第23話 放課後のspecial lecture/魔力編
授業開始より二日が経ち、現在DクラスはCクラスと一緒に午後の魔法実技の授業に参加していた。
監督するのはビドーレスである。
今日の授業は、体内魔力を感じるところから。
魔法をただ扱うのは生徒達にはできる。
しかし詠唱によって発動できてしまう魔法が、本来の魔法である訳ではなく、魔法発動の段階として魔力操作の技術は必要である。
そのための講義だった。
「今日は『魔力』について勉強しましょう。魔力とは、大気や体内に存在する万物エネルギー、今回は実践訓練として魔力の感知、操作、そして放出を行います」
詠唱によって魔法は展開される。
それは誰もが周知している事実であり、魔法の詠唱だけで全てが決まる訳ではないが、案外魔法訓練で詠唱文を覚えて魔法を発動させるのが正しいと思う人間が多い。
魔力操作は、ただの無価値な技術に過ぎない。
何の意味も為さない、子供達はそう教えられる。
そもそもとして、魔法の本質をしっかりと理解していない子供が喧嘩や暴力、或いは悪事を働くために魔法を駆使するという、魔法の乱用を防ぐ意味も含めて、授業や児童教育には組み込まれていない。
十六歳となった彼等生徒だからこそ、『魔力制御』に意味が込められる。
魔力操作が必要な理由は、主に三つあると教育される。
この段階でジオ達生徒は、まだ魔力操作の基礎的な重要性について無知であるが故に、ビドーレスは眼鏡をクイッと押し上げて三名の生徒を指名する。
「まず、魔力操作が必要な理由は何でしょうか? それぞれ一つずつ、答えてもらいましょうか……ではまず、そこの貴方から」
「はい、一年Cクラス、ザック=ノーグランデです。一つは魔力が暴発するのを防ぐためです」
そう、明るい黄色い髪を掻きながら、少年が回答する。
陽気な性格で、ギルベルトとも即座に仲良くなれた、一人の魔法使い見習い。
自信満々な様子であり、それを良く思っていない複数の貴族生徒達が少年を睨んでいるが、それに気付いているのか、それとも気付いていないのか、特段気にした風には見えない。
小柄な彼が答えたのは、魔力暴発の阻止について。
「では次は……そこの茶髪の貴方、お願いします」
「はい、私は同じくCクラス、コーレル=ニュラ=クルシュネルカ、と申します。魔力操作が必要な二つ目の理由は魔法の威力、もしくは魔法の規模の増大を誘発させるためだと考えます」
和かに、それでいて淑女らしく回答する少女は、茶色くウェーブ掛かった髪を揺らしていた。
笑顔を絶やさず、周囲の生徒達も彼女に心を緩める。
所作一つ取っても優美、貴族令嬢の品格が滲み出て、それが生徒達に近寄り難い高嶺の花を連想させる。
手の届かない少女、その彼女が答えたのは、魔法の威力・規模の増大について。
「はい、では三つ目を……そこの黒髪の貴方」
「……一年Dクラス、ジオルスタス。三つ目の理由は、魔法発動時の不必要な魔力をできるだけ消費しないようにするため。つまり、無駄な魔力消耗の削減です」
最後に当てられたのは、手も挙げていないジオルスタス本人だった。
理由としては、挙手する人がいなくなったから。
魔力操作技術について、大体は二つに絞られる。
それがジオの前に挙手で明らかになった、魔力暴発の阻止と、威力規模の増大、である。
だから魔力操作について、補足説明要員のような立ち位置になっているジオが、付け足して最後の回答を用立ててビドーレスへと返答した。
不満を感じてはいる。
三つ目の理由を知っている人間が、彼の他にもいるとジオ自身理解しているから。
だが、貴族の標的になりたくないのか、回答を拒否する理由も兼ねて挙手を下げる。
「全員正解です。魔力操作が身に付いている人の魔法は、そうでない人の魔法よりも練度が遥かに高い。また、魔力操作の熟練度が低いと魔法の暴発、自らに危険が及ぶ可能性もあります。だからこそ、魔力操作は必須技能なのです」
