った。


ツカサが去った後、廊下のベンチに取り残されたヤマトは一人で葛藤していた。

「なあ、なのはちゃん……ギン……一体俺はどうすればいいんだろう……?」

「俺が今死んだら、またお前らに逢えるのかな……?」

蓋をしていたはずの感情が蘇り、仲間を失った悲しみに打ちひしがれていたヤマトは放心状態になってしまっていた。

全てを失ったヤマトは藁にもすがる思いで故人に語り掛けた。それが、今のヤマトの不安定な心を支える唯一の方法だった。

「もう迷わないって、心にそう決めたってのに……」

「ごめんハナビ……俺、立ち直れそうにないや……」

「俺は兵士失格だな… 自分のことで精いっぱいで、誰も守れてない……」

ふと昔のことを思い出し、顔が曇るヤマト。

「俺の罪は弱かったことだ……!なんだ……あの時と変わってねぇじゃん……!俺は、()()……!」

ヤマトは昔の自分と今の自分を重ねる。あの頃と同じ、誰も守れない弱い自分が憎くて涙がボロボロと零れ落ちた。

静かな夜の世界に、ヤマトの咽び泣く声だけが響き渡る。




涙が枯れるほど泣き、涙を流すことにさえ疲れたヤマトは放心状態になっていた。

しばらくすると、偶然か必然か。窓を見上げるヤマトに一筋の光が差し込んできた。

月明かりがヤマトの心を冷静にさせる。

ヤマトは、いつの間にか過去の記憶を思い出していた。


孤児院での出会いと別れ。護り切れなかった命。守護警察に入隊してからの過酷だが充実した日々。不思議なことに、その夜は全てを思い出すことができた。




「ヤマト……本当に守護警察に入隊するの……?」

2年前、ヤマトが山科を去ったハナビの代わりに守護警察に入隊して、自分で力の弱い人々を護ろうと決意した日のことだった。

孤児院でヤマトと同い年で最年長の織姫が心配そうにそう言ったのを思い出す。

(織姫……俺、あの時お前の意見をろくに聞かずに俺の気持ちを押し通したけど、本当はどうすればよかったんだろう……ここに入れば力がついてもう何も失わなくて済むって思ってたのに、現実はむしろ逆だ……自分の未熟さに打ちのめされる日々だよ……)

蘇る記憶は次々とやってくる。


「ヤマト君!今日も任務お疲れ様!怪我はない?何かあったらすぐに教えてね?」

なのははいつも明るく優しかった。鬼への憎しみが全ての原動力のヤマトにとって、なのはの笑顔は唯一この世界の有様を忘れさせてくれる希望の光だった。

(なのはちゃん……そういや、俺が調子乗って怪我したとき、すっごい悲しそうな顔してたな……

多分、そっから好きになったんだよな…… もっとありがとうって言っておけばよかったな……それに、いつか土地を取り戻してこの国が豊かになったら、子供の世話する仕事とかしたいっていってたっけ……懐かしいな……)


「ヤマト 失敗するなよ」

ギンはいつも冷静だった。戦場で熱くなりやすいヤマトを抑制し、時にはそのことでヤマトとぶつかることもあったが、それは全て仲間を思う気持ちからだった。ギンの言葉はいつもヤマトの支えになっていた。

(もう……喧嘩することもできねーんだな……俺、あいつのこと好きなのか嫌いなのか未だによくわかんねーや……いっつも小言ばっかりのイメージだったけど、あいつは何一つ間違ったこと言ってなかったんだよな……それに、たまにあいつが笑うとき時、何でかわかんねーけど俺も嬉しかったんだ……ホントなんでなんだろうな……)


ギンのことが未だによくわからなかったヤマトは、訓練兵時代のギンとのあるやり取りを思い出す。

「なあギン……お前明日死ぬとしたらどうする……?」

訓練の休憩中でのことだった。

「どうしたんだ急に……何か嫌なことでもあったのか……?」

ヤマトの唐突な質問にギンが少し引き気味に答えた。

「何でもねーよ……いいから答えろよ……」

唐突なヤマトの発言に杞憂するギンを、鬱陶しそうにあしらいながらヤマトが答えを促す。

「そうだな……俺は、変わらず生き続けるかな……」

ギンの意外な発言にヤマトは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして聞き返した。

「何で……?明日死ぬんだぞ……?」

「ああ、だからこそだ……」

ギンは続ける。

「明日死ぬとか明後日死ぬとか、そういうことを考えて生きていくのも自由だと思う。だけど、俺はなるべく明るく、楽しく、自由に生きたい。そういう生き方がしたい。だから、明日死ぬってわかってても、俺は全力で今日を生きる。だから、何もしない、これまで通り、毎日に感謝して生活するかな……」

