聖女とカラス(?)
私がそんなことを思い一人怒っていると、不意にお兄様は視線を私からミアの方に移す。それに対し、ミアはほんの少し驚いたように目を見開いていた。多分、自分がお兄様に意識を向けられるとは思わなかったのだろう。
まぁ、実際ミアからすればお兄様は雲の上の存在だしね。仕方がないの……かも。でも、あれ? そうなったらミアにとっての私って……ううん、これは考えない方向で行きましょう。
「いろいろと大変だが、もう少し辛抱してくれ。エセルバードの方とも、微々たるものだが連携はとっているからな」
「……ありがとう、ございます」
ミアのことを安心させるかのように紡がれたお兄様のお言葉。その後、軽く微笑まれていた。……お兄様、もしかして、もしかして! ミアに気があるの? まぁ、ミアはすごく人気のある令嬢で、いい子だからお兄様が興味をそそられるのもある意味納得だけれど……。でも、ミアにはバネルヴェルト公爵という婚約者がいるのよ!
「……おい、アナスタシア。言っちゃあ悪いが、俺はミア嬢に恋愛感情を抱いているわけではないぞ。単に、興味があるだけだ」
しかし、どうやら私の考えは筒抜けだったらしく、お兄様は額を押さえながらそうおっしゃった。……バレていたか。そう思って私が「申し訳ございません」と謝罪をすれば、お兄様は「いや、構わない」と返事をくださった。でも、何処となくお疲れの様子。……あ、原因私か。
「まぁ、アナスタシアもいろいろと思うことがあるのだろうからな。俺の婚姻についても、心配してくれているのだろうし」
「……それは」
「だが、俺としても生涯の伴侶を選ぶ権利はある。……お前に口を出されることじゃないさ」
とんとんと書類を整理されながら、お兄様はそうおっしゃった。……どうやら、ジェニファー様とのことはお断りするらしい。……私も、本音はそっちの方が嬉しいのよ。そこら辺は、あまり私が口に出してはいけないことだろうから、出さないけれどさ。
「さて、ミア嬢。エセルバードの方からも聞いているが、襲われたんだってな」
「……はい」
「その相手の情報を、覚えている限りでいい。詳しく教えてくれ。参考になるだろうからな」
「かしこまりました」
お兄様のお言葉に、ミアはそう返して襲ってきた人物たちの情報をゆっくりと述べていく。……これが、何の参考になるのかは分からない。でも、多分その人物を捜し出して命令されたかどうかとかを、問いただすということだろうな。もしも、その人物たちが宰相に指示をされたと口を割れば、力は弱いけれどある程度の証拠にはなるだろうし。
「……アナスタシア様」
私が呆然とお兄様とミアのことを見つめていれば、不意にロイドが声をかけてくる。そのため、私がロイドの方に視線を向ければ、彼は少し微妙そうな表情を浮かべていた。……一体、どうしたのかしら?
「……どうしたの?」
「い、いえ、先ほどから妙な視線を感じておりまして……」
それは一体、どういうこと? 私には感じられないけれど……って、いうかロイドは勘が鋭いものね。普通の人じゃ感じられないものも、ロイドならば感じ取ることが出来る。私は彼のこういうところを気に入っていたという部分も、強い。
「……何処か、狂気を纏ったような――」
ロイドが、そう言いかけた時だった。突然執務室の窓を突き破って、一羽のカラスのような鳥が執務室に入ってきたのだ。そのカラスは窓を突き破ってきたにも関わらず、怪我一つしていない。……多分、生き物じゃないわね。
「アナスタシア様、下がっていてください」
私のことを庇うようにロイドが前に出れば、そのカラスのようなものはロイドのことをまっすぐに見つめた……ような気が、した。その後、自身の首にかけられていた一通の手紙のようなものを置いて、また窓から飛び立ってしまう。……一体、何だったのかしら? そう思っていれば、そのお手紙のようなものは私の方目掛けて――飛んできて。
「い、いや! どうしてお手紙が飛ぶのよ!」
思わず、そう叫んでしまった。
そして、それを見たニーナが「アナスタシア様!」と言って慌てて私の方に飛びついてきて。そのおかげか、私は床に背中を打ち付けてしまう。……でも、お手紙を躱すことは出来たわ。うん。だけど、ニーナ。あのね……。
「ねぇ、ニーナ。ちょっとでいいから、勢いを殺してほしかったわ……」
打ち付けられた背中が、とても痛いのよ。
久々の更新+短めで申し訳ございません……(o*。_。)oペコッ