その説明だと、理由は二つのみ。
ジオの答えたものが説明に加わっていないから、気付いた生徒達も困惑な表情を晒す。
「最後三つ目の項目については、魔法発動時や魔力操作での身体強化に必要な素養になりますが、魔法戦闘では如何に魔力を消費しないか、どの魔法を使うかで決まります。そのためには魔力操作を極めて、不必要分の魔力を削減し、それを他の魔法に使用すれば、魔法戦闘の幅がより大きく広がります」
三つ目の効果は意外にも重要である。
戦闘において魔力は、魔導師にとって生存確率を上げるための生命線に他ならず、魔力が尽きないよう、魔法をより多く強く発動させるために魔力運用は必要技能であり、だからこそ一年生の時点で魔力操作を習う。
一つ、魔力が暴発するのを防ぐため。
二つ、魔法の威力や規模を大きくするため。
三つ、発動時に不必要な魔力放出を止めるため。
自然と魔力操作ができるようになれば、自ずと魔力制御で暴発を防げるし、低級魔法でも強くなるし、無駄な魔力使用を減らせる効果がある。
魔力操作の重要性基本三要素、暴発防止、威力増大、魔力削減、教科書にも書いてある内容だったりする。
「魔力は『核』と呼ばれる場所から生成されます。これを通称『魔力核』と呼称します。丹田辺りに存在する核に意識を集中させると……」
すると、ビドーレスの丹田付近が青白く渦を描くように輝き始めた。
それは生徒達にも見えるもので、澄んだ綺麗な色合いをしている。
「今はこうして魔力を可視化させましたが、丹田に存在する核から魔力を捻出して、魔法使いはより強大な魔法を発動させるのです」
魔力の動きが活性化し、丹田から捻出された魔力がどんどん掌に集まっていく。
自動で循環する魔力とは別に、教官が操っている魔力が掌へと収斂されていき、魔力操作から次の段階へとステップアップする。
右手を前に、構える。
手を翳し、彼は掌に集った魔力を塊として、その先にある的の魔導具へと射出した。
「ハッ!!」
熟練度の高い魔力操作技術を垣間見た生徒達は、魔力弾の行く末を見届ける。
一直線に飛んでいった魔力の塊が、的に命中する。
すると的に弾かれるようにして破裂、消滅、或いは空中分解という形容が正確なのか、全員の視界より空気へと溶けていってしまった。
要するに可視化するための形状維持が不完全となり、消えてしまったのだ。
が、ビドーレスの魔力は、まだ空気中に残滓として霧散している。
「これが魔力操作による、生成、操作、放出の一連の流れです。まずは丹田に存在する『魔力核』の知覚から始めましょうか。感知できた人は魔力を操作して、身体のあらゆる場所にも魔力を集中させられるように動かしてみましょう。それができたら、最後に線の前に立って僕のように、魔力の塊を的目掛けて撃ってみましょう。さぁ、練習を開始してください」
生徒達は自然と小規模な集まりができたり、もしくは一人で集中して一定の間隔に広がり、魔力操作を開始する。
最初は、丹田に存在する魔力を知覚する段階から。
ビドーレスの教えは間違ってはいない。
そうジオは考えるも、完璧に正しいとも限らない、そう自身の内在へと意識を向ける。
「……」
腹部へと意識を集中させると、自分の極小の魔力核へと辿り着く。
これで、ジオの魔力知覚は完了した。
次に操作、焼き切れた回路でも魔力操作自体は可能であるため、適当に弄っていくが、操作中は切れた場所から魔力が漏れ出ていく。
全力で放出すると、すぐに魔力が空となってしまうため、その段階にまではまだ踏み込まない。
自分の肉体が限界値を超しているのは、理解済み。
受け入れ難い現実を甘んじて享受し、不便な魔力回路を持つ彼は、内部の更に奥へと突き進もうとしたが、その直前に隣から誰かに揺すられる。
「なぁなぁ、ジオ君……ウチ、全然知覚できへんのやけど、何やコツとかあらへんの?」
知覚しようにも、その知覚方法が分からない。
