003 魅力的な「革命」システム
『 Reality barrage Gamers へようこそ!』
視界が開けると、何もない部屋のような場所に立っていた。
『ここではReality barrage gamers 通称RBGを始めるに当たり、基本的な設定と仕様を説明させていただきます』
目の前に広がる空間。自身の部屋ではない。これはVRだよね?
目の前のAIに軽く説明してもらう。先程ユキが教えてくれた仮想の体のことや、その見た目についての設定。私は現実と全く変えずにそのままスルーする。
さらに痛みや発光、その他感覚器官系の設定も痛み以外は全てデフォルトにしておいた。
さすがに痛いのは嫌だよ?そこだけゼロにしました。
こうしてできた私の見た目は焦げ茶色のショートヘアーに焦げ茶色の目、身長は少し高めのスラリとした体型だ。自分で言うのもなんだがそこそこ顔立ちもよく可愛い方だと思う。たぶんね?
というかリアルと見た目変わらない。
『はい。確認できました。では最後に名前を決めてください。ただし他の人に不快感を与える名前は設定できません』
んー、名前ね。今まで偽名とか使ったことないから…。難しくするよりもそのままでいいかな?
名前は「ナユカ」で。
たぶんユキも変えてない。現代だと別に変える必要もないしね。そういうのも時代の変化なのかな。昔の人はよく訳が分からない名前にしてたってどこかで聞いたような気がする。
『はい!ナユカ様ですね。以上で基本的な設定は完了しました。また、設定の変更はいつでもできます』
今後この設定を変えることはなさそう。
『それでは次に RBG の仕様に関する説明を始めます』
こうして説明されたことを簡潔にまとめると。
・スキルを集めよ
・バトルしてランキング上位になろう
・スキルの組み合わせは無限大!
・ログアウトはメニューから
らしい。
『そしてこのゲーム最大の特徴である「革命」についてご説明いたします』
ひと区切り着いた段階でNPCからそう言われた次の瞬間。一瞬にして何も無かった空間にどこか知らない街並みが広がっていく。太陽の光が眩く照らすその光景はさほど現実と変わらない。
『「革命」。それは今までのゲームの常識、プレイスタイル、戦闘技術や移動手段など。様々な分野を1回で塗り替えてしまうほどの変化のことを言います』
そしてそんな街並みを見下ろす私とNPC。空に浮いているように見えるがこれは精巧な映像なのだろう。そして盛大に鳴り響いているのはこのゲームのメインテーマなのかな。
これから起こるどきどきとワクワク。躍動感を表現するようなリズムと音色は耳によく残る。
いい頃合でNPCのナレーションじみた解説が始まった。
なるほど。オープニングムービーなのだろう!
『ゲーム初期、ただやることも無くそこには「スキル」があるのみ。早い者勝ちであるがゆえに起こった「殴り合い」の時代』
え、ナニソレ。どんな世紀末なのだろうか…。視界が塗り代わりそこには2人の人…。いや、プレイヤーがただ素手で殴り蹴飛ばし何かモヤッとしたものを我先に取ろうとしている。
『そんな混沌で何も無い時代を塗り替えたのがゲーム史上初となる「革命」と呼ばれた。大改編でした』
1人の青年…。年齢は近そう。金髪を靡かせるそんな彼がどこからか剣を取り出し切りかかる。周りにいたプレイヤーは無手で悲しいほどあっさりと倒されて行った。
『彼のことをプレイヤーは「革命者」と呼びます。彼はゲームに武器を作る力をもたらし、プレイヤーの攻撃方法が豊かに。またアイテムといった概念が浸透することとなりました。彼、「ハルト」というプレイヤーが起こした革命。これを生産革命と呼びます』
