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家に住み着いてる滅茶苦茶可愛い座敷童子が俺に悪戯ばかりしてくるが、座敷童子だから追い出したくても追い出せない

作者: 紐育静


 俺の家には座敷童子が住み着いている。嘘ではない。人間を妖怪扱いしているわけでもない。


 「あ、やっとお風呂上がったんだ拓海」


 風呂から上がって自室へ戻ると、当たり前のようにベッドの上に寝転んで俺の携帯をいじっている長い黒髪で桜の花飾りを頭に着けた、赤い振袖姿の少女がいる。勿論彼女とか姉や妹ではない。


 「また何かソシャゲやってんのかスマホ中毒が」


 こいつはウチに住み着いている座敷童子だ。名前はサクラ、ぶっちゃけ見た目は俺の好みだが、こう見えても妖怪だ。座敷童子って子どもの姿というイメージがあったが、こいつは高二の俺と同年代ぐらいに見える。黙ってジッとしていればただの美少女だが……こいつはかなり俺を困らせる厄介者でもある。


 「さっきね、美玖(みく)っていう子から連絡来てたから返事しといたよ」


 「……え、美玖から? お前、どんな連絡にどんな返事したんだ!?」


 俺は慌ててサクラから自分の携帯を奪い取ってラインを確認した。松林美玖は俺の幼馴染で、同じクラスの同級生でもある。

 

 『明日の数学の小テストの範囲ってどこだったっけ?』


 というただのテスト範囲の確認に対し、俺に扮したサクラは──。


 『美玖、愛してる。俺と結婚してくれないか』


 という何の脈絡もなく突然結婚を申し込んでいた。いやアホ過ぎるだろ。


 「おいサクラ! お前またやったな!?」


 「え~せっかく女の子から連絡来たんだから~ちゃーんと自分の想いを告白しないとねぇ! 引いてばっかりじゃ彼女すら出来ないよ!」


 「少しは雰囲気ってものを考えろ!」


 しかも既読がついてるから今更消そうとしてもしょうがない。俺は慌てて釈明しようとしたが、先に美玖から返信が来た。


 『も~また変なこと言っちゃって~』


 と軽く受け流された。それはそれでショックだ。最初にサクラが俺に扮して悪戯で告白の文面を送った時は『それ、ホントの話?』とか『嬉しい』とか言ってくれてたのに、多分大分好感度が下がってきてる。だって何か連絡する度告白してくる奴は相当ヤバいだろ。

 俺は『ついつい言いたくなるだけだ』とテキトーに返してちゃんと小テストの出題範囲を美玖に伝えた。前に『ごめん送り先間違えた』と伝えたら『誰に送るつもりだったの?』と追求されたため、俺は事あるごとにに愛を伝えて結婚を申し込んでくる変人キャラとして生きるようになっていた。一応一部の友達はサクラの存在を知っているが、友人達にとってはもうどれがサクラが送ったやつなのか俺が送ったやつなのかわからないだろう。

 俺が美玖への連絡を終えて溜息を吐いていると、サクラはベッドの上でクスクスと無邪気に笑っていた。


 「やーいやーい、携帯忘れるのが悪いんだぞー」


 「くっそこのクソ妖怪がよぉ……」


 「え~私がこの家からいなくなっちゃったら何が起きるかわからないよ~? それでも良いのかな~色々と困ると思うよ~?」

 

 そう、サクラはこんな奴だが座敷童子なのだ。無闇にこの家から追い出したらとんでもない災厄に巻き込まれてしまう可能性がある。だがコイツが本当に座敷童子だという証拠はない。だが座敷童子ではないと確かめることも出来ないのだ。

 確かにサクラがウチに来てから親父が仕事で昇進したり母親のささくれが綺麗になくなったり、妹の作文が表彰されたりと色々起きている気もするが、少なくとも俺は幸せになっていない。だが俺の一存でサクラを追い出すわけにもいかない。家族の幸せのために俺はコイツと付き合わないといけないのだ。


 「んじゃ、私は真琴(まこと)ちゃんとアニメ見てくるから~ちゃんと勉強するんだぞ~」


 サクラは笑顔で手を振りながら俺の部屋から去っていった。サクラは数百年以上生きていると自称しているが、今の時代の文化を満喫している。最近は俺の妹である真琴と深夜アニメを見るのが趣味らしい。ちなみにサクラのことが見えているのは俺と真琴だけで、両親は見えていない。