机間巡視に向かっているビドーレスが、ジオ達の下へ来るのは幾分か先。
だから自分の魔力制御を止め、指導に回る。
「ニーナは魔力操作できるか?」
「いんや……今まで教えてくれる人おらへんだし、全部独学やったなぁ。そもそも魔力操作が必要やって思ってなかったし、魔法の詠唱文の暗記ばっかやったで」
「分かった、なら俺が教えてやる」
魔力操作の知覚方法は、複数種類が存在する。
自分で知覚する方法の場合、薬物によって魔力を刺激する方法や、ひたすらに魔法を連発する方法、枯渇した状態から回復措置を受ける方法、等々が列挙される。
一方で補助要員を含めた知覚方法としては、魔導具を利用した方法や、第二者による魔力刺激、その二つが主な知覚方法となっている。
だが、第二者による魔力刺激は下手な人間が行うと、第一者たる人物の魔力回路に過負荷が掛かり、下手をすると魔法を一生使えなくなる。
ジオは魔力操作が境地にまで達しているため、安全性の面において心配ない。
「今から俺がニーナの丹田に刺激を与えて、強制的に魔力を動かす。そこから感じ取ってみろ」
右手で少女の腹へと触れ、僅かな魔力で少女の魔力核へと刺激を与えた。
下手に強く刺激するのではなく、知覚できるレベルにまで下げているため、ニーナベルンでも簡単に丹田にある魔力を感じ取れた。
生暖かい感触が、腹の中にある。
最初はジオが補助しているため、勝手に動く魔力にゾワゾワとした気持ち悪さを身に覚えるが、次第に知覚した場所から自分で操作するよう意識を集中させる。
呼吸を深く保ち、魔力操作に注力する。
グググッと重たい何かを引き摺るような抵抗感を覚えながら、彼女は諦めずに動かしていく。
次第に補助輪の役割を終えたジオは、手を離して少女の魔力操作の経過を確認する。
「む、ムッチャ難いな、これ」
「才能に対して個人差はあるが、慣れるまで反復練習すればニーナでも、自然と魔力を操れるようになる」
魔力操作に対する才能には、確実に個人差ができる。
魔力回路の問題ではあるが、並びや経路の太さ、神経系との感覚の掴み、色々と才能の要因で如実に差が出てくるものだが、体質的な変化を持たないニーナベルンの魔力操作を見たジオは、そう語った。
しかし非常に重たい荷物でも引き摺るような、そんな表情を繕っている。
「け、けど……お、重たいなぁ」
「慣れだ慣れ、初めての感覚を掴んで何度も操作してるうちに、その重圧感は無くなる」
「ジオ君はえぇの? さっきから何もしとらんようやけど?」
「魔力操作くらいできる」
人差し指を立てて、そこに体内魔力を収斂させていく。
小さな球体が生まれ、それが小さいながらに連続して回転している。
しかも流動的で、無駄が見られなかった。
極芸の域に達した魔力操作ならば、そういった芸当も簡単に行えるから、ジオは魔力操作で球体を生み出し、それを維持していた。
ジオの普通の魔力量では、維持は不可能である。
にも関わらず、何故か維持できている。
「そ、それも不思議な魔力性質が関係しとるん?」
「さぁ、どうだろうな」
巧妙に自分の生体を隠すジオは、収束させた弾丸を見向きもせずに、右手側の的に向かって射出する。
他の生徒達の間を抜けて飛んでいった魔力弾は、寸分違わずに、的の円盤中央に着弾して消滅した。
「再三言ってるが、俺の魔力量は少なすぎる弊害のせいで威力は出ない。だから、あの的を破壊するのは勿論、教官のような魔力弾すら撃てない。それに次撃ったら確実に倒れる」
一直線に射出された恐るべき精度は、ビドーレスでさえも不可能な程の操作技術で、放出する場所のスタンドラインよりも何メートルも離れた場所から正確無比な一撃を放ったのは、彼のみだった。
他にも真似ようとする者もいるが、そもそも命中率が悪いために恥を掻くだけ。
対抗意識を燃やす貴族男子達の何名かは、ラインよりも遠い場所で射出する。
その殆どが、途中で霧散する。
それか変な方向に曲がる。