「ふーん……特別なこととかしねーの?」

ヤマトがつまらなそうに聞いた。

「しないな」

ギンは淡白にそう答える。




『──言いたいことは山ほどあるが、最後にこれだけは言っておくぞ、ヤマト……!生きろ……!お前は一人じゃない……!』




(ヘッ……よく言うぜ……何が特別なことはしねぇだよ……最後の最後まで人のこと考えやがって……)

(──畜生……!!)

最後まで勇敢に戦って戦死したギン。そんなギンの最後の言葉は、繊細な友へのエールだった。

『生きろ』力強くて暖かいギンの言葉が壊れかけのヤマトの心に火を灯す。

もうとっくに涙は枯らしたはずなのに、また目頭が熱くなる。


「ごめんギン……!俺はまたお前に助けられた……!」

「俺、お前らの分まで生きるよ……! 生きて、生きて償うよ……! 死ぬまで償うから……!だから……!最後まで、俺の傍で見守っててくれ……!」

月明かりが眩しい静かな夜、ヤマトは不滅の決意をする。



翌日、ヤマトは伏見にある守護警察本部で行われた集会で「扉」のことや、鬼の世界の調査をする志願兵を募っているという話を聞かされる。

「諸君!先の作戦ご苦労だった!!諸君らの勇気が世界を傾けたのだ!私は君たちに、最大の感謝と、最大の敬意を表する!」

そう言って戦国ゲンスイは兵士たちに敬礼をした。ゲンスイの熱い言葉に感動して涙を流す兵士もいたが、ヤマトは違った。

もう、悲しみも怒りも、何もかもが不要だった。ただ目の前の鬼を殺したい。その純粋な復讐心と殺意だけがヤマトの生きる意味だった。ヤマトにとって、ゲンスイの言葉は雑音に過ぎなかった。

「先の作戦では様々な戦果が得られた!その中でもひときわ輝いている戦果が、鬼の世界へと続くとされる『扉』が鶴橋にあると判明したことだ!」

ヤマトの顔がさらに険しくなる。

「その『扉』をくぐるとおそらく鬼の拠点があるのだろう!しかし!規模や文明のレベルなど、ほぼ全てがわからないといっても過言ではない!そこで!我々は鬼の世界を調査する部隊を志願兵と言う形で募集することにした!」

聴衆がどよめきだす。そして、それをかき消すようにゲンスイが続けてこう言った。

「もちろん無理にとは言わない!君たちは先ほどの作戦で負った傷を癒す必要がある!しかし!それでも!傷を負ってでも!何もわからなくても!私と共に、世界の謎を明かし、鬼のいない世界を目指そうというものは、今日の18時に私の部屋に来てくれ!」

「そして、私が調査に赴くにあたり!私が居ない間は、守護警察将軍の座を第一空挺団隊長、天内ツカサに委任することにする!!」

「繰り返すがこれは義務ではない!無理をする必要もない!この作戦自体、博打のようなものだ!命の保証どころか、帰ってこられる保証すらない!よく考えて選ぶんだ!私はいつでも、勇気のあるものを歓迎する!」