そして景色は更に塗り変わる。武器が浸透したのかプレイヤー達は剣や飛び道具などを持ち激しく戦闘を繰り広げていた。そんなプレイヤー達に飛んでくる極大の炎の塊。これは…
『彼の革命後、しばらくして1人のプレイヤー「アリア」によってまたもや革命が引き起こされました。その名も「魔法革命」。彼女が広めた魔力。MPという概念が更に戦闘をより派手に。過激にしていきました』
MP。よくあるゲーム物の設定だけどこのゲームにはそれまでなかったんだ…
そして今度は景色が大空へとひろがる。そこを自由気ままに飛ぶプレイヤー…
『生産革命、魔法革命。その後に起こった第3の革命が「空中革命」と呼ばれるスキルの台頭です。「シリウス」というプレイヤーの活躍により広められたスキルは行動範囲を飛躍的に上昇させたとともに、戦闘を立体的なものへと変貌させました』
飛び交うプレイヤー。荒ぶる魔法。高速で動く剣技…。今まで飛べなかったから出来なかった動きが一気に拡張されたということ。
そして大空から深海へ。海の中の透き通ったゲームならではの視界の良さ。そこを飛ぶように泳ぐプレイヤー。
『そしてゲームの舞台は空に限らず、水中にまで拡張されます。これが「水中革命」です。海を操るがごとく「シラナミ」というプレイヤーにより世界が広がった瞬間でした』
ゲームがプレイヤーによって大きく変わる。これが革命と呼ばれる。
『現在に至るまで計4回の革命が起きています。RBGはまだまだ未知の世界。何が革命となるかわかりません。そんなプレイヤーと共に進化するゲームへようこそ!』
徐々に司会は白くなっていく。NPCの声が遠くなり…私は「Reality barrage Gamers」の世界に投げ出されることとなった。
*
「おお〜…」
視界が開けるとそこには、いつもの私の部屋が広がっていた。
「うーん、普段と変わらないね」
「そりゃそうでしょ〜。ここは正真正銘、那由花の部屋だも〜ん!」
「うぉっ!!?」
びっくりした!いきなり後ろから話しかけないでよ。変な声出たじゃん!
「あははは〜!ごめんごめん」
そう言って全く反省した気配がない謝罪を口にしたユキは、ニコニコしながらこちらを見ていた。
ユキは元々《もともと》黒髪と瞳を、銀髪に少しだけ水色を足した感じの色に変えている。瞳は水色でキラキラしていた。ほかははいつもと変わらない。 スラリとした体型に高身長でカワイイ系かつ美しい系の美人さんという反則級の美貌だ。
服装は白いロングコートとロングブーツに、いろいろなところにちりばめられた雪の結晶がいい感じに可愛い。髪飾りも雪の結晶をイメージしたもののようで、そのまんま「雪」がコンセプトのようだ。
「おまたせ。とりあえず基本的な設定と仕様は聞いてきたけど…。プレイヤーと進化するゲーム…面白そうだね」
「あぁ〜。懐かしいな〜。 私の時も基本設定とスキルの取り方だけでそのまま放り出されたからね〜。今は歴代の革命についてのオープニングムービーがあるんでしょ〜?いいな〜」
「あれ?ユキはオープニングムービー見てないの?」
「いや〜私ってさ?ほんとゲーム発売の日から始めたからさ〜。何していいかあのころはまるでわからなかったんだよ〜。今は調べればプレイヤーが情報を公開しているから、序盤何したらいいかわかるんだけどね〜。革命もない時代で目的も不明だったのがこのRBGなのさ〜」
な、なるほど。そう考えるとゲーム経験者に教えて貰えるのはラッキーなのかもしれない。ユキがいなかったら私なんか途方に暮れてるさ。…ユキがそもそも始めるきっかけを作ったから、ユキがいなかったらこのゲームしてないのだけども。
「苦労したんだよ〜?まあ、ナユカにはしっかり教えてあげるから安心してね!」
そう言って楽しそうにユキがこちらに笑いかけてくる。うん、笑顔が可愛い!