 サクラが部屋からいなくなった後、俺は真面目に高校の宿題をこなし、ちゃんと教科書で予習をして、そしてサクラが勝手に漁った形跡があるエロ本を隠し場所であるタンスの底に戻して眠りについた……。


 ---


 ──シテヤル。


 何か女の声が聞こえる。


 オマエヲ──コロシテヤル────。


 うーん、また何かサクラが悪戯でもしてるのだろうか……。


 ---

 

 「──くーみー。たーくーみー」


 携帯の目覚ましが鳴り響く音と同時に、俺の耳元で俺の名前を囁いている奴がいる。


 「ふー」

 

 「ふおおおおおおおおおおっ!?」


 突然耳に息を吹きかけられた俺は耳を押さえながら飛び起きた。するとベッドの脇に座っていたサクラがキャハハと笑っていやがった。


 「プークスクス。随分と敏感なお耳だねぇ拓海」


 「なんちゅう起こし方しやがる!」


 「え~やっぱり足をこちょこちょして起こされる方が好き?」


 「それもやめろぉ!」


 俺の目覚めは最悪だ。いつもこうだ、サクラが何かしら変なことをしてくる。いや、何か悪い夢を見たような気がしたが、その割にはすっきり目覚めた気がする。でも流石に耳に息を吹きかけられるのは何かゾッとした。


 「さーて早く着替えなよ。おっ、今日の息子さんは随分と大人しいねぇ」


 「うっせぇ見るんじゃねぇよ! 早くリビング行って来い!」


 「ちぇー」


 サクラは人が着替えてるのに平気で見てくるから困りものだ。機嫌が悪い時は風呂に入ってくることもあるから、少しは話に付き合ってやって機嫌を取らないといけない。

 俺はササッと制服に着替えて一階へと向かい、両親や妹と共に朝食を取る。サクラは食事を取る必要はないため、暇潰しにテレビを見ているだけだ。


 「今日はな、業界でもトップクラスの大手と商談する予定なんだ。これが決まったら父さんまた昇進出来るかもしれんな、ハハッ」


 元々親父は会社で鳴かず飛ばずという感じだったが、サクラがウチに来てからはトントン拍子に出世している。そのおかげでウチの車が軽自動車から普通車になった。


 「ホント、サクラちゃんが来てくれたおかげで助かるわぁ~この前も洗濯機を買い替えようと思って見に行ったらすっごい値引き出来たし」


 サクラという座敷童子からの幸福を享受できている親父と母親はとても嬉しそうである。サクラの方をチラッと見ると満足そうにニヤニヤと笑っていた。


 「ねぇお兄ちゃん。今日は帰り遅くなりそう?」


 隣に座る黒髪ショートで赤いメガネをかけた妹、真琴が言う。


 「いや、今日は何も予定ないな。もしかしたらちょっと友達と遊んで帰るかもしれんが」


 「そーなんだ。私は部活だからサクラちゃんのお世話よろしくね」


 「お、おう……」


 サクラの姿が見えるのが俺と真琴しかいないため、サクラの相手は二人で担当することになっている。サクラは真琴に対しては随分と優しくしているくせに、どうして俺には悪戯ばかりしてくるのか。

 朝食を終えると家を出る時間となり、俺は真琴と共に家を出た。玄関ではいつものように振袖姿のサクラが笑顔で見送っていたが──今日は何だか妙にニヤついているように見えた。


 俺と真琴は同じ高校に通っていて、俺は二年、真琴は一年だ。校門で別れてそれぞれの校舎へと向かい、俺は二年の教室へと向かう。


 「ちぃーっす拓海。今日はどんなんだった?」


 教室に入って自分の席へ向かうと、前の席の友人、鏑木隼人(はやと)がニヤニヤしながら声をかけてきた。俺の友達の何人かはサクラの存在を知っている。誰もサクラの姿は見えないようだが。


 「今日はな……耳に息を吹きかけられた」


 「何それエロッ」


 「エロもクソもあるか。寝起きでやられるとかなりビビるんだよ」


 隼人は俺とサクラの共同生活を羨ましがっているが、一度で良いから交代してもらいたい。朝起きたら目の前に般若の面を被ったやべー奴がいた時は心臓が止まりかけたからな。

 

 午前中は何事もなく授業を受けて昼休みを迎える。俺は教科書を机の中にしまって制服のポケットから携帯を取り出そうとしたが──どこにも携帯がなかった。確かに携帯の重みを感じない。