しかし命中した者もいるが、残念ながら中央ではなく的の端っこだった。
「ジオに対抗意識でも燃やしてるのか、さっきから彼がずっと君を見つめてるよ?」
「あ? あぁ、あの貴族の坊ちゃんか。放っとけ」
フレストリッドがジオの魔力操作技術に嫉妬して、下民ができるなら自分も、と言ったように早速自分も知覚、操作からの放出を実行する。
生まれし魔力の弾丸を、ジオと同じ距離から撃った。
スピードもパワーも申し分無いが、命中精度に問題が生じていた。
途中でブレて、当たったのが円盤的の右斜め上、ジオとは雲泥差となった。
「貴族達からしたら、下民の君に存在を否定されてるようなものだからね」
「存在を? 別に否定してないが?」
「魔法教育を受けてきた自分達エリートより、何の教養も持ってない下民の方が魔法が使えるとなれば、貴族連中が憤るのも当然だね。努力や才能が無駄だって思えるし」
「……そういうものか?」
「君はもっと自分の才能を自覚すべきだよ」
ギルベルトは、ジオの魔法に関する才能全般を認めながらも、負けじと自分の魔力核へと干渉して流動的な操作を三人に見せ、掌に魔力の球体を生成する。
簡単そうに見えて奥の深い操作技術、ジオと同じ距離から撃ってみせる。
フレストリッドよりも正確に、ギルベルトの球体は的の中心に命中した。
「どうだい? 僕も中々やるだろ?」
「そうだな……流石だよ、次期剣聖」
「次期、かどうかは分かんないけどね。決めるのは総首領である爺ちゃんだし」
剣聖の称号を得られるかどうか、今後の学生生活次第で変動するのは目に見えている。
だから一歩でも高みに登るためにも、ジオという存在は避けては通れぬ大きな壁として存在している。
ギルベルトもまた、貴族生徒達同様に、ジオに感化されている生徒の一人だった。
(他にも何人か、有能そうな奴がいるな……)
今回の新一年生達は豊作の月、何人もの能力的に優秀な人材が一年生という枠組みの中に集まっている。
特殊な魔法性質を持つ者や、趣味や方向性的な才能。
そして努力してきた者、伸び代がある者、原石だらけだと彼は観察を通して、そう感じた。
「そう言えばさ、昼前までいたはずの狂犬君、何処行ったんだい?」
魔力制御をしながら、ギルベルトは真っ赤な瞳を周囲へと向けて、一人の男子生徒を探す。
いないと理解するや否や、ニーナベルンへと質問した。
「狂犬って、アレス君の事かいな? さぁ、どっかその辺の木の上で寝とるんちゃう?」
この場にアレストーリはおらず、授業開始三日目であるにも関わらず、すでに教師陣に見切りを付けて現在学園の何処かで昼寝を貪っている。
授業に出ずに、何処かに行ってしまった。
昼前まで、つまり午前中の授業ではアレストーリも参加していたが、気付いたら行方不明。
戦闘的な才能で言えばアレストーリは、ジオの観察圏内において一番の能力を有している、一番の魔法的な才能を持っていると考える。
磨き上げた技術もそう。
しかし、技術がどうこうという次元ではない。
それは、アレストーリの体質。
ジオが見た彼の特性は『灰』、極めて珍しい特異体質であると認識が及び、魔力の性質的に見て、この在学している全校生徒を含めても類を見ない強さだと、ジオの中で直感が騒いでいた。
ギルベルトは、全くの無関係のはずのニーナベルンへと質問した。
「けどギル坊……何でウチに聞くんや?」
一方で、何故ギルベルトが自分にそんな質問を繰り出すのかに、疑問が湧いていた。
自分に聞いても無関係だ。
その真意を問う表情に、彼は回答する。
「だって君達、互いに愛称で呼んでるし、知り合いだったのかなぁって思ったんだけど、違うの?」
アレストーリは彼女を『ニーナ』、と。
ニーナベルンは彼を『アレス君』、と。
互いに略称を以って呼び合っているから、もしかして学園生活以前の知人関係にあったのかと勘繰った。
