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INFINITY MAGIA  作者: 二月ノ三日月
第一章【IGNITION】
4/26

第4話 入学試験 中編

 試験開始より四十五分が経過した。

 三百人いた受験生は全員が魔法を使用し、あちこちから爆音が鳴り止まない状況と化していたが、戦う場として逃げずに敵襲を返り討ちにする。


「【物魔反射(リフレクト)】」

「ぎゃっ!?」


 同じ魔法を連続して使い潰し、この魔法以外一つも使用していない状況が続いていた。

 そもそも使う理由も必要も無い。

 今も、岩の弾丸が飛んでくる魔法を跳ね返し、相手を倒したところである。


「ったく、何でこんなに襲ってくんだよ?」


 意味不明、しかし攻撃を跳ね返す力を持っているため、結構楽に進めている。

 迷路は複雑化している。

 動く床もあれば、とある空間は出口が一人でに開いたり閉じたりを繰り返している。

 また、階段があったり二階へと続く通路もあるため、迷路と呼ぶには些か無理があるような気がしていた。


(こりゃあもう、迷宮だな)


 迷路ではなく、迷宮の雰囲気が試験会場全体を包む。

 このような魔法を組み込んでいた時点で、学園側はかなり本気なのだろう。

 受験生の地の利を活かした戦法でも期待しているのか、それとも別の意図があるのか、遊び心を加えたようなアスレチック戦場で、止まらず行動する。


(この会場を形成する術式に干渉できるだろうけど、一応試験だし普通に探索するべきだな)


 徒党を組んで急襲する者達を退け、ジオは受験番号カードを回収し、道なりに進んだところで角を何気無く右に曲がってみる。

 と、通路の曲がり角で誰かと衝突しそうになった。

 咄嗟の判断で、通路に出て相手と距離を取る。

 相手側も、ジオの素早い動きが影のような残像を見せ、咄嗟の判断で後ろへ下がり、後退による靴の擦れる音が通路に響いた。

 互いに距離を取って剣と魔法紙を構えるが、それが杞憂であったと二人は得物を下げる。


「ビックリした……驚かさないでよ、ジオ」

「それはこっちの台詞だ、ギルベルト。今日は何度もお前と会うな」

「運命の出会いってやつかな?」

「止めろ気色悪い」


 偶然にも、知り合い同士が邂逅した。

 剣を鞘から抜いた状態で、その剣は火を纏っていた。


「やっぱり君も生き残ってたね」

「やっぱりって何だよ?」

「何だか雰囲気的に、簡単に殺られるような人間じゃない気がしてね」


 どんな雰囲気だよ、とツッコミを入れようと口を開きかけた途中で、二人は一目散にその場から退散した。

 約一秒未満後、氷槍の群れが二人の間に突き刺さり、それが大きな花を咲かせる。

 同時に二人を標的にした魔法が、連続して飛んでくる。

 二人はそれぞれ独自の戦闘方法で対処した。


「『ガルスクア魔剣術一刀流/十字火燕』」

「【突風衝(ガスト)】」


 ギルベルトは纏った炎剣で攻撃を縦横十字に斬り溶かし、ジオは魔法紙に予め刻んであった風の衝撃波で氷槍の数々を吹き飛ばした。

 豪胆な属性攻撃に、剣士は目を輝かせる。

 雰囲気的に殺られないとは分かっていても、内在する魔力量の圧倒的少なさに、違和感があった。

 その違和感は深まったが、ジオルスタスという青年の魔法技術はそこらの魔導師を遥かに凌駕するものだと、一つ納得できた。

 剣を鞘に仕舞い、周囲を警戒する。


(氷の魔法……規模からして【氷結槍(フリーズランス)】っぽいな)