「ありがとう」と言って私も笑い返してあげたらユキが両手を広げて抱きついてきた。
おお〜。しっかりユキが身にまとっている服まで感触が伝わってくる。その服は見た目通りといった感じで少しひんやりしていて不思議な感じがした。
ほんの少しだけそうしていたら気が済んだのか、ユキがゆっくりと離れていった。そして気を取り直すかのように、外に出ようというので私はユキのあとをゆっくりとついていく。
これが…。記念すべき第1歩なのだ。玄関だけど。私にとって大事な第1歩なのだ。
*
私の記念すべき第1歩は呆気なく終わりを告げた。いや、まあ、玄関だからそりゃそうなんだけど。
「あまり…。人がいないね?」
それでもやっぱり隠しきれない恐怖心からユキに寄り添いながら玄関から遠ざかっていく。
ああ…、私の安息の地よ。しばしの別れ〜…。あ、でも私の本体は家にあるのか。
「まあ、ここら辺は人通りが普段多いからそう思うだけだよ〜。ゲームプレイ中はいかに現実と言えどもゲームプレイヤー以外は見えないし〜。逆にリアルの人達も私たちを見ることはできないよ〜」
「あれ?VRじゃないんだ?」
「ん?これはARかな〜。現実の地形そのままでしょ?一般の通行人なんかは相互干渉不可能にはなってるけどね〜」
科学って行き過ぎると魔法と大差ないよね…。原理なんて分からないけど、ともかくゲームプレイヤー以外には会わないってことだ。
「もうちょい進むと人もたくさんいるはずだよ〜」
そう言って真っ直ぐに進んでいくユキ。そのまま道なりに真っ直ぐ行くと、ちらほらとプレイヤーが見えてきた。その人たちはそれぞれ走っていたり、座っていたり、はたまたしゃがみこんで何かを探していたり…。何してるん…だろう?
あ!!
それは白かった。ガラスのような光沢に中はモヤモヤと動いている。丸い物体…
「ナユカ!!早くそれ取って〜!!それがスキルだよ〜!!」
おお〜…。これがそのスキルなのね〜。いきなり目の前に湧いて出てくるとは思ってなかった。
って…。どうやって取るんだろう?触れたらOKかな?
そう思いその白いオーブに触れてみた。ちょっと怖いので右手でチョン!と触る。
その瞬間。ピカッ!て光ったかと思うと、風船が割れた時のような。中にあった空気がふわっと通り抜ける感覚。そしてその中に詰まっていた白いモヤは、私に一直線にぶつかってきて、そのまま体の中に吸い込まれるように入っていった。
おう…?
《スキル・魅力を獲得しました》
「どう?」
何も反応がない私を見かねてか。ユキが私を覗き込むように尋ねてきた。
「〔魅力〕ってスキルを取れたみたい。でもこれどうやって使うの?」
〔魅力〕ってスキルは無事取得することができたみたい。でもどうやって使うかが全く分からない、ここは経験者に聞くに限るよね?
「〔魅力〕…?聞いた事ないね〜…、でも色は白だから珍しくはないはずなんだけど」
あら?もしかしてユキも知らないの?
「ごめんね?1番初めから知らないスキル取るとは思ってなかったよ〜」
どうやらユキですら知らないらしい。でもユキはゲーム開始初期からやってるらしいから、ユキが知らないってことは結構いいスキルなのかな?
「いいよ!いいよ!自分でいろいろ試してみるからさ!それよりもっと他のスキルも取りに行こう!!」
使っていったらそのうちわかるようになる。そう信じて私たちは先に進むことにした。
とりあえずスキルは探索でゲットできる。別にバトルで獲得しなきゃ行けないわけじゃないみたいで安心した。
そもそもスキルなしで戦いになる方がおかしいけど。
こうして私の初めてスキルは〔魅力〕となった。
このスキルが後に暴れまくるなんて知らずにね。




