聖女へのお願い
「ま、待ってください! わ、私が力不足だとおっしゃりたいのですか……!?」
「そう言うわけではない。ただ……これからのことを考えて、だ」
ニーナはウィリアム様に詰め寄りながら、そんなことを言う。……ニーナは、最近ウィリアム様がかなりのお人好しだと理解したらしく、ちょっぴり無礼な態度と言動をするようになった。それを、私は立場上咎めるべきなのだろうけれど、私のためにしてくれていることも多いので咎めることも出来なかった。
「アナスタシア。これは極秘情報なのだが……もう一人の聖女候補、ミア嬢も、すでに襲われているんだ」
「……さようでございますか」
「だが、バネルヴェルト公爵が咄嗟に助けたため、大事には至っていない。でも、このまま終わるわけがない」
ウィリアム様はそうおっしゃると、ロイドが出してきたお茶に手を付けられる。ニーナは「わ、私必要ないの……?」なんてぶつぶつとぼやいているので、使い物にならなくなってしまった。あとで、フォローをしておかなくちゃいけないわね。あの子、私のことになるととんでもなく取り乱すから。
(バネルヴェルト公爵。……エセルバード・バネルヴェルト様のことよね。私がすっかり忘れていた、乙女ゲームの四人目の攻略対象でもある男性)
私はそんなことを脳内で整理しながらも、ウィリアム様を見据えた。そうすれば、ウィリアム様は「……そのため、しばらくの間王宮で預かることにした」とおっしゃる。
「それが、何故私の専属侍女ということに……?」
「そりゃあ、何の理由もなく預かることが出来ないからだな。しかし、専属侍女として住み込むのならばきっちりとした理由が出来る。それに、バネルヴェルト公爵が権力を使って『ミアを王太子妃サマの専属侍女にしろ』と迫ってきた。……あの男は、敵に回すとそれはそれは面倒だ」
「……だから、その要求をのんだと……?」
冷たい視線でウィリアム様を見つめれば、ウィリアム様は「コホン」と露骨に咳ばらいをされ、「ま、まぁ、良いじゃないか」なんておっしゃる。いや、ウィリアム様からすればそれは「いい」ことなのかもしれない。でも、私としては問題大ありだ。ニーナが、しょぼくれちゃうじゃない。あと、ロイドも。
「旦那様。お言葉ですが、私にはニーナとロイドがいます。……彼らの仕事を、奪うことは出来ませんわよ?」
お茶を飲みながらそう言えば、ウィリアム様は「……そうだが」とおっしゃり憐みの視線をロイドに向けていらっしゃった。大方「お前は少しは自重しろ」とおっしゃりたいのだろう。でも、ロイドは涼しい顔で「アナスタシア様には俺とニーナがいるので、問題ありませんよね?」なんて言っていた。その後、素晴らしいほどの笑みを浮かべる。
「……だがな、アナスタシア。どうか、頼まれてくれないか? そうしないと……俺の立場が、危うい」
「そうですね」
確かに、今のウィリアム様は中間管理職みたいな立場だ。そりゃあ、辛いわよね。でも、専属侍女を増やすわけにもいかないしなぁ……。期間限定だったとしても、ニーナがしょぼくれる。ニーナの仕事を奪うわけにもいかない。しかし……。
「……はぁ、分かりましたわ。ここは、私が一肌脱ぎましょう」
とりあえず、ミア様を期間限定の侍女として受け入れよう。その後、ニーナとの相性を見てからいろいろと考える。もしかしたらニーナも仕事が大変だと思っている……かもしれないし。
(いや、ニーナの場合はどちらかと言えば私を独占出来て嬉しいと思っている気がするわ……)
うん、絶対にそうだわ。ニーナはアナスタシア至上主義。どこへ行くにもついていきたいタイプ。ついでに、独占したいタイプ。だけど、彼女の身体のことも心配だしね。ここは、心を鬼にして……。
「旦那様のお立場が辛そうなので、ミア様を期間限定の侍女として受け入れます。ですが、そんなにお仕事はありませんよ?」
「それでいい。ミア嬢も伯爵家の娘だからな。侍女の仕事には慣れていないだろう。アナスタシアの側に置いておくだけでいいんだ」
「さようですか」
……それって、お飾り夫人ならぬお飾り侍女じゃあ……。そう思ったけれど、余計なことを言うつもりは一切ない。後ろで不貞腐れるニーナを、何とかしないといけないのも、また追々。
「……それから、俺はこの聖女選定の儀で宰相の不正の証拠をつかむことにした。これ以上奴を長々と泳がせていくにもいくまい。だったら、さっさと勝負を決める」
「そうでございますのね。ちなみに、お兄様にこのことをお伝えしましたの?」
「……いや、まだだ」
ウィリアム様は私の問いかけに、視線を逸らしてそんな風に答えられる。お兄様が、相当怖いのね。まぁ、お兄様への伝言ぐらい私が肩代わりしておいてあげるか。
「では、お兄様へは私の方から伝えさせていただきますわね。……ちなみに、次の宰相は決まっておりますの?」
「いや、まったく。出来れば……お前の兄、に、したい……」
「まぁ、お兄様大出世」
手をパンっとたたいて私がそう言えば、ウィリアム様は「……はぁ」と露骨にため息をつかれた。あ、またブラコンだって思われたわね。まぁ、真実だから仕方がないわよね!
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