 冷静な魔法分析の間にも、手にしていた魔法紙が効力を失い、付与してあった風の魔法が役目を終えてボロボロと消滅した。

 魔法の熟練度はジオの方が圧倒的に上。

 しかし地面に突き刺さる氷棘も、中々にレベルの高い魔法であると言わざるを得ない。


「チッ、何処行きやがった?」


 周囲へと探知範囲を拡大させるも、その効果範囲には何人も受験者がいて、何処もかしこも戦闘状態だった。

 その中に紛れ込んだのか、見つからない。

 魔力反応が周囲から無数に見えるため、探知しても攻撃してきた本人が分かるとも限らない。


「今の、何だったんだろうね?」

「さぁな」


 突然の攻撃、それ以降の攻撃が来ないせいで、敵の目的が窺い知れない。

 カードを手に入れるなら、効果範囲外に逃げた理由も不明であるため、警戒を働かせて二人は一定の場所に留まらないよう移動を開始する。

 二人が受験生相手に負け無しであるのは教師側でも把握しており、しかも片方は魔法ではなく魔剣術で、もう片方は不思議な魔法体系、他の受験生達が手も足も出ない強さを持っている。

 ギルベルトの名前は『剣聖の孫』という肩書きがあるために知名度もあるが、一方でジオを知っている教師が誰一人いない。

 だからこそ即座に彼の素性を調べるよう、映像を監視する教師達が動き出す。

 それを露知らず、二人は通路を歩く。

 挟まれたら逃げられない一本道に、二人の会話が木霊していた。


「それにしても今回の試験、他のところも同じような内容なのかな? ちょっと気になるね」

「同じかどうかは現状では一切分からんが、合格基準が設定されてないのは少々疑問だな」

「どういう事?」

「まず、情報が不足しすぎている。意図的なのかは知らないけど、明確な合格基準が設定されてない」


 ジャンの試験説明では、合格するための条件が判明していない。

 受験番号を奪い合え、制限時間は二時間、奪った分だけ加点される個人戦だ、と言った。

 それ以外では、この演習場の頑丈さをアピールしただけ。


「普通に考えれば、奪った分だけ自分の点数にできる。他人と差を付けられると考える」

「まぁ、確かに」

「けど、実際には試験官以外にも観察してる奴等がいるのは確かだし、教師陣に強さを示せって言ってた。つまり、採点基準は外側にいる奴等も含めて行われるはず。ってかそれが普通だ」


 そうでなければ、観察する意味が無い。

 それに加えて、個人戦だとも言っていた。


「何か可笑しな点でもあるの?」

「これが個人戦なら、俺とお前で奪い合いできるって思わないか?」

「なっ!?」


 そう言った直後、ギルベルトが間合いを得るため後ろに跳躍し、剣の柄を握った。

 居合いの構えを取るが、隙を見せないジオに対して動けずにいた。


「別にお前から奪う気は無いから落ち着け。個人戦だとは言われたけど、徒党を組んではならないとは一言も言及されてないだろ?」

「た、確かに」

「共闘した方が確実なんだ。ま、その分得点を得なきゃならないが……」


 それに明確に点数表示もされていない。

 だから何点取れば合格基準に達するかが不明、だから受験者の殆どは必死に点数を捥ぎ取ろうと、周囲にいる敵全てに襲い掛かる勢いだ。


「残り一時間半もある。けど、これは後半になるに連れて厳しい戦いになる。何故か分かるか?」

「カードを持ってる人と持ってない人で分かれるから、だよね?」

「そう、後半になると持ってる奴より持ってない奴の方が多くなる。つまり、奪い合いがより熾烈さを増すんじゃないかって思う。それに……」


 この試験に関して、一つの疑問が浮かぶ。

 しかし、不足した情報を補うためには行動あるのみ。


「とにかく動くか、ここは通路が少し狭いしな」

「え、う、うん」


 疑問の声を掛ける間も与えず、ジオは再び足を動かし始めた。

 何処に行くのか問おうとするも、青年は止まらない。

 今も周辺探知を繰り返し、情報を得ている。

 その探知精度は一般の探査魔導師より遥かに優秀であるが、魔力回路の重度な損傷のせいで精度が落ち、範囲も限定されている。

 しかし紙に記載した魔法陣に加え、不可視状態で常に魔法を使用しているため、脳の負担が倍となる。


「ギルベルト、お前の場合、その剣使うには道が広い方が良いだろう。生憎と、この通路沿いで剣を振るうのは少し難しいはずだ」

「まぁそうだけど、君は剣とか使わないの?」

「俺は基本的に武器を使わない。動き辛いし、そもそも俺達魔法使いだぞ。使うとしても短剣だ。直剣使う魔法使いなんて殆どいない。魔法発動を阻害しない武器で一番身軽に動ける武器が短剣なんだが……最近は魔法一筋だな、武器だと手加減しにくいし」


