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INFINITY MAGIA  作者: 二月ノ三日月
第一章【IGNITION】
25/26

第24話 放課後のspecial lecture/属性編

「まず、魔力についての講義からだ」


 開始文句を、三人は唖然とした表情で互いの顔を窺う。

 それもそう、魔力についての講義は数時間前に行ったばかりだからだ。

 敢えて、その講義を始める理由が分からない。


「え、何で魔力から?」

「正確には体内の魔力について、ちゃんと理解してから訓練を始める。理解無き力は、ただの暴力だからな。これからお前達が学ぶ魔法の異質さを理解した上で、行使する覚悟を持ってもらいたい」


 理解せずに使えば、被害は大きくなる。

 魔法の暴力だ。

 対人戦等で使用した場合、最悪殺してしまう可能性も起こり得るからこそ、しっかり学び、その上で自分達の力が世間でどのような認識であるかを理解させる。

 それが講義の始まりだった。

 今回の講義は、学業に支障の出ない程度に抑えるつもりであるが、異なった説明によって一般授業と齟齬が生じるような事が起これば、今後の試験で不利になってしまう。

 だから、慎重に教えねばならない。


「最初は簡単な部分から行くか。一昨日の授業のお浚いから始めよう」


 講義に使用するために、壁際に置かれていた二本の棒を引っ張り出して、二つの棒を離して立てる。

 床と棒を魔法で接合して建て、間隔を空けた二つの棒両方に魔力を通していくと、棒同士に魔力が通って繋がり、あっという間に魔力黒板が完成した。

 魔力で形成されたスクリーンが、棒同士を繋いでいる。

 その画面に手を伸ばすニーナベルンだが、透過して触れられなかった。


「うわっ、これ凄いなぁ……これ、もしかして黒板の代わりなん?」

「あぁ、ここに文字や絵を描いて説明した方が分かりやすいからな。さて、この世界に存在する魔力について、三つ全部覚えてるな?」


 三人に質問する。

 基礎中の基礎、最も重要であり、定期試験も兼ねての第一歩を三人に意識させる。


「有属性魔力、だよね?」

「無属性魔力や」

「そして自然魔力、ですよね」


 まるで連携するように、三人連続して回答する。

 有属性、無属性、そして自然の三分類される魔力性質が、ジオの浮かせた特殊な羽根ペンによって描かれる。

 四つの浮遊したペンが、絵を描く。

 有属性魔力を中心に、自動手記のように一気に書き記される魔力黒板の説明を見て、続きを語る。


(本当は他にも、幾つか別の細分化された魔力が存在するんだが……そこは一年生の段階で説明する必要も無いな)


 余計に混乱させるべきでないと判断して、ジオはそのまま中央に描かれた有属性魔力について、詳しく説明する。

 今回の授業の肝は、そこにあった。


「全員正解だ。今回はギルベルトの言った、『有属性魔力』についての講義をしようと思う。他の魔力については、有属性魔力を学んでいるうちに、自然と必要になる知識だから、その都度説明しよう」

「無属性と自然魔力ってそんなに重要なん?」

「あぁ、魔力回復の側面でかなり重要視される。特にルー、お前の場合は回復魔法に焦点を当てると、非常に重要な魔力になるから、覚えておいてくれ」

「わ、分かりました」


 ゴクリ、と生唾を飲み込んで、少女はジオから学んだ未来の自分を想起する。

 数多くの人達を救う自分、助かる人達の笑顔を脳裏に浮かべて、モチベーションを高く持った。


「さてと、まず有属性魔力について、全員何処まで知ってるか聞かせてもらおう。んじゃ、まずはギルベルト、お前からだ」

「う、うん……一昨日の講義で君が言った、『魔力核』から生成される魔力全般を指す言葉で、そこには適性が存在してるって事くらいかな?」

「ルーは?」

「はい、彼と同程度の知識量しか持ち合わせていません。後は魔力における特異体質、『魔力特質レガリア』を持った人達がいる、という内容くらいでしょうか」

「ニーナは……無さそうだな」

「何でやねん!? ウチも説明できるし!!」


 彼女の知識量に関しては、入学試験の成績がジオの一つ上だったために、説明聞くのも無駄だと判断したが、説明できると少女は豪語する。

 本当なのかどうか、聞く体勢に入った。


「じゃあ、ニーナは何処まで知ってるんだ?」

「有属性魔力ってのはギル坊とルーちゃんが言った通り、属性持ってて、稀に特異体質持ってる人も含めた、体内の丹田から捻出される魔力を総称した言い方なんは学んだで知ってる。適性持っとらんと扱い辛くて、暴発の可能性も高くなる。それに体内魔力は環境にも多少影響及ぼすもんやって、小さい頃聞いたで?」

