聖女の新たな専属侍女
(まぁ、しかし。ミアは可愛らしさも美しさも兼ね備えた、素晴らしい容姿ね……)
肩の上までで切りそろえられた栗色の髪はさらさらとしている。前世で言えばボブみたいな感じだろうか。その瞳の色は深い青。形はおっとりとして見える。……私とは違い、どこか馴染みやすい容姿でもある。
見る人によっては、ミアは可愛らしくも美しくも見えるだろう。それぐらい、彼女にはとても魅力があった。……あと、結構侍女服が似合っている。
「これから貴女の主になる、アナスタシア・ベル・キストラーよ。よろしくね、ミア」
私が椅子に腰かけたままそう言えば、ミアはその表情を少しだけ緩めて「よろしくお願いいたします」ともう一度言ってくれた。それを見てか、バネルヴェルト公爵はミアのことを手招きする。
「ミア。この女は要注意人物だが……それでも、まだ信頼できる奴だ。だから、俺に相談しにくいことは全部この女――王太子妃サマに、相談しろ」
「……はい」
ミアはそう言って、また一礼をする。……でもね、あのね、バネルヴェルト公爵? 貴方は不敬罪って言う言葉を、知っていらっしゃいますか? 私仮にも王太子妃なのだけれど……。あと、元は公爵令嬢ですからね!
「じゃ、俺は帰るわ。この後王太子サマに呼び出されているしな。……じゃ、ミア。きちんとやれよ」
「承知しております、エセルバード様」
バネルヴェルト公爵に数回頭をポンポンとたたかれたミアは、また少しだけ表情を緩めて一礼をした。……うん、信頼し合っているのね、あの二人。いやはや、私たちのところとは大違いだわ。ついこの間まで、私たちは邪険な関係だったのだもの。……今は、ビジネスパートナーとして生きているけれど。
「ミアは、侍女の仕事について知っているのかしら?」
「……少しは調べたり聞いたりしましたが、詳しいことは……」
「じゃあ、ニーナに教えてもらって。ニーナは私の専属侍女なの。いいわね、ニーナ?」
「はい、アナスタシア様」
さすがは出来た侍女と言うべきか。ニーナは文句ひとつ言わず、いい返事をしてくれた。……先ほどまで、文句不満ばかりだったのにね。まぁ、ニーナのそう言うところも、私は好きなのだけれど。
「えっと……ミア、様とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「いえ、呼び捨て、もしくはさん付けぐらいで構いません。顔が知られているとはいえ、様付けされてはいろいろとややこしいことになりそうですので……」
「そうですね。では、ミアさん」
ニーナはそう言って、ミアを連れて移動する。どうやら、さっそく仕事について教える様だ。ニーナがミアを連れて行くと、残されるのは自然と私とロイドだけ。ロイドに視線を向ければ、ロイドは「……アナスタシア様」と私の名前をゆっくりと呼んだ。
「何かしら?」
「いえ、一応必要かと思いまして、先ほどのミアさんの情報を手に入れております。……こちら、どうぞ」
ロイドは懐から数枚の紙を取り出し、私に手渡してくれる。……うん、さすがは敏腕従者ね。私がやらなくちゃと思っていたことを、先にやっておいてくれる。……でも、そうなると私の出る幕がないような気も、する。
「……ミア・クラーセン、か」
クラーセン伯爵家の国での立場は中堅貴族と言ったところ。どの派閥にも属さず、完全に中立である。そんな彼女が聖女候補に選ばれたのも、やはり光の魔力が強いから。ここら辺は、ほとんどアナスタシアと同じ理由ね。
(家族構成も手に入れていた情報と同じ。バネルヴェルト公爵と婚約した時期も、同じ。ただ一つ気がかりなのは――)
彼女が、襲われたという時期。その時期は、結構前だった。この時期だけ見るに、一人目の聖女候補が辞退した時期に近い。簡単に言えば、襲われたのは二番目である可能性があるということ。
(でも、ミアは辞退しなかった。……なぜなのかは分からないけれど、それだけでも彼女は強いわ)
大怪我を負っていないとはいえ、襲われたのだ。間違いなく、怖いはず。それでも、彼女が聖女候補を辞退しなかったのは……バネルヴェルト公爵が支えたからなのか。はたまた、彼女の意思の強さなのか。それは分からないけれど、彼女のことを守らなくちゃいけない理由は、分かる。
「ロイド。近いうちにクラウスを呼んで頂戴。また、いろいろと情報を買うわ」
「かしこまりました」
ロイドは私の言葉に返事をくれて、従者の一礼をした。宰相の悪事や企みは止めなくちゃいけないことだ。だってそれが――人の上に立つ者の務めでしょう?
(それから、ジェレミー様の行方も、調べなくちゃ)
事件を起こして、その後行方不明になってしまったアナスタシアの義弟。彼のことは許せないけれど……でも、もう一度でいい。しっかりと、話がしたい。それが、私の望みだった。
またしばらく二日に一回ぐらいの更新ペースになりますm(_ _"m)よろしくお願いいたします!




