聖女と新たなる事件の始まり
「ニーナ」
「はい、アナスタシア様」
とある日の午後。私は王宮の一室にて、のんびりとお茶をしていた。私の専属侍女のニーナと、専属従者のロイドはいつものように側に控えてくれている。ニーナにお茶のお代わりを要求し、私は膝の上に置いている本の一ページをめくった。
私の名前はアナスタシア・ベル・キストラー。このキストラー王国の王太子ウィリアム・ベル・キストラー殿下の妻である。……しかし、私には普通とは違うことがある。それは……前世の記憶を持っているということだ。
しかも、この世界はとある乙女ゲームの世界であり、私はその乙女ゲームの『悪役令嬢』だった。まぁ、いろいろとあり今は無事メインヒーローのウィリアム様と婚姻し、王太子妃兼聖女として生きているのだけれど。それが嬉しいのか悲しいのかは、よくわからない。
旦那様であるウィリアム様ともまぁまぁな関係を築け始めた。……この関係を手っ取り早く言葉にするならば『ビジネスパートナー』という言葉が実際ピッタリなのだろうけれど。
(……平和……とは、程遠いのだけれど)
でも、実際はいろいろと頭痛の種がある。宰相を始めとした、一部の大臣たちの不穏な動き。第二王子であるジェレミー殿下の消息。けど、それよりも――……。
(……関係が変わったとはいえ、ウィリアム様が鬱陶しいのよね……)
ここ数ヶ月。ウィリアム様が鬱陶しい。あれは何だ。これは何だ。そんなことを、問いかけてこられるのだ。学ばれるとは、素晴らしいことだ。だけれどさ……ちょっとは、勘弁してくれないだろうか? あと、お兄様の愚痴は私に言わないでほしい。どうか、直接お願いしたい。
「アナスタシア、いるか!?」
……噂をすれば、なんとやら。私の穏やかな午後の休暇を邪魔する一人の男性。私のことを「アナスタシア」と呼び捨てで呼ぶ男性は、この世に二人。私が最も敬愛するお兄様と、ウィリアム様だけ。
「……最近思うのですが、もう少し穏やかに登場は出来ませんの?」
お茶を一口飲んでそう言えば、ウィリアム様は「悪いな」と悪びれた風もなく、私の目の前の椅子に腰を下ろされる。……いや、座ってもいいという許可を出した覚えはないのですけれど? そう思ったけれど、この人に意見をしても無駄である。
「無理、だな。あと、一大事だ。……また聖女候補の一人が、襲われ大怪我を負った」
「……はい?」
ウィリアム様のそのお言葉に、私はカップを落としてしまいそうになる。
キストラー王国の一大行事、『聖女選定の儀』。その行事ではその年の聖女を選ぶ。ちなみに、私は去年の聖女。去年の『聖女選定の儀』はいろいろとあった。しかし……今年の『聖女選定の儀』はそれ以上にとんでもないことになりそうなのだ。
「……その聖女候補も辞退を申し出ている。これで、二人目だ」
「さようでございますか」
毎年聖女候補に選ばれるのは二人から四人。今年は最大人数の四人だったのだけれど……そのうち一人はすでに大怪我を負い、辞退を申し出ている。そして、今のウィリアム様のお言葉を聞くに……二人目の辞退者が出たようだ。
「これで、今年の聖女候補は二人になった。ミア嬢とユージェニー嬢だ。……しかも、ユージェニー嬢はあの宰相の娘だからな……」
「そうでしたね」
この国の裏を牛耳っている、宰相デイミアン・エース。その娘ユージェニー・エースが、今年の聖女候補に選ばれてしまった。しかも、他の聖女候補が二人も辞退を申し出ている。……これは、無関係とは思えないわよねぇ。
「もしかしてですが、宰相は自分の娘を聖女にするために、他の聖女候補を襲っているのでは?」
「……あり得るんだよな、それ」
ウィリアム様はそんなことをおっしゃって、ニーナにお茶を要求される。それを見たニーナは、少し不満そうになりながらもお茶を淹れに向かった。……ニーナは、私への忠誠心は素晴らしいのだけれど、それ以外の人物には少々手厳しいところがある。ウィリアム様には特に。
「というわけで、アナスタシア。人助けだと思って、ここはひとつ頼まれてくれないか?」
「えっと、それは?」
「――一人、専属侍女として雇ってくれ」
「はいぃ!?」
そして、ウィリアム様のそんなお言葉に絶叫したのは私……ではなく、ニーナだった。何故ニーナが絶叫するのか。そんな物は簡単である。……ニーナは、私の身の回りの世話をすべてやりたいのだ。メイドの仕事さえ奪ってしまう。それが、ニーナという侍女なのだ。
書籍発売まであと少しです(n*´ω`*n)毎日更新二日目。よろしくお願いいたします。