「あぁ、そういう事かいな。ちゃうちゃう、合格後の話なんやけどな。合格してから結構早めに入寮したんやけど、もうすでにアレス君寮におってん。ある日の話なんやけど、木陰で眠っとったアレス君見て、何や不思議な人や思うて、声掛けたんが始まりやね」
「よく声掛ける気になったね……」
「ウチの【万色鏡】は人の善悪も把握できんねん。で、不思議な色しとったから、興味本位で声掛けたんよ。それから何回か交流あって、互いに勝手に略して呼んでるだけや」
「何色だったんだ?」
「……内緒、アレス君から聞いて」
ジオの質問に、少女は黙認した。
色々と見えてしまうから、本人から聞いてくれ、と返答だけした。
彼女が見た、見えてはならない色。
彼女だからこそ抱えてしまう悩みを吐露できずに、胸の内側に仕舞い込む。
「授業をサボるのは、まぁ理解できる」
「できちゃうんだ……」
「しかし惰眠を貪るというのは、著しく時間を無駄にしているんじゃないか?」
ジオからすれば、その時間を魔法研究に割り当てれば良いものを、と考える。
が、アレストーリは授業を出席せずに休んでいる。
その理由が昼寝、何のために入学したのかが分からないと言いたげな行動理念に、彼は苦言を呈する。
「別に昼寝も悪いとは言わないが、あのままだと折角の才能が無駄になる」
「才能って、アレス君のかいな? じゃあやっぱり、喧嘩の才能とかなん?」
「喧嘩なんてショボい才能より断然上位互換だ。戦闘技能において、他の追随を許さないのは一目見て分かった。動き全体がそう造られてたし、魔法戦闘においても学園に在籍する教師の殆どより格上だ」
「……そんなになんですか?」
「断言できる」
「へぇ、彼に魔法的な才能があったなんてね。もしかして肉体強化系とかかい?」
「それも間違ってはいないな」
アレストーリは、魔法実践の授業には参加していない。
加えて属性が判明するような場であろうとも、そこに手を触れずに何もしない。
だからジオを除いた全員が、彼の魔法属性や性質、得意な魔法から苦手なものまで、自己紹介すらしていないせいで何も知らないに等しい。
唯一、魔法について造詣の深い彼だけが、アレストーリという魔法使いの能力を見抜いていた。
「ギルベルト、魔法使いの才能は何で区別されると思う?」
「え? いきなりだね……う〜ん、僕個人の意見だけどさ、魔法使いって謂わば魔法という事象をどれだけ上手く扱えるかでしょ? だから魔力量と、それに付随する魔力操作技術、かなぁ?」
「それだと、練習する分だけ成長するから、才能の有無は無関係じゃないか?」
「あ、そっか……じゃあジオはどう思ってるのさ?」
魔法に精通する彼の回答に、三人は耳を傾けた。
「俺は人間の備えている『魔力』そのものが、魔法使いの才能に関与してると思う」
「……どういうこっちゃ?」
「魔力操作は修練を積めば、どんなに下手な奴でも上達する。だが魔法の本質である魔力性質や属性によっては、使えない魔法も当然だが出てくる。例えばギルベルトは火属性、相性の悪い他属性は基礎でも扱うのは非常に困難だ。そこは適性的な才能が関係してくる」
「つまりジオは魔力に込められた『属性』こそが、魔法使いの才能って言いたいんだね?」
「いや、単に属性って言っても、幾つもの種類がある。ギルベルトのように付与に特化した性質、或いは防御や攻撃能力に秀でた才覚、個々人で異なって魔力核が形成されてるし、そこは最早才能の世界だ」
魔法によって生まれる僅かな変化、何処まで自分を高められるかによるが、才能を自覚した上で修練を積まねば効果は半減するだろう。
ジオの語る才能は、魔力そのもの。
魔力全般を指し示す言葉であり、そこに差が出てくる。
「風なら探知や斬撃の鋭利さ、防御や規模、操作量に魔力の練度まで、今言葉にした以上の種類の才能に分かれる。だから探査魔導師とかにも差異が発生する」
「そうなんですね……じゃあ、この講義で行ってる魔力操作には、本当に才能とかは関係無いんですか?」
