聖女と新米(?)侍女
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「あー、なんでこんなにも仕事が多いのよ!」
そんなことを叫んだところで、仕事が半減するわけではない。分かっている。分かってはいるけれど……人には限界ってあるじゃない!
王太子妃としての仕事。聖女としての仕事と訓練。他、諸々。しかも、仕事の量は聖女選定の儀が近づけば近づくほど、増えている。……ねぇ、ちょっとは手加減してくれてもいいんじゃない?
(こんな風に仕事ばかりになると、離縁欲求が……)
ペンを持ったまま、頭を抱える。本来の予定ならば、今頃スローライフを満喫しているはずだった。なのに、蓋を開けてみれば王太子妃やら聖女やらの仕事に追われている。ちょっと前まで出来ていたお茶をする余裕も、ここ数日ありゃしない。
ミアを専属侍女として雇って二週間。聖女選定の儀は着々と進んでいる。今のところ、ミアに手出しをする人物はいない。常にニーナかロイドを側に付けているので、手出しをすることが出来ないというのが正しいのかもしれないけれど。しかしまぁ……不気味と言えば、不気味よねぇ?
(そろそろ、何かが動き出しそうな気もするから……早めにクラウスと予定を合わせなくちゃ)
情報通のクラウスを呼んでいるのだけれど、まだ会えない。彼は今ウィリアム様の専属従者を辞めるための引継ぎ作業に追われている……らしい。ちなみに、次は領主という仕事に就く予定だ。婚約者と一緒に田舎に引っ込むとか何とか。う、羨ましい……!
「アナスタシア様。こちら、ロイドさんから預かってきました追加のお仕事と、お茶でございます」
「……ありがとう」
そんな時、不意に上から声が降ってくる。その方に視線を向ければ、そこにはすっかり侍女服が馴染んだミアが、いた。ミアは私の横にある書類の束に新しい束を積む。その後、書類とは逆隣りにお茶を置いてくれた。……ねぇ、ロイド。最近貴女ちょっと私に厳しくない?
「お疲れ、ですか?」
「まぁね。こんなにも書類を山積みにされたら、大変すぎて泣きそうよ」
そのほとんどは王太子妃のサインが必要なもので、人に丸投げすることも出来ない。きちんと中身に目を通して、サインをしなくちゃいけないし。中には結構な賭けの案件とかあるから、そこは後で話し合いに持っていく必要があるし。
「そう言えば、ニーナは?」
「ニーナさんならば、厨房に向かっております。厨房で、試作品のお菓子を貰ってくるとか……」
「そうなのね。……今日は、何かしら?」
ニーナは度々厨房で試作品のお菓子を貰ってくる。ちなみに、そのお菓子の大半は私の口に入る。最近仕事が忙しいと、手軽に食べられるものを選んできてくれるニーナは、本当に主思いだ。ウィリアム様とか、お兄様とかも私のことを労わってくれてもいいのよ?
「ミア、仕事には慣れた?」
とりあえず、少しだけ休憩をするか。そう思った私は、お茶を口に運びのどを潤した後、ミアにそう問いかけた。そうすれば、ミアは「……まぁ、慣れたと言えば、慣れました……かね?」と微妙な返事をする。やっぱり、伯爵家の令嬢に侍女の仕事は合わないのかしら?
「ですが、とても働き甲斐のある仕事だとは、分かりました。ニーナさんもロイドさんも、良くしてくれますので……」
「そ、そう。まぁ、あの二人が何かをすることはないだろうけれど、何かあったら遠慮なく言って頂戴」
「はい」
ニーナははじめ、ミアのことが気に入らなかったみたいだけれど、最近ではうまくやっているよう。ロイドも同じ。三人ともうまくやっているようでよかったわ。
「あと、何か怪しいことがあっても報告して頂戴。貴女は自分の身を守るために、ここで働いているのだから」
「……はい」
私がそう続ければ、ミアは少しだけ眉を下げて返事をしてくれた。何か、思うことでもあるのかしら? そう思ったけれど、まだミアとはそこまで仲良くなっていない。だから、変に勘繰りを入れることも出来ないのよね……。まぁ、追々彼女とは仲良くなれればいいなぁって。
「さて、仕事を再開――」
「――アナスタシア様!」
私が仕方がないとばかりに書類を手にしたとき、不意に扉が開いた。何だろうか。そう思って私が勢いよく顔を上げれば、そこではロイドが慌てながら「聖女様が、いらっしゃいました」と教えてくれた。……聖女様って言うことは、私から見て「先輩の聖女様」よね?
「いきなり、どうなさったのかしら?」
「……なんでも、アナスタシア様にお話があるとか……」
私の素朴な疑問にロイドはそう答えてくれる。……お話、か。正直、嫌な予感しかしないけれど。あぁ、何かが起こる予感がするわ。
「分かりました。ロイド、ミア。お茶の準備を」
でも、まずは仕事を中断して聖女様をもてなさなくちゃね。そう思った私は、ロイドとミアにそう指示をするのだった。
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