 「……やべっ、携帯どっかに落としたかも」


 学校に来る途中に落としたか? 今日は学校で携帯開いてないしな。


 「家に忘れたんじゃね? 俺が電話かけてみよっか?」

 

 「すまん頼む」


 早速隼人に俺の携帯に電話をかけてもらった。すると数コールで誰かが電話に出たようだ。


 「あ、もしもーし。もしかしてサクラちゃん?」


 サクラ……? いや、もし俺が家に携帯を置きっぱなしだったら、今は親もいないから取れるのはサクラしかいない。サクラに届けてもらおうにも、座敷童子だからウチから出ることは出来ない、というか出られたら困る。


 「ごめん何か電波悪いのか全然聞き取れんかった」


 電話は切れてしまったようだ。サクラの姿が見えない人間はサクラの声すら聞き取れないらしい。聞き取れたとしてもまるで電波が悪いのか途切れ途切れで可愛い少女の声が聞こえてくるのだとか。


 「アイツが持ってるとなれば不味いな……仮病使って早退しようかな」


 「そんなヤバいことなんの?」


 「アイツはとんでもないことをするかも──」


 アイツが携帯を持っているという事実は俺を戦慄させるのに十分だった。俺は携帯に指紋認証もしっかりとかけているのに、妖怪にはそれが効かないようで普通に携帯を使いやがる。俺は早退しようと思い隼人と別れて廊下に出たが──俺の元に青いリボンを着けたポニーテールの、幼馴染の美玖が駆け寄ってきた。


 「お、おい拓海!」


 「え?」


 いつもはもっと大人しい雰囲気の美玖が、何だか妙に男らしいというか、足も大股で目つきも鋭いような気がした。


 「お、おおおオレと」


 オレ? 美玖の一人称って私だった気がするが、何か急にオレっ娘になってる。


 「一緒に、飯を食いに行こう……ぜぇ」


 「……どうしたんだ美玖? いや、行っても良いけど、何か口調おかしいぞ」


 「そそそそんなことないだろおぉ? ほら、わた、じゃないや早くオレと飯食いに行こうぜぇ」


 「……ホントどうしたんだお前」


 絶対今はキャラ変するタイミングじゃないって。いや、見てて面白いからいいけど大丈夫かこいつ。俺は早退しようと考えていたが、まぁ美玖とは付き合いも長いし昼食ぐらいは付き合ってやるかと思って購買へと向かった。

 俺の昼食はいつも購買で勝っているパンだ。気分次第で惣菜パンの種類は変わる。今日はまだ焼きそばパンが残っていたため、それと自販機でコーヒー牛乳を買って中庭で美玖とベンチに座った。美玖は手作りの弁当を持ってきていた。


 「なぁ美玖。どうしてオレっ娘になったんだ?」


 「ききき気のせいじゃないかぁ?」


 ボクっ娘になってたらお前それは狙いすぎだろと思うが、こんな事態は想像がつかなかった。

 ベンチに座ってパンを頬張っていると、今度は同じクラスの相馬恵美(めぐみ)が俺達の所へやって来た。相馬は髪も短くボーイッシュで身長も高く、バレンタインに女子からチョコをもらうぐらいには女にもモテる女子だ。実際イケメン度なら俺より相馬の方が勝ってると思う。一応俺の友人だ。


 「な、なぁ拓海……ちゃん」


 ちゃん? 今まで呼び捨てだったのに急にどうした。


 「その、疲れていたりしないか?」


 「いや、別に」


 「誰かに甘えたい気分になったりしないか?」


 「なったとしてもお前に言わないと思うが」


 確かに疲れて癒やしが欲しいこともあるが、流石に同級生の女子に甘やかして欲しいと思ったことはない。


 「そ、そのもしも甘えたくなったら、私のことをママだと思っていつでも来ても良いからね? ほ、ほら膝枕とかしてあげるから」


 「ひ、膝枕!?」


 隣に座っていた美玖も相馬の発言に驚愕していた。いつもはもっとクールビューティーみたいな感じなのに、美玖といい相馬といい何かおかしいぞこれ。


 「た、拓海! お、オレにも甘えていいから、なっ! 膝なんていくらでも貸してやるよ!」


 「その、もしも甘えたくなったら私が拓海ちゃんのママになってあげるからな?」


 やべぇ変なオレっ娘と俺のママぶってる奴に囲まれてる。混乱しすぎてせっかく腹に入れた焼きそばパンを戻してしまいそうだ。


 「そ、そこまでよ!」


 俺は変な夢でも見ているのかと頭を抱えていると、今度はまた同じクラスの米倉真理愛(まりあ)が登場した。頭は金髪に染めて……ないっ!? あれ、米倉って頭は金髪で制服も着崩していてスカートも短くていかにもギャルっぽい奴だったのに、髪の色も落として制服もちゃんと上着のボタンも留めてるだと!? 心なしかスカートもいつもより長い気がする!?