「……ハァ」


 聞くべきではなかった、そう溜め息が肺より零れてしまう。

 眉間に皺を寄せて、気持ちを切り替える。


「授業で覚えてた部分については、良しとしよう。ただし聞き齧った内容の方は迷信だ。忘れろ」

「え、そうなん?」

「適性外の魔法使用で暴発する確率は、適性魔法使用における暴発確率と大差ない。それは膨大な魔力を操作してミスった時に発生する現象で、ちゃんと魔力操作学ばないとミスするぞってだけ」


 魔法を発動するまでの過程として、難易度の高い魔法を詠唱する、前頭前野が詠唱によるイメージで魔法を構築、掌に魔法陣が出現、必要魔力を魔法陣へと注ぎ込む、最後に魔法現象が発生する。

 その過程の何処かで暴発が起こる。

 理由はイメージした内容の魔力量と、実際に使用される魔力量に齟齬が生じて、制御に失敗するから。

 魔力制御に難があるから。

 イメージが不完全だったから。

 考えられる暴発原因は幾通りか存在するが、魔力属性は暴発とは無関係である。


「それに体内魔力が外気温に影響を及ぼすという話も有り得ない。有属性魔力は謂わば属性を持った魔力、というだけで、例えば砂漠にいたとしても、水属性と火属性の魔力をそれぞれ保持した人達が感じる暑さは変わらない。熱中症になる時間帯も基本同じだ」

「……ご、ごめんなさい」

「別に怒ってる訳じゃないさ。これから学べば良い」


 そのために、ここにいるのだから。


「授業を先取りするようで教授達には悪いが、有属性魔力の本質を説明しておこう」


 今度は魔力黒板に、有属性魔力の基本形態図を描く。

 つまりは属性、その種類を記していく。

 火属性を真上に時計回りに、水、土、風、四つの属性がダイヤの形を模した。


「有属性魔力、別名『属性』について説明する。属性ってのは簡単に言えば、どの魔法系統を発動させるかの指針だ」

「つまり、火属性なら火の魔法を、水属性なら水の魔法を、だね?」

「簡単に言えば、な。黒板に描いた通り、大半の人間は四つの属性のうち、どれか一つを保持している。ギルベルトは火属性だったな」

「うん、他の属性はちょっとね……」


 それが普通、自然という概念を現象として放出したのが、基礎的な魔法である、と位置付けられている。

 火属性なら、火種を。

 水属性なら、水球を。

 この指針が世界における標準体系であり、概念の最も根幹を担うものだ。


「大事なのは、人間の有する属性の系統だ。これは魔力の波長遺伝が関係してる訳だが、固有魔法も波長遺伝の延長線上にあると認識してくれれば良い」

「じゃあ、ウチの能力もか?」

「それについては詳しく検査する必要があるから、その話は今は置いとこう」


 ニーナベルンの常時発動型魔法【万色鏡(カラースコープ)】は、まだ詳細を知らない状態だから、彼も迂闊に予想を口にできない。


「さて、属性の系統、これは幾つも存在する。属性って言っても一概に火、水、土、風、と元素のみで表現されるものではなく、魔力の資質にも影響している」

「それが、先程の授業の時に仰っていた、探査魔導師に差異が生じる要因、という訳ですね?」

「あぁ。そして、より洗練されて一点に特化した魔力適性を、魔法用語で『魔力特質レガリア』と呼ぶ」


 弛まぬ訓練によって得られる、魔力の偏在化。

 その特性を持つ人間は、魔法使い総人口の一割未満、数少ない人間に齎された一種の奇跡のようなもの。

 彼が説明に持っていきたい内容が、今ここに到来した。


「特質を話す前に、お浚いだ。魔力は何かしらの元素的属性を保有していて、人は魔力属性以外の属性的な魔法を扱うには大量の魔力を必要とする。そして魔力の鍛え方次第では、属性を偏らせる『偏在化』が発生する。今の段階では、それさえ覚えときゃ問題無いだろう」