 まるで短剣だったら手加減ができない、と言っているように聞こえた。

 そしてギルベルトは一瞬、魔導師の青年から悍ましい殺意を感じ取り、その濃密な殺気が漏れた事実に、二歩だけ後退りした。

 魔法でなら手加減ができる。

 しかし武器を取れば一度性格が変わる、という話もあるくらいだ、と。


(爺ちゃんと同等の殺気……いや、それ以上の凝縮された殺意だったような……)


 今まで出会ってきた、どの人種とも違う不思議な存在がジオルスタスという青年であり、その常識を超えた彼が謎に包まれているため、より一層の興味が沸いていた。

 彼は何者なのか。

 魔力量は平凡未満、ハッキリ言えば魔法使いの才能無しだが魔法を自在に扱える。

 それが誰の目にも異様に映る。

 魔力保有量の少なさから、高位の魔法を使う事実そのものが不正である、という疑惑さえも向けられるが、実質不正の証拠は無い。


「この演習場、かなり広いな。端まで迷路に使ってるようだが、この再現場所はまるで『街』をイメージしてるみたいだな」

「街をイメージ? それに端っこって?」

「探知した結果だ」

「え、でも詠唱してないよね」

「俺を間違った常識で測るな。魔法に本来詠唱なんて必要無いんだよ。むしろ魔法使用の邪魔だ。それに高等技術を扱うには、必ず無詠唱での魔法が必須となる」

「へ、へぇ……」

「お前、分かってないだろ」


 魔法学概論における高等技術、或いは現段階の一般魔導師には不可能な魔法理論、それ等は詠唱での魔法使用では決してできない芸当。

 普通の教科書に載っていない高等技術が、詠唱を必要としない理由の一つとなる。


「詠唱する場合、発動できる魔法は一つだ。複合魔法で二つ三つの属性を合わせたりする場合もあるが、それも一つにカウントされる。なら二つ以上の、別々の効果を持つ並列的な魔法を扱うにはどうする?」

「それが無詠唱……けど、不可能でしょ? 無詠唱で魔法を使おうと研究した人は皆、失敗したんだから」

「それは前頭葉のイメージ記憶によるものだ。つまり失敗するというイメージが、多少なりとも魔法に影響した結果に過ぎないんだよ。だから実際には、魔法の無詠唱での発動は可能だ」