そう言ってゲンスイは去っていった。




ゲンスイの演説後、ヤマトは寮に戻ろうとするところをミキオに止められる。

ミキオはヤマトが鬼の世界の調査に行こうとしていることを憂居ていた。

「なあヤマト、お前、まさかとは思うけど、将軍と一緒に行こうとか思ってないよな……!?」

深刻そうな表情でミキオが声をかける。彼自身、「鬼の扉」という今までの常識を覆すレベルの情報に理解が追い付いていないのだろう。声から焦りがにじみ出ていた。

「だったらなんだよ」

既に覚悟を決めていたヤマトはミキオのお節介を鬱陶しく思い反抗的に答える。時機に日が沈む頃、空は嫌というほど赤かった。

「いいかげんにしろ!!お前、将軍の話聞いてたのかよ……!鬼の世界を何と表現するか知ってるか……!?『地獄』だ……!!お前はそんなに死にたいのか……!?」

心のどこか奥底でヤマトのことを信じていたミキオは、ヤマトの予想外の答えに声を荒げて反対した。

「へっ……あんたこそよくのうのうと生きてられるよな……部下が2人も死んだってのに」

ミキオに水を差されてイラついたヤマトはミキオを挑発する。

それを聞いたミキオが反射的にヤマトの頬を殴る。

尻もちをついて倒れたヤマトにミキオが物凄い勢いで怒声を浴びせた。

「平気なわけないだろ……! 俺がどんな思いでお前に忠告してると思ってんだ……! これ以上、誰も死んでほしくないからに決まってんだろ……!? お前、本当にどうかしちまったようだな……!」

ミキオは自分の部下の軽率な発言に対する怒りと悲しみ、失望と軽蔑の入り混じった感情でもうどうすればいいかわからなくなっていた。

そんなミキオの気持ちは露知らず、よろよろと立ち上がったヤマトがミキオを殴り返して反論した。

「痛てぇなァクソが!!」

「ガハァ……!!」

今度はミキオが地面に倒れ込む。

怒り心頭のヤマトがありのままの気持ちをぶつけた。

「どうかしてんのはアンタのほうだろ……!!こんなに大勢の人が死んでんだぞ!!ここでやらなきゃいつやるんだよ!!」

ヤマトにもヤマトなりの考えと覚悟があってのことだった。それを否定されたヤマトはものすごい剣幕で怒鳴り散らかす。

「大勢の人が死んでる……?そんなの百も承知だよ……!!でも、ここで感情に身を任せて不確実な作戦に身を投じたらもっと大勢の人の命が無駄になるって言ってんだよ!!そんなこともわかんねぇクソガキを、俺は全力で止めるって言ってんだよ!!」

想像以上に執拗に反対してきたミキオに対して、ヤマトは殺意に近い感情を抱いていた。

「ホントうぜぇなアンタは!!この世界に何一つ無駄だった命なんてないんだよ!!俺が死んだら次!その次も死んだら次の次!!そうやって繋いでいくんだよ俺たちは!!危険を冒さないと得られないものがあるんだよ!!」

お互いの死生観が激しくぶつかり合う。

「お前は何もわかってない!!死んだら次!?何をふざけたことを言っているんだ……!!死なないように……!!だれも悲しまないためにできることを全力でやるのが俺たちの役目だろ!?お前が言ってるのは無責任な妄言だ!!現実を見ろ!!」

ミキオの言葉で何かがぷつんと切れたヤマトは怒り狂った。

「あああああ!!うぜぇなぁお前ェはよォォォ!!!ほっとけよクソが!!現実を見続けた結果がこれだ!!誰もこんな生活望んでねぇんだよ!!今やらなきゃ一生後悔する!!ようやく希望が見えて来たんだ!!俺は兵士だ!!腰抜けじゃねぇ!!」

激昂したヤマトを見かねたミキオは最後の手段に出る。

「口で言ってもわからないようだな……!!」

ミキオが構える。

「こいよ、マジで殺してやるよ……!」

ヤマトは完全にやる気満々だった。

両者がじりじりと近づきあう。

そして次の瞬間、両者が激しくぶつかり合う。

「オラァ!!」

そりが合わないとはいえ、一応は自分の上司であるミキオに容赦なく蹴りを入れるヤマトだったが、巨漢のミキオは体幹が強く、倒れる気配が全くないどころか、蹴っているこっちの足が痛くなるくらいには無意味に思えたヤマトは手数で勝負することにする。

防戦一方のミキオにひたすらラッシュをかけるヤマトだったが、それはミキオの戦略だった。

体力を温存していたミキオが、疲れ果てたヤマトに渾身の一撃をヤマトに放つ。

「ガハァッ……!!」

みぞおちを殴られて一瞬だが呼吸困難になったヤマトの隙をミキオは逃がさなかった。

そのままヤマトをフェンスの網に押し付けて襟首をつかむ。

「──ッ!化け物が……!!」

ヤマトはミキオの規格外の強さを認めざるを得なかった。

ミキオがヤマトにとどめを刺すかと思いきや、ミキオはヤマトの襟をつかみ意外な言葉を放った。

「いい加減目を覚ませヤマト!!」

ミキオは、あろうことか未だにヤマトに情けをかけたのだ。そのことがヤマトの劣等感を刺激する。

「うるせぇよクソが……!!」

ヤマトは咄嗟に腰からナイフを抜き、ミキオを刺そうとする。それを間一髪のところで防いだミキオはヤマトの異変に気が付き、ヤマトの腹部にもう一度重い一撃を入れた。

「グゥッ……!!」

(ハァ……!ハァ……!こいつ……!本気で俺を殺そうと……!!)