 属性とは、謂わば自分がどの系統に位置しているか、それを指し示した言葉に過ぎない。

 だから火種を生み出せるなら、火属性だ、と呼称される。

 人間の体内で生成される魔力波属性を持ち、これは遺伝で継承される場合が多く、しかし例外も存在し、中には属性を変質させたり、強制的に矯正を加えて強引に変化させた者まで存在している。

 持っていない属性で魔法を発動させる場合、波長を変換する魔力分を加算して消費するため、より高度な魔法になると演算式に必須となる魔力量が自然と増加する。

 だから、魔法使いは自分の魔力に合った魔法を扱うのを得意とするのだ。

 ただしジオや、それを無視した魔法運用式を利用している者、更には体質で別の属性を扱える者や、他の学校には解析によって扱える猛者までいる。


「俺が説明したいのは、この『魔力特質(レガリア)』についてなんだ」

「そもそも、レガリアって何なんや?」

「授業が始まって間も無いし、授業的にはかなり後の話になるだろうが、まぁ良い」


 そう言いながらジオは、羽根ペンを駆使して魔力電子ボートに何かを書き込んでいた。

 人体の丹田にある魔力核から矢印を引き、その付近には角の多いレーダーチャートを書き込んだ。

 攻撃値、防御値、探知範囲、流動性、親和性、隠密性、圧縮率、吸収率、放出率、生成率、魔力量、回復速度、器用度、操作距離、数多くの項目が多角形として描かれていく。

 魔力の項目、人間の持てる限界点を角と線で囲う。


「これは魔力における性質検査項目だ。例えば俺の魔力が圧縮率に特化していたとしよう」


 レーダーチャートに、圧縮率の項目だけが突き抜けるよう、値を付けて点と点を線で結んでみる。

 歪にも、圧縮率の項目だけが突出していた。


「これが意味するのは何だと思う?」

「えっと、魔力を圧縮しやすいって意味だよね? だったら、魔力盾とか強そうだね」

「それだけか?」

「え、違うの?」


 ギルベルトが不思議そうに彼を見る。

 魔力を圧縮した盾で防御すれば、並大抵の魔法や物理攻撃を防ぐのは容易に可能であろうが、それは防御のみの話、攻撃に転じればどうなるか。

 彼の小さな思考の波に、大きな岩を落とす。


「魔法を放つ時、圧縮率が高いとどうなる?」

「そうだなぁ、例えば火属性魔法を放つとして、圧縮される訳だから……ま、まさか………」

「気付いたようだな」


 顔が強張るのを合図に、ジオに発言権が移る。

 他の二名が分かっていない、と言った顔をしていたため、ボードには二人の人物の絵が描き込まれる。

 四つの浮遊したペンが、フワフワと存在感を主張した。


「思ったんやけど、ジオ君絵、上手いなぁ……」

「そりゃどうも。二人の人間、片方は一般的な魔導師、もう片方は『圧縮』という偏在化を果たした魔導師、二人が同時に的に向かって火属性魔法【火球ファイアボール】を撃ち込んだと仮定しよう」


 するとどうなるか。

 魔法で、その絵を動かしていく。


「わっ、動いた!?」

「よく見てろ。二人が同時に火の玉を、遠距離にある……仮に十メートル先にしておこう、撃ち込むと……」


 二人の絵が一斉に魔法を唱えるよう口を動かし、白く描かれた火の絵が、球状形成されて射出された。

 二つの火の玉の速度は同じ、込められた魔力量も同じ。

 しかし的に当たった火種は、異なった結果を呼び寄せた。


「えっ!?」

「う、嘘やろ……」

「これが『圧縮』の偏在化、ですか」

「そうだ。見ての通りの結果になった。一般的な魔導師の放った火の玉は、的に当たって霧散した」


 しかし、魔力特質レガリア持ちの人物の放った魔法は、異なる結果となったのだ。

 的に穴が空いていた(・・・・・・・・・)