「あまり無いってのが俺の見解だ。人によって異なるから、まぁ多少の個人差はある。ニーナにも言ったが、反復練習すれば自然と使えるようになるさ」
ルーテミシアの魔力操作は、かなり下手だった。
知覚まではできているが、その先の操作部分で梃子摺っている状態だった。
ニーナと同等、重たい荷物を引き摺るような、苦渋を舐めた顔を繕っていた。
「わ、私も初めて魔力操作を習いましたけど、これ、結構難しいです、ね……」
「焦る必要は無いんじゃないかな? まだ四月、授業も始まったばかりだし、少しずつ覚えていけば良いさ」
「そうですね。頑張ってお二人に追い付きます」
ジオとギルベルトを手本に、並び立てるよう、彼女は努力の意を示す。
「大きく出たな、ルー」
「だって、対等でいたいですから」
純真な笑みを見せられた彼は、その『対等』という言葉に心の何処かで引っ掛かる。
自分は果たして、彼等と対等でいられるのか、と。
数多くある秘密を、これからの関係構築の上できっと他言できないから、彼等に対して自身の全てを伝えるのが不可能であるから。
六年間の生活の中で友人関係に発展しても、結局自分の出自は話さないだろう。
だから、対等の関係になれるのか、疑問が浮かぶ。
非情なる現実から目を背けて、彼は少女の言葉を聞き流しては視線を散らした。
「なぁなぁジオ君、やっぱ魔力操作が思ったよりできひんからさぁ、さっきの方法で教えてほしいんやけど……」
「あぁ、別に構わないぞ」
「なら私も、お願いしても宜しいでしょうか?」
「アハハ、ジオは人気者だね」
「笑ってる場合じゃないぞ、ギルベルト。お前はもっと魔力操作を鍛えろ。まだ拙い部分が散見されるからな」
「うぇっ、ホント!?」
「あぁ、見た感じ、少しだが変な癖が付いてる。魔力操作にも感じ方は異なるが、俺が初めて体感した時のコツで良ければ、三人に教えてやるよ」
仲良し四人組、その関係は今後どう変化していくのか、それはまだ誰にも見通せない。
それぞれに抱える秘密が露呈するのか、それとも秘密を抱えたまま関係が構築されていくのか、それは今後の彼等の行動次第となろう。
それでもジオは一人、舞台の外側にある席から仲間達の演劇を見上げるだけの、単なる観客に過ぎない。
住む世界が違うから。
だから秘密を胸中に隠したまま、彼は舞台へと上がるために一歩前に進む。
そうして時は次第に過ぎてゆく、ジオ達を睨み付ける一つの禍根を生み出して……
講義を受けて、実戦訓練を行い、それから部活という生徒間で魔法に携わる分野での活動をする生徒達の大半は、それぞれの目的のために拠点へと赴く。
部活塔然り、研究室然り、秘密の場所然り。
敷地内は広大であるため、穴場や隠し通路、魔法的な仕掛けが存在したりもする。
部活動に時間を取られるため、人の寄り付かない場所は完全なる無法地帯となっている。
巡回する生徒会や風紀委員がいる。
教師達も何名かは顧問から外れている。
巡回のためである。
その目的は警備強化のため、もっと具体的に言えば、クレサントで発生している『魔刃騒動』のためだ。
しかし全員が学園全体を管理できる訳ではなく、巡回を強化したとしても、見落としは出てしまう。
ジオの滞在している場所も、警備は行き届かない。
「さて、ようこそ『森林寮・ジオの館』へ」
「あ、そういう名前を付けたんだね……」
現在は訓練が終了してから少し経過した時間帯、午後四時前頃である。
学園の森林の中に建つ、とある一軒家。
正式名称の無い、ジオお手製の寮前で三人に向かって歓迎の意を示していた。
「さて、これから俺がお前達の魔法技能を伸ばすために、指導教官に回る訳だが……念の為聞いておこう。ギルベルト、ルー、ニーナ、全員異存は無いな?」
月曜日に出鼻を挫かれ、昨日は放課後にジオ自身に用事ができてしまったため、指導を先延ばしにしていた。
が、ようやく時が巡ってきた。