「そうなの?」

「一般的な魔導師には伝えられない技術も世界には数多くあるもんだ。けど、今は気にするな。お前の場合は魔法よりも魔力操作から始めた方が効率的だろうし」


 魔法を扱う上で、魔力操作は必須。

 魔力操作という基礎を疎かにすると、魔力の暴発や枯渇、魔法阻害、様々な変則的事象が発生し、術者に悪影響を及ぼす。

 怪我だけで済めばラッキー、しかし暴発によって対象者に甚大な負傷を負わせた場合、二度と魔法が使えなくなる可能性も大いにある。

 それを、ジオは身を以って体験している。


「お前の得意な魔法は『付与』だな」

「うん、魔剣術とも相性良いし、色んなところで便利だからね。それに僕の付与魔法はちょっと特殊なんだ」

「へー、そうなのかー」

「興味無さそう!?」

「その通りだ、付与魔法使いなんて大勢いるからな。それに付与魔法は俺の研究分野じゃないし……」

「研究分野って?」

「秘密だ。それより、気を引き締めろ」


 視線の先、十字路へと差し掛かるところで、突如魔法陣が出現した。

 真っ青な魔法陣、そこから飛び出したのは水の礫。

 少し狭い通路が二人の逃げ道を塞ぐ。


「僕に任せて!!」

「おい、何する気だ?」


 居合いの構えを取り、腰を深く落とす。

 まるで縦に居合いを抜くような構えに、その驚異的な集中力が身体能力を向上させ、しかし迫る礫雨に対して振るえるのは一太刀のみ。

 どうする気か、とジオが魔法の準備に入った途端、一点に集中されていた魔力が解放される。


「『ガルスクア魔剣術一刀流/逆天鷹』」


 振り抜く剣が、下から上へと半月を描く。

 纏う炎鷹が通路一杯に広がる礫を蒸発させ、その十字路より先の突き当たりまで、一気に地面を焦がした。

 熱量が後ろにも届き、ジオは戦慄する。

 剣聖と同じ技を駆使するギルベルトの、その技量と魔法運用の上手さ、相当な練習量を要したのは技の精度から伝わってくる。


「凄まじい剣閃、流石は剣聖の孫と言ったところか?」

「……ありがとう」


 あまり嬉しそうにせず、剣を収めた青年は苦笑いを浮かべた。


「さて、十字路の横に隠れてる二人組、今すぐ出てこい」

「ふ、二人組!?」

「俺の探知網で二人分の魔力反応が感知できる。右手に一人、左手に一人だ。左手にいる奴が水魔法を使って俺達を襲ったんだ」


 気配を上手く隠している二人組の敵、それをジオは一瞬で看破した。

 その探知精度と速度において、並大抵の魔法技術では不可能な領域に彼がいる、そう思って相棒の魔法の技量について感心する。

 だが、それよりも前に、先にすべき案件が通路の向こうにいる。


「三秒以内に出てこい」


 考える時間を与えず、カウントを始める。

 その場から逃げるか、不意打ちを狙うか、それとも素直に出てくるか、どの対応だとしても容赦なく襲って受験番号のカードを奪う。

 相手が先に襲ってきたのだから。

 文句を言われる筋合いは無い。

 カウントは三、二、一、最後に零、そう発する直前で一人だけ出てきた。

 夕焼けのような真っ赤な髪を後ろで結ぶ、可憐な少女。

 紫紺の瞳は藤の花を思い起こさせ、その瞳の奥の意志が炎のように揺らめいている。


「こ、降参するのです」


 突然の降参宣言にギルベルトが困惑するが、油断せずにジオは魔法紙を向ける。

 油断は即死に繋がる、軍で学んだ経験である。

 だから武器は下ろさない。


「そこにもう一人隠れてるのは分かってる。出てこい」

「わ、私は一人なのですよ!」


 一人だと主張する受験生に、相方の剣士も戸惑いながら一つの可能性をジオへ伝えてみる。


「えっと、通路沿いで倒れてるんじゃないの? その魔力反応を感知したとかさ」


 魔力探知は対象の魔力を感知する魔法、相手が気絶しているかどうかは術者からは判別不可能である、という常識を青年に問う。

 警戒心を更に引き上げる。

 何を言っても無駄、それは相手が気絶していないと知っているジオだからこそ、こうして油断せずに降参する少女に向かって魔法紙を翳している。


「俺は別に魔力反応だけを見てる訳じゃない。俺の組み上げた魔法陣は、人体の放つ電気信号や熱源、魔力や微細な動き、つまり人間の生体反応全部を捉えるものだ」

「な、なら――」

「もう一人は敢えて潜伏に徹してるのさ」


 少女の目元がピクッと反応したのを見逃さず、ジオは無言で魔法を発動させる。

 そこに仕込まれていた炎の魔法を前方にいる敵目掛けて撃ち放つ。


(【暴焔嵐(フレアストーム)】)