 圧縮によって殺傷性が上昇し、貫通力が増したため、そう彼は説明を加えた。


「圧縮によって、貫通力が増した。より鋭い弾丸となって、敵を襲うものだ。逆に防御した場合も同様、一般魔導師の防御壁と見比べてみろ」


 二人の絵が四人の方を見ながら、真正面に魔力の盾を準備していた。

 その形は一緒、なれども、違うのは強度ともう一つ。


「あ! 右の圧縮ん子の盾、小さいんとちゃうか!?」

「正解だ。圧縮するという事はつまり、周囲の魔力を一点に引き寄せる効果を持つから、デメリットは効果範囲の縮小になるんだ。けど、逆に殺傷性能と防御性能が上昇する。後天的修得の可能な一例だ」


 羽根ペン同士が協力して、空いたスペースに赤竜の顔と首元を描いた。

 その絵が動いて、二人の人間に向かってブレスを吐く。

 両名は盾を構えて、そのブレスを防ぐ。

 吐き終わった後、二人の様子が簡単に見て取れた。


「片方は両足火傷してるけど生きてる……もう片方は塵一つ残ってないんだね」

「魔力を込めた分だけ盾の強度は増すんだ。このように、竜のブレスにさえ対抗可能となる」


 横軸を強度、縦軸を盾の防御範囲とする。

 当然ながら、そのグラフ線は右肩下がりとなっていた。


「魔力があれば、仮に防御範囲が広がっても強度は変化せず、逆に強度がより強くなっても防御範囲は広いままだ。偏在化した圧縮魔力は、魔力を込めた分だけ強度は増すが、防御範囲は広がらない。逆に普通の魔力だと密度制限が掛かって、偏在化した圧縮盾くらい圧縮できない」


 それが反比例のグラフとなっていた。

 一点に特化する代わりに、代償として制限が掛かるというのが特異体質。

 それが『魔力特質(レガリア)』なのだ。


「じゃあ、前に生徒会長が言ってた『暗号式』、『属性変換』、『十角位』、それから『魔術殺し』、この四つは全部体質なのかな?」

「良い着眼点だ。けど、その中で特異体質を持ってるのは二つ、『属性変換』と『魔術殺し』だけだ。まぁ、それも置いておこうか。その二つは三人とは相性が合わないだろうし」


 だから、話を続けていく。


「今ので理解できたと思うが、項目や項目外の突出した魔力体質によって、圧縮のように魔法にもかなりの影響が出る。以上が『魔力特質(レガリア)』の説明になる」

「り、理解できたけど、凄いなぁ……ウチも『圧縮』とやらにするには、どうすればえぇんや?」

「ニーナの場合、あまりお勧めはしないでおく。仮に鍛えて、圧縮に偏在化した場合、常時発動してる魔法にも影響して、見たくないもんまで見ちまう可能性がある」

「ほ、ほな、止めとくわ……」


 期待が一気に滑落したが、そんな彼女の内心を気にせず、ジオは説明を続けた。

 何故今この段階で、特質的魔力の説明をしたのか。


「レガリアは、謂わば一点特化型の魔力だ。この説明をした理由は、一般的な魔導師よりも貴重で、戦力的にも申し分ない能力になるからだ」

「そうなの?」

「あぁ、だから……」


 講義開始前より壁から手に取ってテーブルに設置していた羊皮紙の、その豪奢な紐を解いて、一つの魔法陣が全員の眼前に晒された。

 古代文字の刻まれた、複雑怪奇な魔法陣。

 中央の六芒星と、その周囲に書き記された円形魔法陣と、円線に沿って記された古代文字ルーンが、その特殊な魔法を構成している。

 これが何なのか、三人は解答を求めるように、ジオの顔色を窺った。


「これは、俺が作った『魔力性質検査用波長解析星芒陣』だ。ここに手を当てて魔力を流すと、その人物の体内魔力を解析して、どの系統に位置しているかを詳細に検査してくれる優れ物だ。三人には最初に、この魔法陣を使って適性を調べさせてもらう。上手くすると、ニーナの問題も解決できるかもしれん」

