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聖女の限界


「……アナスタシア様」


 ミアの戸惑ったような声が、私の耳に届く。ミアが驚くのは当然。そりゃそうだ。私は今までミアに強い口調で命令をしたことはない。確かに今までの私……というか、アナスタシアだったならばそう言うのは当たり前。だけど、最近の私は変わった。ミアは、変わった後の私しか知らないから、驚くのは普通なのだ。


「ミア、良いこと? これは貴女の為だけれど、私の為でもあるの。……ほら、私って自分ファーストな王太子妃様だから」

「……アナスタシア様」


 私の言葉を聞いて、ロイドが少し冷めたような視線を向けてくる。それを私はにっこりとした視線だけでねじ伏せ、座っているミアと視線を合わせ、じぃーっと彼女を見つめた。……そうすれば、ミアは観念したのかゆっくりと息を吐いた後「お話します」と言ってくれた。


「正直、その手紙には祖母の形見のことよりも、大切なことが書かれていました。……その」

「何かしら?」

「……その手紙には、『お前の主の秘密をバラす』と書いてありました」


 目を伏せて、ミアは言いにくそうに私にそう教えてくれた。……ミアの主、つまりは私の秘密ということね。……うーん、秘密がありすぎてどれなのか迷って困る。でも、多分前世の記憶のことよね。……はっきりというと、それをバラされるとかなり困る。だって、ウィリアム様も同罪で罪に問われちゃうし。


「なので、私は……その、アナスタシア様のことを……」

「ミア。一つ訊くけれど、貴女は私のことをどう思っているの?」

「……それ、は」


 手のひらを膝の上でぎゅっと握り締めたミアに、私はそう問いかける。けど、直球に問いかけすぎたかもしれないわ。そう反省し、私は「別に答えたくなかったら答えなくてもいいわよ」という、フォローにもなっていないフォローをつけ足す。そうすれば、ミアは露骨に私から視線を逸らした。……やっぱり、本人を目の前にして言えるわけがないわよねぇ。これじゃあ、図々しすぎたわ。本当に反省。


「でも、私のことを守ってくれようとしたのよね。……ありがとう」


 だけど、それだけは分かった。だから、私はミアに向かって出来る限りふんわりと見えるような笑みを浮かべて、お礼を告げた。正直、いろいろと思うことはあるし、ミアを傷つけられたことは許せない。でも、少しだけ、ほんの少しだけよ? ……嬉しいって思った。ミアが、私のことを守ってくれようとしたという真実が。……縁起でもないから、口には出さないけれど。


「アナスタシア様。そろそろ……」

「……そうね」


 そんな時、ロイドに耳打ちされて、私はさすがにここに長居するわけにはいかないということを思い出す。ここは病人や怪我人が治療を受ける場所。元気な私は邪魔者だ。そのため、おじいちゃん医者にミアのことを任せて、まずはお仕事を片付けてしまおう。その後、またミアからお話を聞く。これで、いい。


「じゃあ、ミア。また来るわ。……ロイド、いったん戻りましょう」

「かしこまりました」


 最後にミアに向かって手を振って、私は医務室を出て行く。さて、いろいろと考えることが山積みねぇ。


(まず、秘密をバラされたらこの国の王位継承問題に関連しちゃうのよ……! だから、なんとしてでも隠し通すに限るのよね……!)


 ウィリアム様まで罪に問われたら、本当にいろいろと問題大あり。私だけが罪に問われるのならば、まだマシなのだけれどなぁ。こうなったのも、全てウィリアム様がそう言う選択肢を取った所為……!


「……ロイド、今のお話、どう思う?」


 まずは、頭の中を整理しなくちゃ。そう思って、私はロイドにそう声をかける。そうすれば、ロイドはしばし考えたのち「……いろいろと、問題が大きくなり始めていますね」と答えを出してくれた。……私と、同じ考えか。


「アナスタシア様の人格……につきましては、その、バレた場合のデメリットが……」

「そうよねぇ。はぁ、でも、一つだけ言えることがあるわよね」

「……アナスタシア様?」

「――私はね、大層厄介な王太子妃で聖女なのよ。……自分の懐に入れた人間は、大切にしちゃう性質よ?」

「さようでございますね」

「だから――」


 ――犯人を捕まえて、コテンパンにやっちゃおうと思うのよ。


 私が怪しげに笑ってそう言えば、ロイドは「……まぁ、それには同意します」と目を閉じて言ってくれた。ロイドも、なんだかんだ言ってもミアのことが大切なのよね。ロイドも、懐に入れた人間を大切にする性質だから。


「さぁ、こうなったら私の本気を見せて差し上げるしかないわね。……行くわよ、ロイド。この事件の黒幕をひっとらえて、さっさと裁いちゃいましょう!」

「……そのためには、様々なお方に協力を要請する必要がありますね」

「お兄様は、任せて頂戴。私のお願いは断らないから」


 とりあえず、私の方は我慢の限界だった。やはり、まずはお兄様に協力を要請しましょうか。


(私の本気、見せてあげようじゃない! ……私に喧嘩を売ったことを、地獄の底で後悔することね)


 心の中でそうぼやいて、私は山積みの書類の元に戻るのだった。

久々の更新になってしまいました……(o_ _)o))

もうすぐ第一章が終わります。引き続きよろしくお願いいたします……!(n*´ω`*n)


(五月いっぱいは不定期更新を続行します、ご了承ください)

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悪役令嬢離縁表紙イラスト

悪役令嬢離縁表紙


― 新着の感想 ―
[気になる点] 恐怖によって防衛本能が働き人格が変わることや頭を打って人格が変わる場合、記憶喪失で1から人格作られる場合など色々あると思うけどなぜ人格が変わったことが罪に問われるんだ?人格が変わっても…
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