 「ま、待ちなさいお二人共。た、拓海さんが困ってるではありませぬか!」


 いつもはもっと軽い口調の真理愛が何かお嬢様みたいなキャラになってる!? 最早別人だぞこれ!?


 「そ、そうだ拓海……さんっ。今日はウチ、じゃなくて私のお邸宅でおちゃ、お茶会なんていかがなんですわよ?」


 お嬢様口調に慣れてないからやっぱり変な口調になってる。

 いや、今日の三人は絶対におかしいぞ。いや俺が逆におかしくなってるのか? 三人っていつもこんなんだったっけ?


 「な、なぁ落ち着いてくれ三人共。一体どうしちまったんだよ、いつものお前達らしくないぞ」


 すると美玖、相馬、米倉の三人は顔を伏せると、ポケットから携帯を取り出して画面を俺に見せた。

 それはラインのトーク画面だ。三人共にトークの相手は俺。そして俺は──美玖にはオレッ娘もののエロ本、相馬には赤ちゃんプレイもののエロ本、米倉にはお嬢様もののエロ本の表紙の写真が送りつけられていた。どれも俺の部屋に隠してある秘蔵のコレクションの一部だ。


 「……さ、サクラアアアアアアアアッ!」


 俺は思わず人目もはばからずに学校の中庭で叫んだ。アイツ、俺が家に携帯を忘れたのをいいことに俺の部屋のエロ本を漁って三人に送りつけたのか。しかもそれぞれの普段のキャラとは全然違うタイプのジャンルをわざわざ選んでやがる。


 「お、落ち着いて聞いてくれ……それは俺じゃなくてサクラが送りつけたやつなんだ。俺、家に携帯を忘れてきたんだ」


 「あ、そうだったの? ヤッバ、アタシらってばチョー単純じゃん」


 良かった、米倉がいつもの口調に戻った。しかしまだ相馬と美玖の様子はおかしかった。


 「で、でもな拓海……」


 「それって、拓海が持ってるやつなんでしょ?」


 ……確かにそうだな。うん、隼人とかが俺の部屋に置いてったのもあるけど、一応全部俺の趣味ではある、それは事実だ。だから俺の部屋に隠してあるんだし。


 「や、やっぱり拓海が好きなキャラになりきった方が良いのかなって」


 「いや、それはおかしいだろ」


 「あ、ヤバっ……オホホホホ! た、拓海さん! 今度のご休日は私と共に映画を見に行きませんこと!?」


 また米倉のキャラがおかしくなっちゃったよ! こんな変なキャラの奴と一緒に映画を見に行ってどう反応すりゃいいんだよ!


 「待て待て待て三人共! あれは違うんだ、気にするな! お前達はいつも通りでいてくれよ! お願いだからああああああああっ!」


 俺は前に、俺に扮したサクラが悪戯でこの三人に『結婚を前提に付き合って欲しい』と送りつけた時のことを思い出した。そして全員から『うん』と返事が帰ってきたことで、この三人の好意を知ってしまったのだ。

 これがサクラが俺に与えた幸せだというのか? いいや、俺の学校生活が滅茶苦茶にされているだけだ。

 俺、もう携帯捨てた方が良いんじゃないかな……。


 学校では一波乱あったが、どうにか美玖達をいつものキャラに戻してから俺は帰宅した。玄関を開けると、いつものように赤い振袖姿のサクラが笑顔で待ち構えていた。


 「拓海、おかえりんこ」


 「ただいまん……ってそんな引っかけ方させるのやめろよ」


 危ない危ない、もう少しでこの物語の年齢制限を引き上げないといけなくなるところだった。俺は自分の部屋に入って、机の上に置かれていた自分の携帯を手に取った。するとサクラは後ろでクスクスと笑っていた。


 「どうだったどうだった? 彼女達はどんな感じだった?」


 「……オレっ娘とママとお嬢様が生まれたよ」


 「へぇー、だったらもっとキツめの奴でも良かったかもねぇ」


 家を出る前、いや家を出た直後も携帯をちゃんと持ってるか確認が必要だな。なぁアッ○ル、妖怪でも防げなさそうなセキュリティ作ってくれ、じゃないと俺の学校生活は滅茶苦茶だ。携帯という文明の利器を手に入れたしまった妖怪は手に負えないぞ。