「ホンマか!?」

「あぁ、早速試してみよう。ギルベルト、頼む」

「う、うん……分かった」


 一番乗りに指名したのは、剣士ギルベルトである。

 特殊な魔法陣を作り出したジオの手腕が、今問われる。

 ゴクリと生唾を飲み込んで、緊張しながらも彼は一つの魔法陣へと、手を翳した。

 生成された魔力を流し込んでいく。

 静かに流れていく魔力の解析を始め、魔法陣そのものが輝きを放ち始めた。


「うわっ!?」

「手を離すなよ。離したら、測定し直す必要が出てくる」


 魔法解析には時間が掛かる。

 しかしジオは、テーブル端に置かれた一台の魔導式ノートパソコンを操作して、ギルベルトの詳細に解析している魔力の内容を目にする。


「よし、来たな」


 文明の発達によって、時代は魔導産業へと進歩を果たした。

 その一つが、この魔導式ノートパソコン。

 ここに詰まっている情報に、ギルベルトの魔力生体情報がデータとして送り込まれた。

 それを四人で見てみる。


「へぇ、面白いね、これが僕の魔力かぁ」

「どうやら放出率と器用度の二つが他より高いらしい。が、逆に遠隔操作は苦手なようだな」

「これは何かの特質なんですか?」

「いや、この蜘蛛の巣表は、指針を示してる。ギルベルトの場合、伸びやすいのが放出率と器用度って項目、逆に遠隔での魔法発動はどんなに練習しても、並以上にはならないってデータが示した」

「じゃあ、ギル坊がこの二項目を伸ばしたら、どうなるん?」

「簡単に言えば、『供与』って魔力特質レガリアに目覚めやすいって話だが、修練に最低でも数年は掛かる」


 これが結果、ギルベルトの才能が示された。

 ここから、ジオは剣聖の孫の訓練メニューを想起して、その前に残る二人の検査を先に済ませる。


「ギルベルトの訓練は後で考えるとして、ルー、ニーナ、どっちからする?」

「私は後で構いません。ニーナちゃん、お先にどうぞ」

「分かった、ほな先に解析お願いするわ!」

「了解。んじゃあ、手を翳して魔力を流してくれ」


 そうして、次はニーナベルンの魔力について、魔法陣が解析を始めた。

 どうなるか、期待と緊張に胸躍らせながら、少女は重たい魔力をゆっくりと流していく。


「よし、もう良いぞ」

「プハッ! か、かなり難しいなぁ……やっぱ、ウチ魔力操作下手くそやわ」

「安心しろ、その部分も含めて教えてやるから」

「期待してるで!」

「任せろ……っと、出たみたいだな」


 表と彼女の魔力が示される。

 授業の時は、水晶玉に現れた光は『白』、無属性魔力を内包する彼女の性質がどうなのか、今データというハッキリした回答に示唆された。

 レーダーチャートには、突出した才能は無かった。

 流動性に少し難あり、というだけで、特段変わった部分は見受けられない。

 しかし、データをスクロールして下の注意書きへと移ると、そこには彼女が何故両目に魔法が常時発動していたのか、その答えが載っていた。


「生体的特異体質、通称『魔眼』を開眼しており、視神経の一部に魔力神経回路滞留症状を発症している、か」

「ど、どういう事なん?」

「つまりニーナ、お前は……」


 言い淀んだジオは、それでも言うべきと判断して、少女に真実を教える。


「目に関する一種の病気だ」

「……は?」

「多分だが、先天的なものだったんだろう。目元にある魔力回路、視神経部位に存在している経路を魔力が上手く流れずに、目元で魔力が常時溜まってる状態なんだ」

「ゴメン、何言うてるか分からんわ……」

「簡単に言えば、お前は開眼者(イービル)だ。溜まった魔力は放置しとくと破裂するが、出口として目元から外へ放出され続けた。無意識的に常時外に魔力を放出し、それが属性と組み合わさって『魔眼』になったんだろう」

「じゃあ、ウチの魔力は……」

「精神系統、つまり珍しい闇属性だな。その闇属性魔力を放出し続け、かつお前が周囲の人間を観察し続けた結果、そうなったと俺は予想する」


 だから彼女は魔眼の持ち主で、かつ、闇系統の魔法を操れる特殊な魔法使いとなる。


「知り合いに名医がいてな、その人のとこで世話になった時に病気について色々教わった。そう言や、確か似た症状の魔法使いが何人か患者として来てたな……多分、ニーナも同系統の病気だろう」

「そ、その病気って?」

「病名は『先天性魔力瘤圧迫症/イービルStage.2(ステージツー)』だ」

「す、すてーじ、つー?」

「魔眼の持ち主は総称して、『開眼者(イービル)』って呼ばれるんだが、『眼』というのは魔法使いにとって重要な要素を持ってるものだ。イービル、つまり悪魔の眼、それが魔眼の持ち主を表す」