 魔法陣から、巨大な炎の渦が放出される。

 それが無抵抗な少女に向けての攻撃かと、術者本人に抗議しようと思ったが、その魔法は不可視の膜に遮られ、攻撃は阻まれた。


「え、い、今のは……」

「あぁ、水属性魔法の一つ、【水流膜(アクアベール)】だろうな」


 しかも魔法を駆使したのは、投降すると宣った少女ではなく別の誰か。

 これで確定した。

 やはり自分達を罠に嵌めるためだ、と。


「ここで始末する」

「え、ちょっ――」


 離れていた距離を詰め、ジオは降伏相手の少女を倒そうと接近し、魔法を放つために紙に魔力で魔法陣を描く。

 が、それよりも早く、少女が協力相手の名を叫ぶ。


「す、スイ!!」

「【水流弾(アクアバレット)】!!」


 接近するジオに向かって、通路から飛び出した少女が魔法を撃つ。

 指で作った鉄砲の銃口を、心臓目掛けて。

 胸元に着弾、後ろへと身体が持っていかれ、体勢を崩して地面に落ちる。

 スイと呼ばれた、降参した少女と瓜二つの彼女が横並びに立って、魔法を撃つつもりでギルベルトへと銃口を向けていた。

 海のような青色の髪を後ろで結び、紫紺色の双眸には希望の光が宿る。


「ジオ!!」

「メイ、そこの男からカードを抜き取りなさい」

「う、うん」


 気絶したジオからカードを奪おうと近付こうとする、メイと呼ばれた少女に対し、ギルベルトが守るために飛び出そうとする。

 しかし、それをスイが阻む。

 水魔法の弾丸を瞬時に装填し、剣士を足止めする。

 二人の攻防が連続して繰り返される中、小さな悲鳴が聞こえて二人はそちらへ向く。


「す、スイ……」

「今すぐ魔法発動を止めて、投降しろ。さもないと零距離で彼女に魔法を放つ」


 メイ少女が、ジオによって魔法で拘束されて魔法陣も紙にセットされた状態で、気絶したはずのジオが優勢に立っている場面だった。

 どうやってと考えるより先に、動こうとするスイを睥睨して魔法紙をチラつかせる。


「クッ……か、カードは渡すから、妹だけは勘弁して」


 カードと妹を交換してくれ、そう語るスイにジオは睨んだまま何かを考える。

 そして、一言発する。


「先にカードをギルベルトに渡せ。偽物だった場合、分かってるな?」

「……良いわ、はい」


 隣にいたギルベルトへと受験番号カードを手渡して、それを確認した彼が、偽物ではないと頷いたのを確認し、少女の拘束を解いた。

 人質となったメイはスイの下へ、ギルベルトはジオのところへカードを持って、それを受け取る。


「どうやら、カードは本物のようだな」

「人質なんて、最低ね」

「不意打ち仕掛けてきた奴等に言われたくない。そっちが先に手を出したんだ、文句を言われる筋合いは無いぞ。油断する方が悪いんだからな」


 外道な戦い方に文句を垂れるも、この試験では過剰暴力も認められてはいる。

 行為的に考えても、それは素行面から心象を悪くするだけだが、それでも作戦として有用であるのはジオによって証明された。

 やられたフリをして、相手を油断させる。

 そしてカードに手を伸ばした少女へ奇襲を仕掛け、形勢を逆転させた。


「まぁでも、今回の試験はカードを奪われても起死回生のチャンスがある」

「は?」

「ルールが不足しているから、明確な合格基準が無い。教師に強さを示せ、たったそれだけ。つまり奪われても諦める必要が無いって訳だ」


 二時間、奪った者も奪われた者も等しく、試験に参加できる。

 これは全員が敵の個人戦、教師達は監視用魔導具で受験生達の様子を見ている。


「な、何で敵のアタシ達にそんな有益そうな情報、教えてくれたのよ?」

「あぁ、そっちの妹のカードも貰ったしな」

「なっ!? か、返しなさいよ!!」


 情報と引き換えに、ジオはメイの懐から受験番号カードを取得していた。

 それは音も無く、ただ自然と盗んでいた。

 返さないが、その代わりに情報を与えている。


「この試験で勝つ方法は簡単、他の受験生から多くのカードを奪うだけ。至ってシンプルな個人戦、って思うのが普通なんだが、正直別の意図があるように思えてならない」

「その根拠は何よ?」

「根拠は無いが、自分で元軍人だって言ってたし、この用意された空間も街をイメージして作られてるなら……」


 そこに隠された意図が絡んでくるはずだ、と予測を立ててみる。


「ま、要するに、最後まで生き残れって訳だ。ダメージが蓄積すると気絶するから、気絶せずに最後まで戦い抜けば一先ず合格基準に達するんじゃないか?」

「「……」」


 ジオの話を聞いた二人の少女は、互いに顔を見合わせて青年に向き直る。


「情報には感謝するわ。けど……妹を人質にした件については絶対許さないから、入学したら覚えときなさい!」

「あぁ、しっかり記憶しておこう」

「行くわよ、メイ」

「あ、スイ、待ってよ〜!」


 踵を返すスイ、そして彼女を追い掛けるメイが何処かへと行ってしまった。

 自分のカードを諦め、他のカードを沢山奪うために行動に出る二人の姿を見送る二人の青年。

 これで良かったのか、ギルベルトは悩む。

 また奇襲を仕掛けてくるのではないか、という可能性を危惧しているためで、逃したジオの真意が分からず、ただ困惑するのみ。

 だから、その張本人へと問い質す。


「ねぇジオ」

「何だ?」

「何で敵に情報を渡したのさ? さっきのが本音って訳じゃないだろ?」

「あぁ、そうだな」


 先刻の本音、妹のカードを奪ったから、という理由で情報を渡した訳ではない。

 ギルベルトは、それに気付いていた。

 なら何故逃したのか?