 「さーて、拓海。暇だからスプ○トゥーンしよ」


 「あぁやってやるよ、今度こそお前をボコボコにしてやるからな!」


 この妖怪様はゲームも大好きだ。サクラは真琴のゲーム機を使って俺と対戦するが、まーサクラはゲームもとんでもなく強い。一体どこでそんなの覚えてきたのか、スマ○ラとかマ○オカートの腕もピカイチだ。妖怪だからホラーゲームも全然怖がりやしない。

 

 「きゃっはは、拓海ったら雑魚すぎ~」


 うーん、こうしてキャッキャとはしゃいでるのを見ると普通に可愛いんだが、俺にとってコイツの悪戯は災害レベルの脅威でもあるからな。まぁこうしてゲームをするだけで機嫌を良くしてくれるし、俺の腕も鍛えられるからいっか。


 サクラとゲームで遊んでいるとあっという間に時間が経ち、俺は風呂に入った。流石にサクラは俺が風呂に入ってる時にあまり入り込んではこないが──扉の向こう、脱衣所に赤い振袖姿の人影が見えた。


 「ダメだよ拓海」


 だが、サクラの声は俺の背後から聞こえた。驚いて後ろを振り向くと、赤い振袖姿のサクラが当然のように風呂の中に入っていた。あれ、じゃあ脱衣所にいるのは誰だ──?


 「あれは私じゃないから」


 あ、またヤバいのが来たな、と俺は思わず顔を伏せた。いや、風呂場でこういうの絶対ダメだって。

 

 「大丈夫、世界で一番つよつよな私がいるからね」


 

 入浴を終えると丁度両親や真琴も帰ってきて夕食を取る。話によると親父の商談は無事成功し、母親は商店街のくじ引きで団体の温泉旅行を当てて来たらしい。うーん、ちゃんと座敷童子としての腕もあるんだよなアイツ。

 

 「あ、そうだお兄ちゃん。ちょっと次のテスト範囲でわかんないとこがあるんだけど」

 

 「わかった、俺の部屋来る?」


 「うん」


 卓球部で日々部活に励みながら勉強も疎かにせず文武両道を極めようとする真琴をサポートするのも兄の役目だ。前は反抗期だったからか大分嫌われていたというか素っ気なく感じていたが、サクラが来てから仲が戻った気がする。

 しかし、並んで夕食を取っていた俺と真琴の間にサクラが入り込んで呟いた。


 「ダメだよ拓海。今日は私以外の奴を入れちゃいけないよ。死んじゃうかも」


 「マジ?」


 「大マジ☆」


 たまにサクラはサクラの声が届く俺と真琴に警告してくることがある。「死んじゃうかも」と一言添えられた時は相当ヤバい奴がやって来たということだ。

 そう、俺がサクラに粘着されてよく絡まれるのも、そもそもサクラがこの家に住み着いたのも、あることが原因だったのだ。


 俺はサクラの警告通り、俺の部屋ではなくリビングで真琴に勉強を教え、その後は部屋で隼人と電話で談笑して時間を潰していた。そして就寝時間を迎えて俺がベッドに入ると、サクラは当然のように布団の中に入ってきた。


 「……なぁサクラ」


 「なぁに?」


 サクラが布団の中でモゾモゾと動いている。そんな密着しないでもいいだろってぐらいサクラは体をひっつけてくる。こいつ何で体に実体があるんだよ、なんでちゃんと柔らかいんだよクソが、耐えてくれ俺の煩悩よ。


 「これ、本当に一緒の布団に入らないといけないの?」


 「うん。じゃないと拓海死んじゃうよ?」


 「うーん、サクラがそう言うなら仕方ないけど……」


 相手が妖怪とはいえ見た目は美少女の座敷童子と一緒の布団で寝るのは年頃の男子にとっては修行のようなものだ。興奮からか眠れそうにないが、俺は不思議とスッと眠りについていた──。


 ---


 ──シテヤル。


 何かの声が聞こえる。


 ──コロシテヤル。


 うーん、またサクラが何か悪戯してるのか? 携帯で俺の耳元にホラー映画でも流してるのか?