「勿論や、強うなるためやもん、頑張る!!」
「僕も強くなりたいし、ジオの魔法知識は圧倒的だもんね、異存無いよ」
「私も、お願いしている立場ですから」
ヤル気に満ちる三人に、青年は静かに口元を緩め、中に入るよう促した。
仕掛けられた魔法によって、靴や衣服に付着した土埃や泥は洗い落とされて、彼は秘密の研究室へと案内する。
「で、ここで授業すんの?」
「いや、場所は決まってる。この真下だ」
事前に説明を受けて実戦多めの訓練となると知っている彼等だったが、てっきり演習場でも借りて訓練を行うのかなと、考えを脳の片隅に置いていた。
しかし、それは大きな間違いだった。
家へと三人を招き入れ、扉を閉めた。
広々とした一階の、扉と向かい側に位置している物置き部屋の鍵を魔法で開け、ガチャリと擬音が耳朶に響いた合図によって内部へと入室が可能となる。
侵入対策の魔法を仕掛けてあるため、勝手に入る行為はできない仕組みとなっていた。
小さな物置き部屋には様々な器具や魔導具、家具が所狭しと置かれているが、その部屋の片隅にある大きな棚の背面に刻印魔法で解錠文字を刻み込む。
壁に面しているため、普通では手の届かない場所。
そこを鍵の解錠場所に設置した彼の魔法一つで、地下への入り口が地面より開け放たれた。
「まるで遺跡の仕掛けみたいだね……」
「良いから来い」
開かれた地下への入り口、そこには魔法で壁から出てきた鉄製の梯子が架けられていて、そこに足を引っ掛けて地下へと降りていく。
ジオに続いて、ニーナベルン、ルーテミシア、最後にギルベルトが一歩ずつ下へと降りていき、程無くして全員の足が地面へと着地した。
「さて……ようこそ、俺の秘密の研究室へ」
灯る天井の照明が部屋全体を照らして、その全貌が明らかとなる。
彼はご自慢の魔法研究室へと客人を三人招いた。
友人達の視界の先に広がっていたのは、小さくも研究室らしい秘匿地下施設。
独自の研究室を持てるのは、生徒達にとって学園内では一種のステータスとなるが、それを自分で地下に建築してしまうという偉業は、凄いを通り越して感情が追い付かずに開いた口が塞がらない。
今の三人の心の中では、唖然とした感情一色に完全に支配されていた。
降り立ったのは隅の方。
そこから、四人が部屋全体へと散らばった。
テーブルには魔法の研究資料や著書、書き留めた用紙、それから小さな魔導具が散乱している。
四方の壁のうち一つには大きな本棚が置かれ、世界中で集めた無数の魔法指南書が収納されていた。
他にも市場に出回っていない魔導武具や物珍しい杖、使い古された箒、巻き物や丸められた魔法の羊皮紙等の魔導具が壁のフックに掛けられて、まるで収集家のようだと全員の胸中が一致した。
また、暖炉の上に魔法文字で書かれた数字が、現在の時刻を知らせている。
現時刻、午後三時五十分。
「何で暖炉あるん?」
「特殊な暖炉でな、これも一応魔導具の一種だ。一歩間違えれば爆発するのもあるから、そこの二人、変に触るなよ?」
「「……はい」」
好奇心に誘われて、ギルベルトは神々しく手入れされて飾られている魔導武具の一つ、とある魔法剣に、ルーテミシアは研究成果を書き留めた紙を貼り付ける、壁に掛かっているコルクボードに、それぞれが触れようとしていた。
だから諌めて、壁にある羊皮紙の巻き物を手に取って、全員を集めた。
「んじゃ、ジオ先生の魔法講義、始めるとするか」
ニッと口角を上げて、彼はテーブルに全員を集めた。
魔法の真髄へと初めて触れるであろう彼等に、青年は頭の中で計画を構想して、特別授業を開始した。
本作を執筆する上で、評価は大変なモチベーションとなります。
『面白い!』『この小説良いな!』等と思って頂けましたら、下にある評価、ブックマーク、感想をよろしくお願い致します。
感想を下さった方、評価を下さった方、ブックマーク登録して下さった方、本当にありがとうございます、大変励みになります!