「もしかして、タイプの女子だったとか?」

「……単なる気紛れだ」


 カードを奪った事実に対する見返りとして、有益とも知れない情報を渡しただけ。

 それに加えて、自分の情報が正しいのか実践してくれる者を探していた、という点もある。

 だから話した。

 操りやすい人間を選別して。


「でも行っちゃったよ?」

「安心しろ、メイって奴の服に魔法陣を仕込んだ。彼女の行動は逐一こっちに届いてるから、問題無い」

「そ、そうなんだ」


 ただ、それだけではない。

 彼が思ったのは、二人の行動そのものからである。

 ジオ本人にバレてはいたが奇襲を仕掛け、中々の連携を見せて、更には逆転された時の対応の速さも窺えた。

 妹を助けるためにカードを即座に差し出す精神、そこを評価して情報を教えた。


「ああいう人間にこそ、合格してほしいもんだ……」

「何か言ったかい?」

「いんや、何も」


 小さく漏らした言葉は誰の耳にも届かず、青年は合格のために動き出す。


「この二次試験において、最終的な合格基準は何処にあると思う?」

「えっと……沢山奪ったカードの数、とか?」

「まぁ、それも正解だろうな。けど、それだけじゃないと俺は見てる」

「と、言うと?」

「明確な合格基準が示されてるはずだ。そのうちの一つがカード集め、集めた枚数によって強さが大まかに分かる仕組みだな。カード持ってる奴一人一人個人差や相性があるからこそ、他にも用意されてるはずなんだ」

「ジオはもう分かってるの?」

「まぁ、予想の範疇を出ないがな。試験官は、派手に戦っても問題無い、教師陣にアピールしろと言った。つまり強い魔法を使っても構わない、とも言ってるのさ。どれだけ強い魔法が使えるのか、そう言った部分も評価対象になってんじゃねぇかな? 至る所から監視の目を感じるし」


 しかし、どれも予想でしかない。

 これが間違ってるかもしれない、となれば、正直お手上げだと両手を挙げて溜め息を零す。


「もう一つ疑問なのは、何で自分の受験番号カードについて言及されないのか、だな」

「どういう意味?」

「試験中の出来事として、自分の受験番号カードが奪われる場面を、試験側も想定しているはずだ。なのにペナルティも無ければ加点されるとも言われていない。つまり現状持ってても無駄なのさ」


 例を挙げるとして、自分の受験番号カードを持っている時の加点が強奪時よりも高い場合、奪う毎に一点加点されるに対して元々持っているのがプラス四点加点なら、奪われた時の損失はマイナス四点。

 何一つ奪えなかったら、自分の受験番号カードを損失した時点で四点も引かれる。

 それを補うためには、四枚のカードを他人から奪わなければならない。


「自身のカードの加点が、奪った時よりも大きいなら、持ってて価値がある。その分、奪われた時の点数はリスクになるが、それでこそ試験だ。けど重要な説明が一切されてなかった。だから情報が完全に不足してるのさ」

「……じゃあ、ジオは何処に向かってるの?」

「情報を持ってそうな人のとこ」


 その発言の意図に疑問符を浮かべるギルベルトは、ジオの背後を付いていく。


「それにしても、だ。一次と二次がこんなに面倒なんだから、三次四次もきっと面倒なんだろうな」

「まぁ、確かにその可能性はあるね。千人以上いる中から二百人程度、だもんね。生き残る確率は毎年約一割、受験者が多い時は一割切るって聞いたけど、今年は例年より少ないのかな?」

「戦後間もないしな」


 戦争で多くの人間が命を落とした。

 そのせいで、少子化問題も多少なりとも勃発しているが、世界的に見れば総人口は数十億人もいる。

 その中のたったの千四百人程度、相対的に見れば少ないのも頷ける。


「このクレサント周辺は紛争地だったし、この世代の受験者が少ないのも納得できる。それでも千人以上いるのは凄いけどな」

「これもルグナー魔法学園の知名度の高さが成せる御業なのかな?」

「それだけ魔法を教わりたいって人間が多いんだろう。この学園は昔から人気があったらしいし、このクレサントは戦争の被害が及ばなかった国の一つ、しかも売り文句が『卒業生の何割かが魔法協会入りしている』だ。是が非でも子供をルグナーに通わせたいって親も結構いるんじゃないか?」