 開眼した者達は、こう言われている。

 それは、一人の魔法医の格言として後世に伝えられた、一種の予兆のようなもの。






 ――瞳に宿すのは魔法の力ではなく、悪魔に魅入られた証、それは世の摂理を崩し、魔法を否定する。






 だから悪魔の眼、『イービル』となった。

 実際に魔法を消滅させる能力だったり、魔法では不可能な事象を可能にする能力だったり、魔眼だからこその能力を有する者達も結構数いる。

 だから、魔法という存在の否定に繋がる。

 とある国では、魔法は神から授けられた物、という伝承があったりする。

 神聖視される魔法使い達、だから魔法を根底から否定する魔眼使い達は、悪魔に魅入られた、と表現したりもする。


「んで、魔眼にも種類とステージが存在する。種類は結構あるから今は説明を省くが、ステージは幾つかある。無開眼の第零段階、軽度/第一段階〜重度/第五段階まで、計六段階で評価されている訳だ」

「じゃあ、ウチのStage.2ってのは?」

「第一段階で軽度な魔眼使用、魔力の流れが見えたりする。第二段階で固有の魔眼能力の発現、ニーナの場合は相手の心を読めるって部分だ」

「へぇ、じゃあその次は?」

「第三段階、これも固有の魔眼能力の発現で間違いない。ただし、第二段階では制御不可能状態、第三段階では制御可能段階を表記したものだ。つまり、自在に操れない現時点では第二段階に位置してるって寸法だな。ま、病気とは言ったものの、使い熟せれば強力な武器になるのは間違いないから、気負う必要はない」


 十数年間苦しめられ続けた魔法を、使い熟すという思考へと持っていけた。

 これは少女にとっては希望である。

 魔眼を上手く活用できるなら、どれ程有り難いのか。

 今も少女の視界には、青年達の感情が漏れているが、ジオの肉体からは裏切りの色は出なかった。

 これで魔眼についての説明は終了。

 そして、気になっている自分の属性について、少女は冷めやらぬ興奮が後押しして、質問という形で口元から飛び出してしまった。


「因みに、闇属性ってどんな事できるん?」

「そうだな……弱体化デバフに妨害、五感奪取とか能力制限、魔力吸収とか精神汚染、後は死霊術とか召喚術も可能だな。主に相手の能力を阻害する感じだ」

「何や地味な魔法やな……」

「そう言うな、光属性と同様にかなり希少で有用だ。それに召喚術と魔力吸収はかなりエグい」


 言いながらも、少女の区分を見ていく。

 特化した才能の片鱗を掴ませないが、訓練次第ではかなりの使い手になるだろう。

 それでも魔眼を発動不発動状態の切り替えができるよう、治療する必要はあるが。


「さて、最後は――」

「はい、もうやってますよ」

「行動早いな……」


 ニーナベルンが魔法について説明を受けている間、すでに魔法陣へと手を翳し、魔力を流し込んでいた。

 すでに光属性と風属性の二種類と判明している。

 だが、属性のみならず、何処が得意で何処が不得意かを検査する上で必要な行為だからこそ、彼女も素直に魔力検査に応じて魔力波長の解析を実行した。

 自分の力がどの程度なのか、どういった才能を持つのか、自分でも気になっていたから、彼女は魔力を流し続ける。

 やがて魔法陣の光が消え、ルーテミシアという少女の魔力性質が発覚する。


「これ、凄いね」

「ホンマや……ルーちゃんの表、何や二つ突き抜けてるなぁ。この『親和性』と『吸収率』の二つが際立ってるけど、魔力量も普通より高いし、回復速度も少し高い。これって、何かの魔力特質レガリアなんか?」

「そうだな……こりゃ、一種の才能だ」


 戦慄を覚える程に、少女は恵まれて生まれてきた。

 親和性の高さ、吸収率の高さ、準じて魔力量と回復速度の高さが、彼女の潜在能力を誇示している。


「生徒会長が、お前を『親和性』が高いって評したのも納得だな。魔力との親和性に富んでるようだ。しかも光属性の方に傾向があるらしい」

「えっと、私自身理解できてないんですけど……」

「簡単に説明すると、『親和性』っていう一つの体質がある。ルーの属性は風と光だが、光属性に傾倒してるから、例えば傷を負ったりした場合、即座に自己修復が働いて傷が自動的に完治する。違うか?」