ヤマトが地面にうずくまっている間、ミキオは事の重大さを改めて認識した。

「クソッ……!!何を言っても無駄のようだな……!!ヤマト、少し休め!!」

そう言ってミキオもナイフを構えたその時だった。

「止めんか!!」

辺り一帯がビリビリと揺れるほどの物凄い轟音が響き渡った。

ヤマトの猛攻をいともたやすく受け止めたミキオでさえ、この威圧感には太刀打ちできなかった。

ミキオはその場で静止した。振り向くことすらできなかったのだ。

「その辺にしたらどうだ……」

声の主は、先ほどの演説で鬼の扉の存在を公表していた守護警察最強と名高い「将軍」こと戦国ゲンスイだった。

「思い違いがあったとはいえ我らは仲間、人間同士で争っていて、鬼の脅威に対抗できるのか……?」

ゲンスイは少し失望気味にそう言った。

「すみません……」

ゲンスイのぐうの音も出ない正論と、反論の許されない絶対的な威圧感を前に、ミキオはただ謝る事しかできなかった。

「それでお主ら、一体何故ゆえにそこまでして争っていたのだ?」

滅多にない人間同士の争いを見たゲンスイがあきれ果てて質問した。

「それは……」

『鶴橋に行くのは自殺行為だから辞めさせたかった』と素直に将軍に伝えることができなかったミキオは言葉に詰まる。

「──俺が鶴橋に行きたいと言ったからです」

ヤマトが言い淀むミキオに割って入った。

「……」

ミキオは目をそらして黙ったままだ。

「──お主、名は?」

ゲンスイの目にヤマトが留まった。

「──藤原ヤマトです」

「そうか、ヤマトと申すか。時に藤原ヤマト、お主はなぜ危険を冒してまで鶴橋に行きたいのだ?」

誰でも歓迎すると言っていたゲンスイは何故かヤマトに動機を聞いた。

この質問にヤマトはどう答えるのか、ミキオも固唾を呑んで注目していた。

「それは……」

ヤマトが言葉に詰まるが、溢れ出す思いを整理して簡潔に述べる。

「──今のままでは、いけないと思っているからです」

ヤマトの言葉に偽りはない。

「そうか……」

ヤマトの返答はシンプルなものだったが、様々な思いが込められていることはゲンスイもよくわかっていた。

「──私もだ」

ゲンスイ自身もそうだったからだ。

ヤマトとゲンスイが共鳴する最中、言おうか迷っていたミキオだったが、勇気を出してゲンスイに本音を伝える。

「──お言葉ですが将軍……!!鶴橋へ行くのはあまりにも危険です……!!不確定要素が多すぎます……!!今は西日本奪還を優先すべきです……!!」

ヤマトが不都合そうにそっぽを向いた。

もう争う体力もないのだろう。

意外にもゲンスイはミキオの意見を否定しなかった。

「──確かにそなたの言う通りだ……演説でも言ったが、鶴嘴へ向かうのは博打のようなもの……普通の人間なら行くまい……」

「ではなぜ……!?」

それを聞いたミキオの困惑にさらに拍車がかかる。もはや将軍に対する畏怖は消え去っていた。

しかし、ゲンスイは自分の意見を貫いた。

「私も彼と同じように、この世界に不満を抱いているからだよ……」

「そんな……」

ほぼ我儘のようなゲンスイの主張にミキオは落胆した。しかし、さすがは守護警察将軍。我儘を貫くための根回しは既に完了していた。

「安心せい……私の後継者のツカサはお主の考え方に近い……西日本奪還はお主らに任せた……」

それを聞いたミキオは渋々納得した。

「……わかりました」

「では藤原ヤマト……そろそろ行くぞ。私の部屋で作戦会議だ。ついて来い」

そう言ってゲンスイはヤマトを連れ去って演習場を後にした。



続く……

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