「成る程ね、じゃあジオも両親に言われて受験に来たって感じかな?」

「……似たようなもんだ」


 実際には両親に言われた訳ではない。

 目的は別にあるが、それを出会って数時間しか経ってない人間に話しはしない。

 秘密主義の彼にとって、自身に関与する必要以上の情報は話さない。


「お前はどうなんだ? ガルスクア家って確か、魔法より剣に生きる一族だったろ?」

「まぁね。爺ちゃんが魔法学園で学べ、って言ったから試験を受けに来たのさ。ここでしか学べないものもある、って言ってね。一族の総首領も務めてるし、爺ちゃんが示してくれた道だから」

「そうか」

「だからここで首席合格して、魔法を沢山学んで、一族に貢献するんだ」


 それぞれ学園に来た目的は異なる。

 ジオも、ギルベルトも、ここにはいないがルーテミシアも、全員が全員、何かしらの事情を抱えてルグナー魔法学園に集った。

 そして現在、二人は試験で佳境を迎えていた。

 間もなく一時間が経過する。

 試験は残り一時間、そこで二次試験は更に面白く、複雑と化す。


「さぁ、ここからが正念場だ」

「うん」


 二人の意気込みを他所に、時を刻む音が何処からともなく耳朶を打つ。

 チク、タク、チク、タク、秒針刻む音が反響して二人の耳にも届く。

 やがて全員に届いた秒針の音が大きく膨らんでいき、試験時間残り一時間を示すブザーが鳴り響いた。


『二次試験残り一時間だ。ここからは、カードを持った奴の頭上にカード所持数が表示されるよう、魔法が設定されている。また、カード所持者の位置情報は持ってない奴に逐一伝わるようになっている。探知したけりゃ【探査ディテクト】と唱えるだけで良い。では残り一時間、健闘を祈る』


 そのジャンの発言より、ジオとギルベルト二人の頭上にピコンとアイコンが出現した。

 ジオルスタス、カード所持数三十五枚。

 ギルベルト、カード所持数二十七枚。


「うわ……これ、消せないかな?」

「ま、できなくはないが、他の受験者に位置情報が送られるんなら無意味だろ。それに正直こっちの方がお引き寄せやすいし、都合良くないか?」


 互いに頭上の数字を見合ってギルベルトは落胆するが、一方でジオはチャンスだと考える。

 これで他の受験生をより引き寄せられる。

 設定魔法によって、魔法陣の命令式にプログラミングされており、更には探知魔法を組み込んで時間によって探知魔法が使えるようになっていた。


「【探査(ディテクト)】」


 そうジオが唱えるが、試験会場全体に仕込まれている魔法は発動せず、手元にマップが浮かばなかった。


「……ギルベルト、探査魔法使ってみてくれ」

「う、うん、【探査(ディテクト)】」


 するとギルベルトの体内魔力量が減り、手元にマップが出現した。

 入り組んだ迷宮に、沢山のアイコンが表示されている。

 そしてマップの中心には、ジオとギルベルトの位置情報が載っていた。


「へぇ、結構便利だな、それ」

「でも君が唱えても発動しなかったよね?」

「単に魔力量が少なすぎて発動しなかっただけだ。そこは気にするな」

「う、うん」


 これもハンデの一つ、設定された魔法を発動させる事ができないジオにとっては、ギルベルトが地図そのものの役割を果たす。

 しかし一人だったとしても、学園の用意した魔法は大して使わないだろう。

 何故なら、探知系統の魔法は今も使い続けているから。


「さて、カードに釣られてゾロゾロやって来たな、ギルベルト」

「そうだね。これは残り一時間、退屈しなさそうだ」


 魔法紙を、直剣を、二人は背中合わせに、通路の前後から来る敵衆に向けて構える。

 二人の口角は僅かに上がっていた。

 逆境に笑う二人を敵が歓迎し、未来の生徒達の熾烈な戦いが勃発した。






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