「ッ……は、はい………そう……です、ね」


 何故か急にしどろもどろになった彼女だが、ジオは目線を再度レーダーチャートに移して、潜在能力を確認する。

 彼女も流動性に多少難あり。

 それ以外は基本的には才能の有無が明確となり、指導方針が定まっていく。


「とにかく、全員の魔力適性と潜在能力値、それから訓練メニューがハッキリした。現段階では三人共、多くの魔法を発動するだけの魔力量が少ないから、できる訓練メニューは基礎体力作りと魔力操作が主軸になる。魔法の手数を増やす急拵えの方法よりかは確実だな」

「えぇ? もっとこう、ドッカーン! って派手な訓練とかは無いん?」

「無い、地味なのが一番だ。魔力操作と魔力量増強訓練なら、座ったままでもできるしな」


 ならば、今は基礎を固めるべきと判断する。

 納得するもしないも彼等次第となるが、ここで駄々を捏ねたとて、ジオがまともに取り合うとは思えない。

 彼の言う通り、基礎から始めるべきだ。

 強くなるために近道は存在しないから、それを三人は分かっているからこそ、自分達の能力値についてや得意不得意分野を理解しておく。

 横に置いてある印刷機(プリンター)で、白黒の結果表を三枚刷って、それを各個人毎に手渡す。


「ねぇジオ」

「ん?」

「君の潜在能力値は?」

「……まさか、測れって言いたいのか?」

「そうそう」


 唐突に気付く、ジオの実力を見る機会。

 ギルベルトの提案は、本来であれば聞く耳を持つ必要すら無いものだが、彼は潔く席を立ち、計測の魔法陣へと手を翳して魔力を送る。


「お、ジオ君のかいな。気になるなぁ」

「確かに……」


 魔力を注いでいく彼だが、その行動は突如終了を迎える。

 何故なら、パソコンのモニターから警告音のような、奇怪な音が鳴り響いたから。

 同時に魔法陣の機能も停止してしまった。

 測定不能(エラー)、そうモニターに表示されて、測定不能表示を消去して、パソコンを閉じる。


「え、エラー?」

「俺の魔力が少ないせいだな。一定基準以上の魔力量が無いと、正確には測定できないんだよ」

「そ、そうなんですね……」


 現段階で詳細測定できないから、彼自身何度も試行錯誤を繰り返して、自分の魔力性質を理解している。

 が、それを他人に教えたりしない。

 特質は利点はあれども、欠点も存在するから。


「まぁとにかく、魔法使いにとっての生命線たる魔力の増強からだな。隣に地下修練室を建築してあるから、そこで基本的な訓練方法について、幾つか伝授してやろう」

「え? 単純に限界まで魔法を使って、体内の魔力を空にするんじゃないの?」

「その方法は意外にも非効率的だからな。もっと効果的な方法を教えてやるよ、ギルベルト」


 不敵に嗤うジオの顔は悪魔のように恐ろしく、三人は生唾を飲み込んで、彼の背中を追い掛ける。

 暖炉の横に設置した扉を横にスライドさせて、修練室へと入室を果たす。

 これから三人はジオの指導の下、力を伸ばす。

 魔法使いとして、将来の糧になるように、正しい知識を与えられる。

 入室した大きな地下訓練室で、四人は実戦に臨む。

 超先進的な魔導科学技術によってホログラムや環境変化、魔法による戦闘プログラム等が可能となり、多機能が搭載された一室は学園の設備の何十倍も価値がある。

 豪華で非常に便利な設備を利用できる三人は、まさに幸運と言えるだろう。

 この場所の秘匿を義務付けて、ジオは三人の指導に回る。

 魔力操作、魔力増強訓練、魔法を駆使した体術による魔闘術、射撃訓練、サバイバル、多種多様に使える設備。

 勿論、無人島サバイバル演習の内容を想定して、この施設の環境設定を変化させる、というのも可能。


「よし、じゃあ早速、実戦訓練を始めよう」


 絶やす笑顔は友人に向けるもの、しかし何故かこの時三人には、ジオの顔に陰りが映っているように見えた。

 そして数時間後には、自分達が地面に突っ伏して気絶しているという事実を、この時の彼等はまだ知らない……






 本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。

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