 ──オマエヲ、コロシテヤル。


 俺はパッと目を開いた。うん、何かいる。何か赤い振袖を着てめっちゃ髪の長い女が俺に馬乗りになって、両手で俺の首を絞めようとしてる。俺、凄いヤンデレに好かれてたのかな。いやメンヘラっていうのかこういうの。わかんねぇけど俺ピンチだな、すっごい息が苦しいもん。


 ──コロシテヤルウウウウウウ!


 金縛りのせいか俺は体を動かせず、ただ視界に謎の女の化物が映っているだけだ。うーん、これはよくある恐怖体験という奴だが、こんな状況でもこうして俺が冷静でいられるのは──。


 「まーまー落ち着きなさいな」


 同じく赤い振袖を着た少女、サクラが謎の女の背後から彼女の手を掴んで、俺の首から引き剥がした。


 「無差別に人を殺すのは良くないよー? その子も大概サイテーな男の子だけど~多分貴方よりかは余っ程出来た人間だから~」


 サクラは最高の笑顔を見せていた。そのまま人差し指で何か術式を描くと、突然鎖のようなものが謎の女を縛って動きを封じた。


 「てやっ☆」


 サクラが笑顔でそう呟くと、一気に謎の女の体が消えていく。


 ──キエアアアアアアアアアア!?


 俺を殺そうとしていた悪霊は、サクラの手によって一瞬で成仏させられてしまった。

 

 サクラの話によると、どういうわけかウチの家には悪霊が集まりやすいらしい。どうも冥界との門が開きやすいのだとかどうとか。確かにウチの親父は相場の割に安い額でこの土地を買ったと言っていたが……サクラが住み着く前まではよく怪奇現象が起きていたのだ。ウチの両親は霊感も無ければそもそも幽霊の存在を信じていないため平気だったようだが、俺と真琴はビクビクと怯えていたものだ。


 しかし、そんな時にウチに住み着いたのが座敷童子であるサクラだ。サクラも偶然この家に開いた冥界との門を通ってやって来たらしく、面白そうな()を見つけたから住もうと思ったらしい。しかもサクラは妖怪として相当強いようで、ウチにやって来る悪霊を次々とぶっ倒してしまうのだ。

 サクラは座敷童子としてこの家に幸運を招いてくれるが、悪霊を追い払う存在としても頼もしいのだ。


 「フッ、私のテリトリーに入ろうだなんて百年早いね」


 特に俺の部屋は悪霊が集まりやすいため、サクラは俺の部屋でくつろいでいるのだ。


 「流石だなサクラ。また欲しいゲームあったら言えよ」


 「じゃあゼノブレ○ドで」

 

 まぁ、悪霊を追い払ってくれる上に幸運も招いてくれるのは本当にありがたいが、俺にちょっかいを出すのは本当に勘弁してほしいところだ。悪霊も無事退散し、俺は再び眠りにつこうとした──が、何故か再びサクラが布団の中へ入り込んできた。


 「なぁサクラ」

 

 「なぁに?」


 「もう悪霊いないんだろ?」


 「いや、いつ来るかわかんないから」

 

 まぁ、座敷童子様がそう言うのなら仕方ない。


 「なぁサクラ」


 「なぁに?」

 

 「いつもありがとな」


 俺が折角感謝の気持ちを伝えたのに、布団の中から細い手が伸びてきて頬をつねられた。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。こっちはあんなに普段嫌がらせされてるってのになぁ。

 俺はそのまま、悪霊がいなくなった部屋でゆっくりと眠りについていた──。


 ---


 「──くーみー。たーくーみー」


 携帯の目覚ましが鳴り響く音と同時に、俺の耳元で俺の名前を囁いている奴がいる。


 「ぺろっ」


 「ぬおおおおおおおおおおおおおおんっ!?」


 俺は突然首元を舐められて飛び起きた。すると俺の隣で寝ていたサクラがキャハハと笑っていた。


 「拓海ったら弱点多いね」


 「なんちゅう起こし方しやがる!」


 「次はどこを舐められたい?」

 

 「どこも舐めるんじゃねぇよ!」


 やはりいつものように俺の目覚めは最悪だ。流石に美少女に体を舐められるような趣味はない。背中が凄いゾワッとして鳥肌が立った。変な趣味に目覚めてしまいそうだ。


 「さーて早く着替えなよ。おっ、今日の息子さんは随分と元気みたいだねぇ」


 「うっせぇ見るんじゃねぇよ! 早くリビング行って来い!」


 「ちぇー」


 こうしてまた、いつものように悪戯好きな座敷童子との一日が始まるのだ────。





 完


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